オーストラリア首都特別地域が違法薬物を非犯罪化

オーストラリア首都特別地域が違法薬物を非犯罪化

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首都キャンベラを含むオーストラリア首都特別地域(ACT)は10月28日より、アンフェタミンやコカインなど9種類の違法薬物の少量所持を非犯罪化。もはやこれらの違法薬物の少量所持が発覚したとしても、自動車のスピード違反などと同様、刑罰を課せられることはありません。

オーストラリア首都特別地域の議会は昨年10月、個人使用目的での違法薬物の少量所持を非犯罪化する改正法案を可決。施行までは12ヶ月間の猶予が設けられ、今年10月28日より施行となりました。

この新たな薬物政策はハームリダクションの考え方に基づいています。違法薬物を使用する人々を刑事司法制度から遠ざけ、必要な医療サービスや支援を提供することで、薬物による害を最小限に抑えることを目的としています。

今回の改正法で非犯罪化された違法薬物と各々の少量所持の定義は、以下の通り。

アンフェタミン:1.5g以下
メタンフェタミン:1.5g以下
コカイン:1.5g以下
MDMA:1.5gまたは5回分(DDU)以下
ヘロイン:1g以下
リゼルグ酸:0.001gまたは5DDU以下
LSD:0.001gまたは5DDU以下
シロシビン:1.5g以下
大麻:乾燥大麻で50g以下、大麻草全体で150g以下

※大麻の少量所持に関しては、18歳以上の成人において合法となっているため、未成年にのみ適用される。

個人が上記の違法薬物を2種類所持している場合、それぞれの所持量が少量所持の範囲内に収まっていれば犯罪とはなりません。

より複数の違法薬物を所持している場合では、その合計量が少量所持として規定されている量の合計200%を超えていなければ、刑罰の対象外となります(例えば、アンフェタミン1.5g、コカイン0.75g、MDMA0.75gの所持では犯罪とはならない)。

違法薬物の所持が発覚した場合、それらの薬物は没収され、特定の違法薬物の少量所持かどうかを判断するために検査と計量が行なわれます。その後、改正法で定められた違法薬物の少量所持と判断されれば、キャンベラ保健サービス(CHS)の保健セッションが紹介されます。

これに応じない場合は軽犯罪薬物通知(SDON)が発行され、60日以内に100豪ドル(約9,700円)の罰金を支払うか、改めて保健セッションへの参加が求められます。これ以上の措置はとられず、前科がつくことはありません。

保健セッションの所要時間は1時間程度。健康状態の評価や、問題のある薬物使用に対する支援や早期介入の必要性を調べるスクリーニングが行なわれます。また、薬物使用の害を最小限に抑えるための情報も提供されます。

一方、違法薬物の密売や売人に対しては厳罰が課せられます。少量所持を超える違法薬物の所持や薬物の影響下での自動車の運転についても、これまで通り犯罪となります。

また、違法薬物を少量所持していた場合でも、他の犯罪との関連が発覚した場合には、起訴される可能性が高くなります。

今回の改正法は施行から2年が経過した時点で、独立機関による見直しが行なわれる予定です。

オーストラリア首都特別地域のデービット・ポーコック(David Pocock)上院議員は「スティグマは何世紀にも渡って薬物依存者たちを殺してきました」「これらの問題は深刻です。多くの人々が薬物やアルコールのせいで愛する人を失っています」と発言

オーストラリアにおけるハームリダクションの第一人者であるクリス・ゴフ(Chris Gough)氏は、違法薬物の非犯罪化について「社会が薬物使用者を見捨てずに、理解し、より良くなるように支援することです」と述べました

なお、オーストラリア首都特別地域は2022年7月より、違法薬物に含まれる成分を検査できるサービス「CanTEST」も試験的に開始。このサービスでは、全ての人が無料で違法薬物の品質検査を受けることができ、予期せぬ事故を未然に防ぐことが可能となっています。

また、オーストラリアは今年7月1日より、PTSDに対するMDMA治療、難治性うつ病に対するシロシビン治療を合法としています

これまでの薬物政策は「麻薬戦争」とも呼ばれ、刑罰による取締りが主流でした。しかし、近年ではこのようなアプローチでの薬物使用者は増え続けているだけでなく、健康被害や人権侵害を拡大させていることが指摘されています

そのため、世界はこれまでの懲罰的な薬物政策を”誤り”とし、薬物使用者の健康支援と人権保護に基づいた新たな薬物政策への変更を求め始めています。

国連の人権機関である「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)」は今年の国際薬物乱用・不正取引防止デーに先駆け、違法薬物の非犯罪化を「緊急の課題」とした声明を発表。この声明は国際社会に対し、薬物使用者に対するアプローチを「刑罰」から「支援」へとシフトさせることで、全ての人の人権を尊重・保護する政策を推進することを強く求めています。

同機関は9月、違法薬物使用者に対する懲罰的なアプローチは薬物関連問題の解決策とはならず、逆に公衆衛生の悪化や人権侵害などさらなる害をもたらすとした報告書も発表しています

世界薬物政策委員会(GCDP)の委員長及び元ニュージーランド首相であるヘレン・クラーク氏は4月、違法薬物の非犯罪化に対し支持を表明

アメリカでも「米国依存医学会(ASAM)」や「米国薬剤師会(APhA)」といった権威ある医療関係団体が、違法薬物の非犯罪化を支持する立場を明らかにしています。

ポルトガルはこのような薬物政策のパイオニアであり、2001年に違法薬物の少量所持を非犯罪化。これらの政策により、薬物使用レベルや未成年による薬物使用の減少、薬物の過剰摂取や注射器を介したHIV感染の大幅な減少につながったことが報告されています

カナダのブリティッシュコロンビア州は今年の1月31日から3年間、コカイン、ヘロイン、モルヒネ、フェンタニル、メタンフェタミン、MDMAの少量所持を非犯罪化するトライアルを実施中

スコットランド政府は7月、ハームリダクションを基本原則とした「思いやりと人権に配慮した薬物政策」の実施をイギリス本国に求めました

ATC government「Nation leading drug reform for the ACT」https://www.cmtedd.act.gov.au/open_government/inform/act_government_media_releases/rachel-stephen-smith-mla-media-releases/2022/nation-leading-drug-reform-for-the-act

ATC government「ACT Drug Law Reforms」https://www.health.act.gov.au/about-our-health-system/population-health/drug-law-reform

Australian Broadcasting Corporation「The ACT has today decriminalised small amounts of some illicit drugs. But what does that mean?」https://www.abc.net.au/news/2023-10-28/canberra-drug-decriminalisation-laws-begin-today/103032128#

Australian Broadcasting Corporation「WA senator Michaelia Cash fails to override incoming ACT drug-decriminalisation laws, which she likens to ‘parking fine scheme’」https://www.abc.net.au/news/2023-10-19/senator-michaelia-cash-fails-to-overthrow-act-drug-laws/102995412

Marijuana Moment「Drug Decriminalization Law Takes Effect In Australian Capital Territory」https://www.marijuanamoment.net/drug-decriminalization-law-takes-effect-in-australian-capital-territory/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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