米国依存症医学会、薬物の非犯罪化・前科抹消を支持

米国依存症医学会、薬物の非犯罪化・前科抹消を支持

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7000名以上もの医師や依存症専門家を有する医学会であるアメリカ依存医学会(ASAM:the American Society of Addiction Medicine)は2月9日、「ヘルスケアを超えた、人種的正義に関する公共政策声明」の最終パートを発表。この声明は3部構成で成り立っているため、今回発表されたのは3部目ということになります。

今回の3部目の声明では、現在の薬物政策がもたらしたスティグマや人種差別、物質使用障害(薬物依存症)のための治療アクセスへの影響に対処するため、公衆衛生のあり方や法改正の必要性について述べられています。

この声明によれば、薬物を犯罪と扱う現在の政策は、薬物を使用する集団に負のレッテルを貼り、孤立させ、権力や地位を奪う「構造的なスティグマ」をもたらしているとしています。これにより、薬物使用者は住居、教育、社会的支援、雇用、医療など、健康と幸福に影響を与える様々な資源へのアクセスが妨げられており、特にこの負の影響は黒人、先住民、有色人種において顕著であると述べられています。

アメリカ依存医学会は「現状を是正するためには、構造的な解決策が必要である。公衆衛生を優先し、懲罰による措置を最小限に抑え、全ての人々の生活の質を向上させるための道を切り開く支援システムの再構築を目指すべきである」とし、以下のような提案をしています。

・個人使用目的での薬物や薬物関連の道具一式の所持に対する刑事罰や重い民事罰を、関連する公衆衛生や法改正の一部として撤廃する(薬物の非犯罪化を法制化する)。

・低所得者に対する公的支援や教育への経済的支援プログラムを受けるための要件として、薬物による有罪判決の有無や薬物検査を含めることを廃止する。

・非暴力の薬物関連の活動を理由として、住宅供給を禁止することや、立ち退きを求めることを廃止する。

・支払い能力に関係なく、全ての人が、エビデンスに基づいた依存症ケアに公平にアクセスできるような医療保障を実践する。

・依存症ケアにおける人種的正義を推進するための擁護基盤や組織に対し、投資を行う。

現在アメリカでは、薬物の過剰摂取による死亡者数が過去最高レベルとなっており、2021年8月〜2022年8月の間で、その数は107,000名以上にもなっています。

声明では、”薬物関連のスティグマは薬物使用の抑制に役立つ”という主張に対し、「スティグマの影響はそのような正の結果よりも、負の結果のほうが圧倒的に大きい」と述べられています。

また、アメリカ依存医学会は薬物の非犯罪化だけでなく、「薬物関連の犯罪記録の抹消も検討し、そういった前科を持つ人々が不利益を被ったままにならないようにするべき」ともしています。

なお、アメリカ依存医学会は単純に薬物の非犯罪化を推進するわけではなく、「現在違法として扱われている薬物へのアクセスを増やすような法改正は、慎重に考え、徐々に順次実施し、実施の各段階において科学的に評価する必要がある」と認識しています。

アメリカ依存医学会は2015年から大麻の非犯罪化を支持してきましたが、今回その対象が全ての薬物に拡大した形となりました。

州レベルにおいて大麻の合法化や非犯罪化が進む一方、2020年にはオレゴン州が、2022年末にはコロラド州がサイケデリクス(幻覚剤)を非犯罪化しています。

ニューヨーク州とマサチューセッツ州は今年、薬物を非犯罪化する法案を提出しています

カナダのブリティッシュコロンビア州では今年1月31日より、特定の薬物を3年間非犯罪化するトライアルが実施されています

American Society of Addiction Medicine「Racial Justice Beyond Health Care: Addressing the Broader Structural Issues at the Intersection of Racism, Drug Use, and Addiction」https://www.asam.org/advocacy/public-policy-statements/details/public-policy-statements/2023/02/09/racial-justice-beyond-health-care-addressing-the-broader-structural-issues-at-the-intersection-of-racism-drug-use-and-addiction

American Society of Addiction Medicine「ASAM Releases Final of Three Public Policy Statements Addressing US’ Broader Structural Issues at the Intersection of Racism, Drug Use, and Addiction」https://www.asam.org/news/detail/2023/02/09/asam-releases-final-of-three-public-policy-statements-addressing-us-broader-structural-issues-at-the-intersection-of-racism-drug-use-and-addiction

Marijuana Moment「Top Addiction Doctors Group Backs Drug Decriminalization And Expungements In Another Departure From Prohibitionist Roots」https://www.marijuanamoment.net/top-addiction-doctors-group-backs-drug-decriminalization-and-expungements-in-another-departure-from-prohibitionist-roots/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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