米ニューヨーク州とマサチューセッツ州それぞれにおいて、薬物を非犯罪化する法案が最近提出されました。これらが可決し施行されれば、薬物を所持・使用したからといって刑事罰に処されることはなくなります。
薬物に馴染みのない人からすると「それって大丈夫なの?」となるかもしれません。
ですがこの政策は、薬物使用者を「処罰」ではなく「支援」の対象とする、「ハームリダクション」という新たな薬物政策アプローチのもとに成り立っています。
マサチューセッツ州の法案
民主党の下院議員サム・モンターニョ氏は、薬物の所持による刑事罰を廃止するとした法案を提出。
薬物の所持が発覚した場合、罰金や懲役刑といった刑事罰の代わりに、健康支援やその他必要なサービスを特定するためのスクリーニングを受ける必要があります。具体的なサービスとしては、物質使用障害(依存症)や心の健康問題への対応、雇用や衣食住の支援、無料の法律相談など、包括的な内容が含まれます。
これは薬物使用者に治療を強要するものではなく、リハビリテーションの介入の必要性や、薬物使用の原因となりうる社会的・経済的要因における支援の必要性を調べるための「スクリーニングを受けること」を義務化するものです。スクリーニングを受けたからといって何かが勝手に承認されたり、発行された事実に基づいて法的な判断が下されるといったことはありません。
薬物の所持が判明してから45日以内に、スクリーニングを受けた証明書を提出すれば、裁判所からの召喚が免除されることになります。
なお、マサチューセッツ州では最近、この法案とは別にシロシビン、DMT、メスカリン、イボガインといったサイケデリクス(幻覚剤)を非犯罪化する法案も提出されています。
ニューヨーク州の法案
民主党の上院議員グスタボ・リベラ氏は、薬物所持に対する刑事罰や民事罰を廃止し、さらなる改革を目指すタスクフォースを設置することを盛り込んだ法案を提出。
この法案に添付されたメモには、以下のような記載がありました。
「ニューヨークや他の州は、薬物使用を道徳的過ちや犯罪として扱い、それによって何百万人もの人々が(物質使用障害という)病気であることを理由に汚名を着せられ、投獄されてきた。このような扱いは、がんや不安障害などの病気に苦しむ人に対する扱い方とは、全く正反対である。通常、これらの病気になった人は同情、支援、医療介入に値すると判断されるが、一方で物質使用障害の人は、軽蔑され、犯罪者とされ、支援や同情に値しない存在として扱われている」
「現存の法律は薬物の使用を予防する代わりに、個人、家族、地域社会を荒廃させている。薬物を犯罪として扱うことで、薬物使用者の生活は混乱し、不安定になる。死亡リスクの増加、感染症の蔓延、多くの投獄、家族の離別、住宅・雇用・その他の重要なサービスにアクセスできないといった事態を招く。(現行法は)生産性や雇用の低下をもたらす一方で、刑事訴訟制度、児童福祉制度、医療制度、保護施設などにおける支出を増加させており、莫大なコストのもとで成り立っている」
「このような高コストな政策では、薬物の使用を妨げることができないと明らかとなった今でも、同じ政策が続いている」
それ以外にも、薬物を非犯罪化した州やポルトガルなどの国では、依存症の汚名が返上されただけでなく、薬物の過剰摂取による死亡率が低下したとするデータについても触れられている。
法案自体には「この法案の目的は、規制薬物の個人所持に対する刑事罰と民事罰を廃止することにより、人命を守り、ニューヨーク州における薬物使用に対するこれまでのアプローチを、犯罪やスティグマに基づいたものから、科学と思いやりに基づいたものに変えることである」と記載されています。
薬物の所持が判明した場合は50ドルの罰金を支払うか、マサチューセッツ州と同様に45日以内に健康・その他のサービスの必要性を調べるためのスクリーニングを受けることが定められています。なお、45日以内に罰金が支払われなかったとしても、それを理由として投獄したり、追加の罰則を与えることはないと明記されています。
さらにこの法案では、物質使用障害を犯罪行為ではなく病気として扱うという目標に沿って、州の法律、規制、慣行を改革するためのタスクフォースの設立も求めています。
ニューヨーク州では昨年末、認可された店舗で嗜好用大麻の販売が初めて開始されました。この時、販売店は1店舗のみでしたが、1月24日には2店舗目となる「Smacked」が正式にオープン。この店舗は、かつて大麻関連で有罪判決を受けたローランド・コナー氏によって経営されています。
さらに、ニューヨーク州では1月22日、嗜好用大麻の販売ライセンスを追加で30件承認したことも報じられています。
また、サイケデリクス(幻覚剤)においては、年明け早々に合法化法案も提出されています。
処罰ではなく、支援を
日本では薬物において「ダメ、ゼッタイ」の考えが浸透していますが、世界では上記のように、薬物に対する政策のあり方が変わってきています。
薬物使用は潜在的あるいは実在する何らかの疾患を抱えていたり、家庭環境に問題があったり、生きづらさを感じていたりする人にみられる傾向があります。特に、物質使用障害と診断されるのはこういった人々が多いです。
言い換えれば、このような人たちとって、薬物の使用は苦しみから自分を救済するための手段ということ。もっと言えば、救いを求めるSOSサインとも考えられるということです。
確かに薬物を犯罪とすれば、使用をある程度予防でき、それによって守られる健康はあるでしょう。しかし結局のところ、薬物を使用する人は必ず一定数は存在します。そして使用した人は逮捕され、犯罪者として扱われ、後々の人生において不利益を被ることになります。たとえそれが苦しみから抜けるための手段であったとしても、です。
もちろん、薬物は積極的に肯定されるものでもありません。
ただ、認識しなければならないは、「薬物の使用は、どうあってもなくならない」ということです。
全ての人が心身ともに健康で障害がなく、愛情あふれる両親のもとで育ち、事件や災害に巻き込まれずに平和に生きているわけではありません。つまり、誰もが「薬物なんていらない」と思えるような人生を歩んでいるわけではないということです。
「薬物=悪」としてしまえば、そこで全てが終わってしまいます。そうではなく、薬物使用に潜むバックグラウンドに注目し、寄り添い、救いの手を差し伸べること。これを実行する政策こそが、本当の意味で思いやりのある政策と言えるのではないでしょうか。
昨今、世界はそのことに気づき、動いています。
Marijuana Moment「Massachusetts And New York Lawmakers File Drug Decriminalization Bills For 2023」https://www.marijuanamoment.net/massachusetts-and-new-york-lawmakers-file-drug-decriminalization-bills-for-2023/
HighTimes Magazine「Two Bills to Decriminalize Psychedelics Filed in Massachusetts」https://hightimes.com/news/two-bills-to-decriminalize-psychedelics-filed-in-massachusetts/
MJBizDaily「New York approves 30 more recreational marijuana licenses」https://mjbizdaily.com/new-york-approves-30-more-recreational-marijuana-licenses/
ABC7 New York「Smacked, 2nd legal marijuana dispensary in New York, opens in Greenwich Village」https://abc7ny.com/recreational-marijuabusna-nyc-weed-smacked-legal-week/12730663/