ニュージーランド元首相ヘレン・クラーク、薬物の非犯罪化を支持

ニュージーランド元首相ヘレン・クラーク、薬物の非犯罪化を支持

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4月16日、ニュージーランド元首相であり、世界薬物政策委員会(GCDP:Global Commission on Drug Policy)の委員長を務めるヘレン・クラーク氏は、薬物の非犯罪化に対し支持を表明しました。

クラーク氏は2019年、ポルトガルのリスボンで「たばこやアルコールは大麻よりも有害」としたレポートを発表したことでも知られています。

2019年ポルトガル・リスボンでレポートを発表するヘレン・クラーク氏
ポルトガル・リスボンでレポートを発表するヘレン・クラーク氏 (Photo by GCDP)

クラーク氏は4月16〜19日に開催された「国際ハームリダクション会議(Harm Reduction International Conference)」で基調講演を行うため、オーストラリアのメルボルンに滞在。

クラーク氏は現地の記者団に対し、「エビデンスは非常に確かなものです。私はオーストラリア首都特別地域(ACT)と同じように、個人使用目的での薬物所持を一般的に非犯罪化するという道を進んでいくことを信じています」「大麻のような薬物は、タバコと同じような規制を受けるべきだということも合理的に明らかです」と述べました。

オーストラリア首都特別地域では今年10月より、コカイン、ヘロイン、MDMA、メタンフェタミンなど9種類の薬物の少量所持が非犯罪化される予定。これらの薬物の所持が発覚しても刑務所に投獄されることはなく、100豪ドル(約8,900円)の罰金または注意のみで済まされることになります。これらは刑事上のアプローチではなく、害を減らすためのハームリダクションに基づいた政策であると、州政府は述べています。

なお、オーストラリア首都特別地域は2020年より大麻の個人使用を非犯罪化しています。

国連薬物・犯罪事務所(UNODC:United Nations Office of Drugs and Crime)によれば、世界の薬物犯罪者の数は2020年で2億8,400万人にまで増加。人々は法律に関係なく薬物を使用するため、立法者は人々が安全に薬物を使用できるようにするべきだと、クラーク氏は語ります。

「人々の健康と幸福を守り、刑務所の収容人数を大幅に減らすことができ、ハームリダクションのためのリソースを活用できるようになるのではないでしょうか?」

クラーク氏は、ビクトリア州にあるノースリッチモンド地域健康センター(North Richmond Community Health)のメディカルツアーにも参加。このセンターは「注射針・注射器プログラム(Needle and Syringe Program)」を実施している州内唯一の施設であり、世界でもこのようなプログラムを持つ施設は16カ国となっています。

このプログラムの目的は、違法薬物の過剰摂取による死亡事故や血液感染を未然に防ぐことです。無料、匿名で誰でも参加でき、利用者は持参した違法薬物を、用意された清潔な注射器具を用いて使用することが可能。薬物使用は看護師の観察のもとで行われ、呼吸抑制など過剰摂取による症状が認められれば、すぐに処置・対応が行われます。

診察室としての機能も有する相談室では、薬物使用者に対し臨床、心理、社会サービスの提供も行っており、希望者は治療薬の処方箋を受け取ることもできます。

当施設は開設より5年で6千人以上の薬物使用者(ほとんどがヘロイン使用者)を受け入れており、訪問回数は40万回を超えています。

メディカルツアーに参加したクラーク氏はVICEの取材に対し、「安全な注射により、人々は生きることができています」「ビクトリア州政府が資金を提供してくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。これは公的な資金です。このような介入がなければ死んでしまうような社会で軽んじられてきた人々がいることを、州政府は認識しているのです」と感動をあらわにしました。

また、クラーク氏は以下のようにも発言しています。

「薬物使用者たちからのフィードバックで印象的だったのは、このようなサービスが彼らに対し尊厳と敬意を持ち、彼らのありのままに対応していたということです」

「半世紀にわたる証拠から、薬物の禁止は社会的、経済的、道徳的に失敗であることが示されています」

「薬物使用は世界中で増え続け、何百万人もの人々が薬物の所持で投獄され、何百万人もの人々が効果的なハームリダクション対策にアクセスできないために、不必要にHIVやC型肝炎に感染しています」

ニュージーランドでは2020年、大麻の合法化を決定する住民投票が行われましたが、否決されています。

これについて、クラーク氏は「これらは非常に複雑で微妙な社会政策の問題であり、国民投票の形式で処理するのは最善ではありません」「政府は効果的な立法と規制の責任を果たし、率直に言ってたばこほど人体に有害ではない大麻のような薬物の合法的な市場を作る必要があります。アルコールやたばこの規制モデルを薬物に適用できない理由はありません」と述べました。

なお、オーストラリア首都特別地域は2022年7月より、違法薬物に含まれる成分を検査できるサービス「CanTEST」を試験的に開始。このサービスでは、全ての人が無料で違法薬物の検査を実施してもらうことが可能となっています。

サービス開始から4ヶ月でMDMA、ケタミン、コカイン、ヘロインなど371の薬物が検査され、このうち約21%で異なる成分が検出され、それを知ったほとんどの人が薬物を廃棄していたことが、ABCニュースにより報じられています。

CanTESTは試験的に6ヶ月間実施される予定でしたが、少なくとも2023年8月まで延長されることとなり、引き続き法整備に向けて評価が行われる予定です。

The New Daily「Former NZ PM Helen Clark backs decriminalisation of drugs」https://thenewdaily.com.au/news/2023/04/17/former-nz-pm-helen-clark-backs-decriminalisation-drugs/

VICE「‘Human Beings Have Been Using Drugs for Thousands of Years’: Helen Clark Wants NZ to Decriminalise Drugs」https://www.vice.com/en/article/epvnb4/human-beings-have-been-using-drugs-for-thousands-of-years-helen-clark-wants-nz-to-decriminalise-drugs

VICE「The Forces Behind Australia’s First Fixed Pill Testing Site Hope It Sparks A National Trend」https://www.vice.com/en/article/4axwvp/the-forces-behind-australias-first-fixed-pill-testing-site-hope-it-sparks-a-national-trend

ABC News「ACT extends confidential pill-testing service CanTEST as evaluation shows most users discard tainted drugs」https://www.abc.net.au/news/2023-01-13/canberra-pill-testing-trial-extended/101851424

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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