国連人権機関が違法薬物の非犯罪化を「緊急の課題」とする声明を発表

国連人権機関が違法薬物の非犯罪化を「緊急の課題」とする声明を発表

6月23日、国連における人権活動の中心機関「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)」は新たな声明を発表。この声明は、国際社会に対し、違法薬物を犯罪として扱う「麻薬戦争」を終わらせ、「刑罰」から「支援」へとアプローチを変更することで、全ての人の人権を尊重・保護する政策を推進することを強く求めています。

厳密に言うとこの声明は、国連人権理事会(UNHRC)によって任命された専門家から成り立つ組織「特別手続(Special Procedures)」の「特別報告者(Special Rapporteurs)」により発表されたもの。同組織は、人権に関する特定のテーマについて調査・報告・助言などを行う権限を持ちます。

声明は6月26日の「国際薬物乱用・不正取引防止デー」に先駆けて公開され、象徴的となりました。

声明では、「『麻薬戦争』は、人間に対する戦争として理解されることが多いかもしれません。その影響は貧困にあえぐ人々で最も大きく、社会から疎外されたグループやマイノリティ、先住民に対する差別と重なることがよくあります」と述べられ、違法薬物の犯罪化がアフリカ系の人々、女性、LGBTIQ+(性的マイノリティ)などのマイノリティ集団に対し、差別的な影響を与えていると強調しています。

「世界的に、薬物の取り締まりはアフリカ系の人々の尊厳、人間性、自由にとって、莫大な犠牲を払わせており、報告書によれば、アフリカ系の人々は薬物関連犯罪に対して不釣り合いかつ不当な法執行介入、逮捕、投獄に直面しています。様々な国で、『麻薬戦争』は麻薬市場を縮小させる手段というよりも、人種統制システムとしてより効果的となっています。人種プロファイリングに基づく取締りは依然として蔓延しており、その一方で、エビデンスに基づいた治療とハームリダクションへのアクセスは、アフリカ系の人々において決定的に低いままです」

「世界中において、薬物を使用する女性はハームリダクションプログラム、薬物依存症治療、基本的な医療を受ける上で、重大な偏見と差別に直面しています。薬物使用者の3人に1人は女性ですが、治療を受けている女性は5人に1人に過ぎません。また、女性は犯罪化と投獄の影響を不釣り合いに受けており、世界の刑務所にいる女性の35%が薬物関連犯罪で有罪判決を受けたことがあるのに対し、男性は19%となっています」

「女性が薬物に関連して刑事司法制度と関わりを持つ原因は複雑で、貧困や強制などの他の要因と関連していることが多く、社会における体系的なジェンダー不平等をより広く反映している可能性があります。特筆すべきは、薬物関連犯罪で服役中の女性の大多数がほとんど教育を受けていないことです」

このように差別的な状況がみられる中、未だに世界の30カ国以上で薬物関連犯罪が死刑の対象となっていることに対し、国連の専門家らは大きな懸念を表明。

また専門家らは、違法薬物に対する罰則的アプローチが薬物使用者の治療アクセスを妨げ、健康に悪影響をもたらすだけでなく、薬物使用者に対する「スティグマ」を助長させていると指摘しています。

誰もが例外なく、命を救うハームリダクションの介入を受ける権利を有します。これは薬物使用者の健康に対する権利を守るために不可欠です。しかし、国連のデータによれば、適切な治療を受けられているのは薬物依存を抱える人の8人に1人に過ぎず、ハームリダクションサービスの適用範囲も非常に低いままとなっています」

「この状況は女性やLGBTIQ+の人々、その他社会から疎外された集団にとって特に深刻であり、ハームリダクションや治療サービスが適応されなかったり、特定のニーズに応えられなかったりする可能性があります。また、女性とLGBTIQ+の人々は男性の薬物使用者よりも、セルフ・スティグマ(偏見を持たれていると自身で思い込むこと)や差別など、より高いレベルのスティグマに直面しています」

「コカの葉のような先住民が伝統的に使用してきた物質を犯罪化することは、伝統的な先住民の知識体系や医療の抑圧、弱体化、疎外につながりかねません。これらは広範な健康影響を及ぼし、差別的な階層構造や概念に根ざしています。危険性の高い農薬の空中散布などによる農作物の強制駆除は、環境ときれいな水、そして先住民コミュニティの健康と福祉に深刻な害をもたらす可能性があります。これら及びその他薬物の取り締まりによって影響を受ける可能性のある先住民は、有意義な協議の場が設けられるべきであり、彼らの生活、文化的慣習、土地、天然資源が侵害されないという保証が与えられなければなりません」

刑法や行政制裁などの懲罰の行使は、すでに社会から疎外されている人々に汚名を着せます。犯罪化は、医療サービス(HIVや緩和ケアを含む)へのアクセスに対する重大な障害や、その他の人権侵害をもたらします

これらを総括し、声明の終盤では以下のように述べられています。

「薬物関連問題に関する国連の共通見解が求めているように、個人使用目的での薬物の使用と所持は、緊急の課題として非犯罪化されるべきです。薬物の使用や依存は、人を拘留する十分な理由には決してなりません強制的な薬物拘留及びリハビリテーションセンターは閉鎖され、地域社会における自発的で証拠と権利に基づいた保健及び社会サービスに置き換えられる必要があります

私たちは加盟国および国際機関に対し、現在の薬物政策を包括的、修復的かつ復帰的な司法アプローチの適用の原則に根ざしたものに置き換えるよう求めます。効果的で地域密着型の、包括的かつ予防的な措置も同様に重要です

国際社会はこれまで以上に、刑罰を支援に置き換え、全ての人の権利を尊重し、保護し、実現する政策を推進しなければなりません。」

国連人権高等弁務官事務所に続き、「国際薬物乱用・不正取引防止デー」当日には、世界薬物政策委員会(GCDP:Global Commission on Drug Policy)も声明を発表

声明の冒頭では国連人権高等弁務官事務所の声明と同じように、薬物の禁止政策が健康と福祉の促進につながらないという認識が世界中で高まっていることについて触れ、刑罰によるアプローチが組織的な人権侵害を生み出してきたとしています。

世界薬物政策委員会は2011年以降、薬物使用者、そして社会から阻害されたコミュニティやマイノリティの人々が、抑圧的な薬物政策によっていかに大きな負担を強いられているかについて強調し続け、「逮捕への恐れや広範なスティグマにより、薬物使用者はハームリダクションサービスや医療・社会サービスにアクセスすることを妨げられています」と述べています。

また、同委員会は「機能する薬物政策に向けた5つの道筋」として、以下の内容を提案しています。

①健康を第一に考えること
②管理された医薬品へのアクセスを保証すること
③個人使用目的での薬物の使用と所持を非犯罪化すること
④犯罪組織を運営している人物に法執行を集中させること
⑤組織犯罪を無力化するために薬物市場を法的に規制すること

これらを踏まえ、ドイツなどの国が大麻合法化に向けて動いていること、タイがアジアで初めて大麻を非犯罪化したこと、アフリカの国々でハームリダクション政策が取り入れられていることについて触れ、同委員会は国際社会に対し、このような建設的な行動をさらに増やすよう求めるとしています。

なお、同委員会の委員長及び元ニュージーランド首相であるヘレン・クラーク氏は4月、薬物の非犯罪化に対し支持を表明

この他にも、「アメリカ依存医学会(ASAM)」や「米国薬剤師会(APhA)」といった権威ある医療関係団体が薬物の非犯罪化を支持する立場を明らかにしています。

このような中、日本では国際薬物乱用・不正取引防止デーに因んで、6月20日から7月19日までの1カ月間「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」が実施されており、依然として禁止政策が推し進められています。

上記2つの声明が指摘するように、日本でも外国人、服装、髪型、タトゥー、車などの「見た目」によって警察から職務質問されるケースが目立ち、差別的な状況が生み出されています。

実際に在日米国大使館は以前、日本の警察が外国人であることを理由に職務質問を行うという「人種差別的な事案」が発生しているという異例の警告を発しています

また、外国人2094名を対象にした東京弁護士会の調査では、過去5年間に職質を受けたことがあると回答した人は62.9%で、特にこれらは中南米(83.5%)、アフリカ(82.9%)、中東(75.6%)の人で多く、日本人と外見的特徴が似ている東アジアの国の人では少なかったことが明らかにされています。

今年の国際薬物乱用・不正取引防止デーのテーマは、人間第一、スティグマと差別をなくし、予防を強化する(people first, stop stigma and discrimination, strengthen prevention)」です。

果たして、日本の「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」は、このテーマに沿った活動と言えるでしょうか?

UN Human Rights Office「UN experts call for end to global ‘war on drugs’」https://www.ohchr.org/en/press-releases/2023/06/un-experts-call-end-global-war-drugs

Global Commission on Drug Policy「World Drug Day (26 June) – Statement by the Global Commission on Drug Policy」https://exhibition.globalcommissionondrugs.org/misc/PressRelease_WorldDrugDay_FINAL.pdf

Marijuana Moment「United Nations Experts And Global Leaders Call For International Drug Decriminalization On ‘World Drug Day’」https://www.marijuanamoment.net/united-nations-experts-and-global-leaders-call-for-international-drug-decriminalization-on-world-drug-day/

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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