嗜好用大麻の合法化は交通死亡事故の増加と関連せず

嗜好用大麻の合法化は交通死亡事故の増加と関連せず

- アメリカの調査

Quartz Advisorの調査によれば、米国で嗜好用大麻が合法化された州ではその後の3年間において交通死亡事故が減少あるいは横ばいで経過した一方、非合法州では微増したことが報告されています。

州レベルで嗜好用大麻の合法化が進む中、Quartz Advisorは大麻合法化前後における全米各州の交通事故データを収集し、大麻合法化と交通事故発生率との間の相関関係を分析。

調査の対象となった州は、2016年に嗜好用大麻を合法化(あるいは合法化を承認)した4州(カリフォルニア州メイン州マサチューセッツ州ネバダ州)。調査には全米安全評議会(NSC)のデータが用いられ、2016年以降の数年間、これらの4州における交通事故の死亡率が調べられました。

これらのデータは全米の平均、そして医療及び嗜好用大麻が非合法な5州(アイダホ州、インディアナ州、カンザス州、ネブラスカ州、ワイオミング州)の平均値と比較されました。

なお、2020年と2021年のデータは、米国全体において交通事故死が約20%増加していたことから”異常”と判断され、最終的な解析から除外されています。

大麻合法州では交通死亡事故が減少あるいは横ばい

2016年から2019年にかけ、米国全体では交通事故による死亡率が10.6%減少。2016年に嗜好用大麻を合法化した4州では11.6%減少したのに対し、大麻が非合法な5州では1.7%増加しました。

大麻合法化後の3年間、メイン州では交通事故による死亡率に変化がなかったものの、それ以外の3州では交通事故による死亡率が大幅に減少。最も減少したのはマサチューセッツ州で、合法化後の3年間で28.6%減少しました。

2016年から2019年における交通死亡事故発生率の変化

別の統計データでも、大麻合法化後で交通事故の発生件数に有意な変化はない

Quartz Advisorはより多くの情報を得るため、事故の発生率の変化やその他の傾向について高度な洞察力を持っている各州の保険規制機関に連絡をとり、大麻の合法化が保険業界に与えた影響を調査しました。

これに応じたメイン州保険局の広報・消費者支援専門家であるジュディ・ワターズ(Judi Watters)氏は「メイン州で大麻の使用が合法化されたことに関連して、保険法の運用方法には何の変更もありません」と返答。

加えて、ワターズ氏は、損害保険を専門とする北米のアクチュアリー専門団体「Casualty Actuarial Society」が昨年発表した報告書について触れました。

大麻の非犯罪化が自動車事故に及ぼす影響の評価」と題された報告書では、2016年から2019年におけるカナダとアメリカの交通事故データを用いることで、大麻の合法化が交通安全に及ぼした影響が評価されました。

この研究は天候や年間パターンなど多くの要因を考慮しており、Quartz Advisorの調査よりも更に包括的な分析を行っています。

分析の結果、米国の調査結果については「死亡事故に対する非犯罪化の効果を検証した結果、統計的に有意な変化は検出されなかった」と報告。

カナダの分析でも「大麻の合法化後、保険金請求1件当たりの平均コストと保険金の請求頻度において、統計的に有意な変化は見られなかった。ケベック州で入手可能な四半期データからも同様の結果が得られた」とされています。

これらのことから報告書の要旨では、カナダでもアメリカでも、大麻の合法化及び非犯罪化は道路をより危険な場所にはしていないと結論づけられています。

大麻の影響下での運転は安全ではない

大麻の合法化や非犯罪化が道路の安全性に悪影響を及ぼしているという証拠はないものの、大麻の影響下で運転することに関してはまた別の話とされています。

その理由は、数多くの研究が大麻の使用は認知機能や運動技能に影響を与え、車の運転パフォーマンスに変化をもたらすリスクがあると報告しているからです。

The American Journal of Addictions(AJA)に掲載された論文では、既存の60件の研究を分析した結果、大麻による酩酊状態は「追跡、協調運動、視覚機能、特に注意の分散を必要とする複雑な作業など、自動車の安全運転と合理的に関連づけられるあらゆるパフォーマンス領域に障害を引き起こす」と結論づけられています。

これについては、前述したCasualty Actuarial Societyの報告書でも繰り返し述べられています。

一方、AJAの論文では、大麻の影響下での運転が必ずしも危険ではないことも指摘されています。例えば、大麻による酩酊状態では、ドライバーの速度が遅くなったり、車間距離が長くなったりすることが報告されています。日常的に大麻を使用している人では、よりリスクが低くなることも示されています。

「認知研究の憂慮すべき結果を考えると驚くべきことだが、マリファナに酔ったドライバーのほとんどは、実際の路上テストではわずかな機能障害しか示さない」「決められたコースを運転する経験豊富な喫煙者は、大麻の影響下でほとんど機能障害を示さない」

このことは、大麻の合法化・非犯罪化が交通事故発生率の有意な増加と関連しないエビデンスに洞察を与える可能性があると、論文の著者は述べています。

交通事故への影響は大麻合法化の重要な懸念事項ではない

2012年にコロラド州ワシントン州が嗜好用大麻を合法化して以降、アメリカでは23州ワシントンD.C.で嗜好用大麻が合法化され、2023年12月にはオハイオ州でも合法となります

今後時間が経過すればより正確なデータが得られますが、「現時点では、大麻の合法化により交通死亡事故が大幅に増加したという研究結果は出ていない」とQuartzのジャーナリストであるデビッド・ストローガン(David Straughan)氏は述べています。

一方、合法であり広く入手可能なお酒に関しては、「同じことは言えない」と指摘。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)の統計データによれば、2012年から2021年にかけ、米国では32万7,514名の人が交通事故で亡くなっていますが、このうち97,597名(29.8%)はアルコールが要因とされています。

米国運輸省道路交通安全局はこれについて、「米国では毎日約37名、つまり39分毎に1名が飲酒運転による事故で亡くなっています」と説明。それにも関わらず、「交通安全への悪影響が示されていない大麻は、全米の半数以上で未だに違法となっている」とストローガン氏は述べています。

ストローガン氏は、嗜好用大麻の合法化において正当な懸念事項があることを認めています。具体的に、若年層による大麻の使用は認知発達に悪影響を及ぼし、特定の人々において精神病を引き起こすリスクがあることや、大麻の大量栽培に使用される水が環境上問題となる恐れがあることを挙げています。

しかし、道路の安全性に及ぼす影響に関しては、これらと同等の懸念事項ではないと主張。

「私たちの調査や他の研究者の調査に基づくと、合法大麻が交通安全に及ぼし得る影響は、そうした懸念事項のひとつではないはずである」

大麻の合法化が道路の安全性に及ぼす影響については、2018年に国として嗜好用大麻を合法化したカナダが参考になるかもしれません。

毎年実施されている国内大麻調査によれば、大麻の影響下で運転したことがあると回答した人は2018年で27%でしたが、2022年では18%にまで減少しています。このことは「大麻合法化=交通事故が増える」とは限らないことを一部説明していると考えられます。

ただし、ブリティッシュコロンビア州に限定した研究では、交通外傷で受診したドライバーのうち血中のTHC値が1mlあたり2ng以上であった人は、合法化前では3.8%であったのに対し、合法化後では8.6%と2倍以上に増加したことが報告されています。

また、オンタリオ州の研究では、2010年1月~2021年12月の間、交通外傷による救急受診が94万7,604件ありましたが、このうち大麻の関与が認められたのは0.04%(426件)。

期間中、大麻関連の交通外傷による1000件あたりの救急受診件数は0.18件(2010年)から1.01件(2021年)となり、475.3%の増加が認められました。

なお、アルコール関連の交通外傷による救急受診は全体の0.8%(7,564件)。1000件あたりの救急受診件数は期間中で9.4%増加していました(2010年:8.03件→2021年:8.79件)。

以上のことから、大麻の合法化が道路の安全性に及ぼす影響については相反する様々な報告があり、現時点で明確な結論を導き出すことは困難であると考えられます。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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