未成年の大麻使用は本当に脳に悪影響を及ぼすのか?

未成年の大麻使用は本当に脳に悪影響を及ぼすのか?

- 明るい未来のために -

過去の様々な研究において、未成年の大麻の使用は脳に悪影響を及ぼす可能性が示され、その考えは一般的となりつつあります。ですが、まだこのエビデンスは確立していません。その証拠として、最近公開された2つの論文を紹介します。

大麻使用者と非使用者との間で脳の体積に有意な変化は認められなかった

この結果が報告されたのは、2022年4月19日に公開されたオーストラリアの研究チームによる論文です。

この研究は若年期(12〜26歳)において、大麻の使用が脳の体積に影響を及ぼすのかを評価したメタ分析です。

分析には16個の研究論文が含まれ、386名の大麻使用者と444名の非使用者の合計830名(平均年齢22.5歳)が対象となりました。大麻使用者の平均使用期間は1.6〜6.2年でした。

分析の結果、大麻使用者と非使用者において、脳の体積に有意な変化は認められませんでした。

大麻の使用が認知機能に大きな影響を及ぼすというエビデンスは確立しなかった

この結果が報告されたのは、2022年4月29日に公開されたイギリスの研究チームによる論文です。

この研究は「CannTeen」というプロジェクトの一環として行われました。「Cannteen」は16~17歳、26~29歳のボランティアを通して、大麻が記憶と幸福感に及ぼす長期的影響についての研究を行っています。

今回の研究では、16〜17歳の大麻使用者(76名)・非使用者(63名)、26〜29歳の大麻使用者(71名)・非使用者(64名)に対し、認知機能評価を実施しています。

16〜17歳の大麻使用者の平均使用頻度は3.7回/週、使用量は1.1g/日、使用年数は1.5年で、26〜29歳の大麻使用者の平均使用頻度は4.1回/週、使用量は0.6g/日、使用年数は5.3年でした。なお、大麻使用者の8割以上がTHC濃度の高い大麻を摂取していました。

具体的に評価された認知機能は、エピソード記憶(記憶し、思い出す力)、視空間ワーキングメモリ(空間と視覚情報を処理・保持する力)、行動抑制(状況に応じて、望ましくない行動を抑える力)でした。エピソード記憶では物語の読み聞かせを聞いた後、すぐに覚えていることを書き出す即時記憶と、その20分後に覚えていることを書き出す近時記憶が評価されました。

大麻使用者は非使用者に比べ、近時記憶がわずかながら低い結果となりましたが、この結果は26〜29歳の大麻使用者で傾向レベルとして認められ、16〜17歳の大麻使用者・非使用者との間では、近時記憶に差は認められませんでした。

それ以外の視空間ワーキングメモリ・行動抑制においては、大麻使用者と非使用者との間で、いずれの年齢でも差は認められませんでした。

10代・20代の大麻使用者と非使用者を比較したこの研究において、大麻の使用が認知機能に大きな影響を及ぼすというエビデンスは確立せず、また10代においてそれが顕著になるわけでもなかったと、研究者らは述べています。

将来の子どもたちのために

この2つの研究では、未成年での大麻使用による脳への影響が、危惧されているほど大きいものではないことが示されました。ですが、だからといって未成年が大麻を使用しても問題がないと言いたいのではありません。

残念ながら、10代の大麻使用者においてはネガティブな研究報告のほうが多いです。脳への影響に対する懸念だけではなく、うつ病や統合失調症といった精神疾患の発症率を高める可能性も指摘されていたりします。

ですが今回紹介した論文は、ある人たちにとってはものすごく大切なことです。それは、将来病気により医療用大麻を使用するかもしれない子どもたちと、そのご両親やご家族です。つまり、未成年での大麻使用によるリスクよりも、治療によるベネフィットのほうが圧倒的に勝る人たちです。

大麻により救われる子どもたちは、確実に存在します。例えば、昨年アメリカで公開されたドキュメンタリー番組「WEED」においては、自傷行為の活発な自閉症スペクトラムの子どもが、大麻を吸うことにより劇的に症状が改善している姿が映し出されました。

自分の子どもの病気が、既存の治療で思うような効果を得られない。そんな時、将来日本で医療用大麻が合法となっていれば、その使用を検討する時がくるかもしれません。

ですがこの時「未成年での大麻使用が脳に悪影響を及ぼす」という情報のみが先行していたら、どうでしょうか。おそらく医療用といえども、大麻の使用にかなり抵抗を感じると思います。それで大麻という選択肢を断念したら、もしかしたら大麻により救われたはずの子どもが、そのまま苦しみ続けることになるかもしれません。

ネガティブな情報だけが先走ると、考える隙間がなくなり、将来このような悲しい結果が生まれるリスクがあります。そうならないように、この記事で紹介したような論文も、積極的に公開されていくべきだと筆者は思っています。

将来大麻により救われうる子どもたち、そのご両親やご家族のために、この記事を捧げます。

全ては、明るい未来のために。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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