嗜好用大麻の合法化で精神科入院が37%減少

嗜好用大麻の合法化で精神科入院が37%減少

- アメリカの研究

6月30日、アメリカの研究者は嗜好用大麻の合法化が精神病院の入院患者数を約37%減少させていたことを「Health Economics」で報告。ただし、「Journal of Dual Diagnosis」に掲載された最近のレビューでは、頻繁な大麻使用や未成年による大麻使用などでは精神病の発症リスクが高いことが改めて指摘され、これらのリスクを軽減するための提言がなされています。

大麻は統合失調症など精神病の発症の誘因になり得ることが指摘されており、このことは日本の厚生労働省のウェブサイトでも述べられています。ですが、単純に大麻の使用そのものが精神病を発症させるわけではないとする報告がいくつかあり、これに関してはまだ明確な結論が出ていません。

大麻や大麻に含まれるカンナビノイドは、主にECS(エンドカンナビノイドシステム)と呼ばれる神経系に作用することで医療効果を発揮すると考えられています。

多くの精神疾患は主に過剰なストレスが発症のトリガーとなります。そのような中、ECSはストレス反応の一助を担っていることが様々な研究により明らかにされています。そのため、大麻の使用はストレスの緩和に役立ち、このことは精神疾患の発症に予防的に作用する可能性があります。

また、大麻は様々な研究において、うつ病不安障害PTSD睡眠障害などの精神疾患に有効性を示しています。さらに、主なカンナビノイドの1つであるCBDは、抗精神病薬としての可能性が期待されており、今後大規模な治験が行われる予定となっています

嗜好用大麻の合法化が精神病院の入院数に与える影響

大麻とメンタルヘルスの関連性についてのエビデンスが不足する中、米国インディアナ大学の研究者は、嗜好用大麻の合法化が精神病院の入院数に及ぼす影響を調べるための研究を実施。

この研究では、薬物乱用・精神衛生管理庁(SAMHSA)の統一報告システム(Uniform Reporting System)にある精神病院の入院に関するデータを使用。このうち2007〜2019年のデータが用いられ、この期間中に嗜好用大麻を合法化していた10州において、大麻の合法化前後でデータに差があるのかが調べられました。

嗜好用大麻の合法化で精神病院の入院数が37%減少

分析の結果、ある州が嗜好用大麻を合法化することで、精神病院の総入院数は明らかに、かつ即座に減少していたことが明らかに。その効果は時間経過とともに顕著となり、合法化から4年が経過しても持続していました。

推計によれば、嗜好用大麻の合法化は精神病院の総入院患者数を約37%減少させ、州内1万人あたりの入院患者数を約92名減少させていました

このような変化は特に65歳未満、黒人、白人で顕著。また、メディケイド(低所得者に対するアメリカの医療費助成制度)による治療入院において有意に減少しており、メディケイド以外の治療入院に関しては統計的に有意ではない減少となりました。

研究者は、このような結果になった理由を明確に説明することは研究の性質上困難であるとしながらも、①大麻の使用がメンタルヘルスを改善する。②連邦法では大麻が違法であることから、大麻使用者が受診を避けている。③精神疾患患者が入院することなく、大麻をセルフメディケーションとして活用しているといった理由が考えられるとしています。

また、今回の結果は入院患者に焦点を当てたものであり(入院患者以外のデータがなく、これらを含めた精神疾患患者の増減までは把握できない)、大麻がメンタルヘルスそのものに与える影響について結論づけるものではないと述べています。しかし、政策立案者や研究者は大麻がメンタルヘルスに与える影響について、引き続き検討していく必要があるとしています。

大麻使用による精神病発症リスク

インディアナ大学の研究は、大麻の合法化がメンタルヘルスにポジティブな結果をもたらす可能性を示していますが、単純に「大麻の使用=メンタルヘルスに効果的」と解釈するのは危険です。その理由は冒頭の部分でも述べたように、大麻の使用は精神病を誘発し得るからです。とはいえ、「大麻の使用=精神病を発症する」と結論づけるのも早計となります。

こちらの記事の「大麻は統合失調症を引き起こすのか?」の部分で記載したように、大麻そのものが精神病を引き起こすというよりは、それ以外の要因が重なることで精神病を発症させるリスクが高くなると考えられます。この記事ではこの要因として、①未成年の使用。②高濃度のTHCの頻繁摂取。③遺伝的要因。④幼少期のトラウマ(虐待など)を挙げました。

7月14日、カナダ、メキシコ、ドイツなどの研究チームは、2016年以降の文献をレビューした上で、大麻使用による精神病発症リスクを低下させるための提言を行いました。この論文では、各リスク因子に対するエビレンスレベルの評価も行われています。

全体として、大麻の使用は精神病発症リスクの増加と中程度の関連があるものの、これは他の要因と相互作用することで認められるとしています(エビデンスレベル:中程度〜高)。

この研究では大麻の使用が精神病を引き起こすリスク因子として、以下のようなものを挙げています。

・精神病の家族歴
・未成年の大麻使用
・高濃度のTHC
・大麻の頻繁摂取
・たばこやお酒との併用

大麻による精神病発症リスクを軽減する

これらを踏まえた上で、研究者らは大麻による精神病発症リスクを軽減するために、主に以下のような提言を行っています。

精神病の家族歴がある人には、大麻の使用により精神病発症リスクが高まることを伝えるのが望ましい。大麻を使用する場合、効力の低いものを選択したり、使用を最小限に控えるほうが良い。(エビデンスレベル:中程度)

未成年(特に16歳以下)の大麻使用は、一貫して精神病発症リスクの上昇や重症度の増加と関連しているため、避けるべきである。(エビデンスレベル:高)

THCの含有量や曝露量が多いほど精神病の発症リスクは高くなるため、大麻製品のTHC含有量はできるだけ低くするべきである。CBDがTHCの精神活性作用を減少させるかどうかについては一貫したエビデンスはないが、CBD濃度が高い大麻製品を使用することは推奨される。また、安全性や信憑性の観点から、規制された大麻製品を使用すべきである。(エビデンスレベル:限定的〜高)

大麻の使用頻度が高いほど精神病発症リスクは上昇するため、使用頻度をできるだけ減らし、それを維持することは重要である。週1回以下の使用では精神病発症リスクは低くなる。(エビデンスレベル:高)

・大麻をアルコールやたばこと併用することは極力控えるべきである。(エビデンスレベル:限定的〜中程度)

すでに精神病を発症している人では、大麻の使用は病気の経過や転帰の悪化と関連しているため、使用を中止するか、可能な限り控えるべきである。CBD優位の大麻製品を使用することで、転帰の悪化が減弱する可能性もある。(エビデンスレベル:中程度〜高)

つまり、大麻もアルコールやたばこと同様に、大人になってから適度に使用することが大切になると言えそうです。

大麻の使用にあたってはいくつか注意が必要となりますが、大麻の合法化がそのまま精神病の発症に影響を及ぼすとは限りません。

スタンフォード大学やペンシルベニア大学の研究者らは、2003〜2017年における保険加入者6,300万人以上のデータを分析した結果、米国における州レベルの大麻合法化が精神病関連の診断や治療の割合に影響を及ぼしていなかったことを報告

ミネソタ大学とコロラド大学の研究者らは2018〜2021年の間、4,043名の双子を対象とした縦断的研究を行った結果、嗜好用大麻の合法化によって大麻使用障害や精神病の有病率に影響が認められていなかったことを報告しています

大麻の頻繁摂取が精神病の発症リスクと関連していることが示されている中、今年5月に公開されたカナダの研究では、国内において大麻使用者が増加する一方で、問題のある大麻使用が増加していなかったことが報告されています。

また、米国疾病対策予防センター(CDC)が5月に発表したデータでは、アメリカで嗜好用大麻の販売店がオープンして以降、未成年の大麻使用率が最低値となっていたことが明らかにされています。このことは、嗜好用大麻の合法化が精神病発症リスクの1つである「未成年の大麻使用」を減少させていることを意味しています。

エビデンスとしては不十分ながらも、大麻の使用により恩恵を受けている精神疾患患者は紛れもなく存在しています。私たちはこのことを無視すべきではなく、有効活用するための方法を模索すべきではないでしょうか?

そのためにまず重要となるのは、大麻の使用によるリスクを正しく国民に認知してもらうための教育であると考えられます。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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