衆院厚労委、大麻法改正法案を可決

衆院厚労委、大麻法改正法案を可決

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11月10日、衆議院厚生労働委員会において「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案」が賛成多数で可決されました。

日本政府は先月、同法案を閣議決定し、オンライン上で法案を公開。今回の委員会審議では法案の修正は行なわれず、原案のまま承認された形となりました。

同法案は大麻草の産業利用や製剤化された大麻由来医薬品の施用を可能にするとともに、これまで存在していなかった”大麻使用罪”を創設することで、大麻の乱用を防止することを目的としています。

改正法では、これまで大麻草の茎・種以外を違法な”大麻”と定めていた「部位規制」から、精神活性成分THCの含有量を基準とした「成分規制」へと変更されます。

つまり、今後国内で違法とされる”大麻”は、一定量以上のTHCを含む大麻草やその製品となります。ただし、THCが基準値以下でも大麻草の形状を有する製品に関しては、一般的に認められません(例えば、CBDの花製品の流通は不可)。

これにより、実質不可能であったCBD製品の国内生産が可能となります。さらに、改正法では大麻取締法第4条が削除されることにより、これまで禁止されていた大麻草由来の医薬品を利用できるようになります。

THC制限値は現時点で規定されておらず、同法施行から1年以内に制定される政令により決定される予定です。

大麻草の栽培には、目的に応じた各種免許を取得する必要があります。

大麻草の種子・繊維の採取を目的とした「第一種大麻草採取栽培者免許」は、栽培地のある都道府県知事から、医薬品原料(CBDを始めとしたカンナビノイド等)の採取を目的とした「第二種大麻草採取栽培者免許」または大麻草の研究を目的とした「大麻草研究栽培者免許」に関しては、厚生労働大臣から免許を取得しなければなりません。

大麻草の産業及び医薬品利用を可能にする一方、違法とされる”大麻”は「麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)」の下で、”麻薬”として規制されます。これにより、大麻は他の違法薬物と同様、使用・所持・譲渡・譲り受け等が発覚した場合、7年以下の懲役が課せられるようになります。

今回約7時間に渡り行なわれた衆議院厚生労働委員会の審議では、あらゆる方面から活発に意見が交わされました。ここでは、大麻草の医薬品利用、CBD産業、大麻使用罪の運用、法案に対する反対意見についてピックアップします。

特に注目されるのは法案に対する反対意見であり、できる限り多くの人に知っていただきたいと筆者は考えています。

目次

大麻草の医薬品利用について

改正法では大麻草の医薬品利用が可能となりますが、これは欧米諸国の一部でみられるような「医療用大麻」とは異なります。

利用可能となる大麻医薬品はあくまで”製剤化したもの”に限られ、なおかつ”医療用麻薬”としてオピオイドなどと同様、厳重な取り扱いが求められます。そのため、ジョイントベイプエディブルオイルなどの多様な医療用大麻製品が使用できるようになるわけではありません。

今回の法改正では、高濃度CBDを含有した医薬品「エピディオレックス」を利用可能にすることを特に目指しており、すでに国内では治験も開始されています

エピディオレックスの適応は、現時点で以下の3種類の難治性てんかんに限られています。

①乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)
②レノックス・ガストー症候群
③結節性硬化症に起因するてんかん

公益社団法人日本てんかん協会の田所裕二事務局長によれば、国内のてんかん患者数は約100万人おり、このうち3割は従来の治療で十分な治療効果が得られていません。このような中、エピディオレックスの適応は国内で約1万2,000人になると推定されます。

厚生労働省医薬局長である城克文氏によれば、エピディオレックスの医薬品承認は来年後半になる見通し。

大麻由来医薬品には他にも、精神活性成分THCを含有するサティベックスマリノールなどがありますが、今回の審議ではこれらの利用については言及されませんでした。

なお、11月初頭に開催されたイベント「CBDジャーニー&カナコン」の大麻改正法に関するシンポジウムにおいて、公明党の秋野浩三参議院議員を始めとした有識者らは、製剤化されたTHC含有大麻医薬品も今後治験を経て利用可能になる可能性があると語っていました。

しかし、今回の委員会審議ではTHCを「有害成分」とする表現が目立っていたため、この実現可能性については懸念が残ります。

CBD産業について

大麻草の規制が「部位規制」からTHCを基準にした「成分規制」へと変わることで、CBDの国内生産が可能となり、産業利用が拡大されることになります。

矢野経済研究所のレポートによれば、日本のCBD市場は2019年で約47億円規模でしたが、2021年には185億円規模となっており、2025年には830億円規模になると予測されています。

CBD業界におけるプラットフォーム構築等を行うAsabis株式会社のCEOである中澤亮太氏は、参考人として委員会審議に参加。中澤氏は大麻草が成分規制へと変更されることで、現在CBD市場への参入を渋っている大企業が参戦する可能性があると語りました。

法改正後、CBD企業は各々責任をもって検査を行い、製品に含まれるTHCが制限値以下であることを証明する必要があります。これにあたり、中澤氏は第三者機関による統一化された検査の必要性を強調しました。

これについて他の議員から質疑を受けた城医薬局長は、CBD製品に含まれるTHC残留値にかかる統一的な検査を国で定め、改めて公表すると返答しました。

また、食品であれば食品衛生法に基づく既存の登録衛生機関(麻薬研究者免許を取得する必要がある)で実施することを想定していると説明。検査機関を登録制や指定制にすることは考えておらず、国が指定した検査方法を実施できる海外事業者の協力を得る可能性についても否定しないと語りました。

なお、THC制限値については海外の基準を参考にしつつ、パブリックコメントにてCBD事業者からも広く意見を募る予定であることも明らかにしました。

他にも委員会審議では、前述した大麻由来医薬品「エピディオレックス」には高濃度のCBDが含まれることから、CBD製品の食薬区分についての問題提起もなされました。

城医薬局長によれば、各CBD企業は厚生労働省に申請することで、自社の製品が食品に該当するかどうか判断を仰ぐことが可能です。ただし、この判断には国外の食経験も重視されるとし、厚生労働省はCBDが食品としてすでに海外で流通していることを認識していると述べました。

また、CBD製品には化粧品も存在しますが、医薬品成分を含有する化粧品の流通は「化粧品基準」にて禁止されています。これについて城医薬局長は、法改正後ただちにCBD入り化粧品の流通を差し止めるようなことはないと説明。

しかし、今後エピディオレックスが医薬品承認された場合、化粧品のCBD含有量には制限を設け、ポジティブリスト(原則として禁止されるが、例外として許されるもの)に位置づけた上で市場への流通を許可することを考えていると述べました。

他にも、城医薬局長は答弁の中で、CBDの効果効能を過度に宣伝する事業者はこれまで通り取締りの対象になることを明らかにしました。

大麻使用罪の運用について

武見敬三厚生労働大臣は「現在日本は大麻乱用期にある」と述べ、大麻使用罪を創設することで大麻乱用の一次予防を強化する意向を明らかにしました。

厚生労働省によれば、大麻使用罪は尿中に含まれるTHCの代謝産物「THC-COOH」の検出により立証されます。なお、陽性とされるTHC-COOHの具体的な数値については明らかにされていません(例えば、世界アンチ・ドーピング機関は150ng/mlとしている)。

委員会の審議では大麻使用罪の運用について、多くの疑問が呈されました。

例えば、国民民主党の田中健議員は大麻の使用が疑われるクラブにおいて、突然立ち入って全員に尿検査をできるのかと質問。これに対し城医薬局長は、尿検査の実施は逮捕令状がない限り任意であると返答しました。

立憲民主党の西村智奈美議員は海外の大麻合法国で大麻を使用した場合、空港等で大麻使用罪に問われることがあるのかと質問。

これについて武見厚生労働大臣は、大麻使用罪は国外において適用されず、仮に尿中からTHC-COOHが検出されても、大麻を所持しておらず、直近で海外への渡航歴があり、国内での使用を裏付ける証拠がない限り、立憲されることはないと明言しました。

日本維新の会の一谷勇一郎議員は、THC以外のカンナビノイドの使用でも尿中からTHC-COOHが検出される可能性が指摘されており、これに対し政府はどう考えているのかを質問。

これに対し城医薬品局長は、電子たばこ機器等の使用で容易にTHCに変換されるカンナビノイドが存在することを認識しており、使用により尿中からTHC-COOHが検出されるものを法案では麻薬とみなしていると説明。

加えて、天然の大麻草において、THCや麻薬とみなされる物質、容易にTHCに変換される物質以外では、尿中からTHC-COOHが検出される物質は存在しないと発言しました。

しかし、”容易にTHCとなり得る物質”について、具体的にどのようなカンナビノイドが該当するのかは説明されませんでした。

聞き流せぬ反対意見

今回の委員会審議では最終的に賛成大多数で法案が可決され、散会となりました。

しかし、約7時間に及ぶ審議の中では、決して聞き流せない、数少ない反対意見がありました。

田中紀子氏は、アルコール、薬物、ギャンブルなど各種依存症を持つ患者や家族を支援する一般社団法人「ARTS」の代表理事を努めています。田中氏は2014年に「ギャンブル依存症問題を考える会」を立ち上げており、このような活動の中で依存症に苦しむ患者やその家族を目の当たりにしてきました。

田中氏は今回の委員会審議において、依存症に悩む当事者の立場から参考人として参加。大麻使用罪が創設されることについて、「当事者や家族の悲しみが届かないことへの悲しみ」について語ると共に、日本の薬物政策における問題点について指摘しました。

「我が国の薬物問題は刑罰中心の政策、間違った啓発の在り方、それに伴うメディアの過剰反応により、多くの誤解や偏見を生み出し、当事者や家族に苦しみを与えています」

田中氏は、薬物乱用が凶悪な事件を引き起こすという論調についても誤りであると強調。殺人、強盗、放火、強制性交等の凶悪犯罪は薬物依存者ではなく、むしろギャンブル依存者に多いとのデータを示しました(「医療記者、岩永直子のニュースレター」では、田中氏の意見供述の全文書き起こしと共に、データを参照することができます)。

「薬物乱用者は凶悪犯という言われなき偏見、そういった啓発をされ、社会で居場所を奪われてきました。それはアルコール、ギャンブルが一部を除いて手を出しただけでは犯罪にならないという違いがあるからです」

各種依存症を抱える青少年においては、生活習慣の見直しや背景にある生きづらさ、または家庭や学校という環境要因の見直しが行なわれてきており、このことは大麻を始めとした違法薬物においても当てはまると主張しました。

「それにも関わらず、日本では薬物乱用者に対し刑罰を課し、懲らしめ、晒し者にし、社会の厄介者として人間扱いすらせず、再起すら許してきませんでした。これ以上、犯罪者というスティグマを増やすべきではありません」

田中氏によれば、薬物所持による前科者の中には逮捕から7年経っても駐車場すら借りることができない人が存在し、薬物で逮捕された青少年の家族までもが職を失うケースがあると言います。

田中氏は、昨年バイデン大統領が大麻の単純所持犯罪者に与えた恩赦、今年6月に「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)」が違法薬物の非犯罪化を緊急の課題とした声明について取り上げ、世界は薬物使用者に刑罰を課して汚名を着せるのではなく、非犯罪化することによって薬物を使わざるを得ない状況にいる人々を医療サービスへとつなげる方向に進んでいると強調しました。

他にも、日本では大麻による検挙者数が増えているにも関わらず、覚醒剤による検挙者数が増えていないことから「大麻=ゲートウェイドラッグ」という仮説が否定されていることを指摘。

また、大麻に対する取締りの強化は、合法な市販薬や処方薬の乱用拡大につながり、より難治性の依存症を引き起こすリスクがあると述べました。

海外と異なり、日本の大麻生涯経験率はわずか1.4%であることから、厚生労働省は薬物の禁止政策が一定の予防効果を発揮しており、大麻使用罪の創設により「一次予防の強化を期待する」としています。

これについて、田中氏は以下のように反論しています。

「海外と逮捕者数が違っていても、問題の本質は同じです。大切なのは、薬物乱用者に対する犯罪者というスティグマを軽減させ、早めに医療サービスへアクセスさせることです」

「アルコールでもギャンブルでも何でもそうですが、早期に相談、早期治療が大切なんです」「相談したら逮捕されるかもしれないという懸念があっては、誰が早期に相談ができるでしょうか。そこのところの弊害について、よくお考えいただきたいと思います」

最後に、田中氏は薬物犯罪に対する捜査機関と報道のあり方について、問題を定期。芸能人が大麻所持で逮捕される現場に報道機関が張り込んでいる状況から、情報漏洩と人権侵害が存在すること。そして、わずか0.019gの大麻片の所持で逮捕された大学生が、繰り返し実名報道されて教育の機会が奪われたことを指摘しました。

一方、田中氏は少量の大麻所持にて書類送検された島根県内の男性警官に対し、島根県警が証拠隠滅や逃亡の恐れがないなど総合的な判断から逮捕せず、プライバシー保護を理由に名前や勤務場所も公表しなかったことを評価し、全国的にこのような対応が広まって欲しいと述べました。

「大麻を個人で使用したという微罪でデジタルタトゥーが残り、若者の将来が奪われてしまうべきではありません」「報道の自由も大切ですが、この国の未来を考えれば、何よりも若者の再起に配慮することが優先されるべきだと考えます」

「依存症者は、社会や他人の厳しさでは変われません。依存症の背景には、もう十分厳しい環境に晒された経験があります。逆境体験があるんです。政治家の先生方、官僚の皆様、そして学者の先生やお医者様、立派な大学を卒業された皆様が頭で考えた政策だけでなく、社会から取り残された当事者や家族の声を取り入れた改正を望みます」

「どうか大麻使用という微罪で、これ以上若者の未来を奪わないで下さい。問題を抱えた青少年、そして依存症者は、厳しさで変わるのではなく、社会の優しさと希望で変われるのです」

これらの田中氏の意見供述は、一部の議員の心に響く形となりました。

有志の会の福島伸享議員は、参考人の反対意見は「かなり納得の得られるものであった」とし、大麻使用罪の創設について現状の説明では「納得できない」と発言。

「私はこの法案に賛成するつもりでおりましたけれども、参考人の意見を聞いて、その賛成の態度は非常に揺らいでおります」と述べました。

また、日本共産党の宮本徹議員は委員会審議の中で大麻使用罪の創設に明確に反対し、このような刑罰は薬物依存症患者の治療アクセスを妨げ、社会復帰を妨げると主張しました。

他にも今回の委員会審議では、大麻使用が発覚した際にいきなり逮捕するのではなく、猶予期間中に依存症治療プログラムに参加すれば不起訴とすること、教育及び医療機関に薬物依存症治療の相談があった際、警察に通報せず守秘義務が優先されることを世間的に周知することなど、薬物依存者に配慮した提案もなされました。

改正案は今週の衆議院本会議で可決され、参議院に送付される見通しです。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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