てんかんの子どものイラスト

てんかん

てんかんとCBD・医療用大麻

もし、自分の子どもが薬でコントロールできないてんかんになったら、どうしますか?

抗てんかん薬には色々なものが登場してきており、約7割の発作は抑制することができるようになっています。

ですが、レノックス・ガストー症候群や乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)といった小児に発症する一部のてんかんは、いまだに難治となっています。

そんな難治性のてんかんに対し、欧米ではエピディオレックスというCBD製剤が使用されているところがあります。

この記事では、てんかんの基礎知識、てんかんに対するCBDと医療大麻の有効性についてお話していきます。

目次

てんかんとは

てんかんとは、大脳皮質の神経細胞が過剰に興奮することにより、てんかん発作が起きる脳の病気です。

てんかんの有病率は100〜200人に1人とされています。どの年代でも発症する可能性がありますが、特に小児と高齢者に多いのが特徴です。

てんかんの原因

原因が不明なものを特発性てんかんといい、原因が明らかなものを症候性てんかんといいます。

特発性てんかんの多くは、遺伝的要因であると考えられています。

症候性てんかんの原因としては以下のものがあります。

・周産期におけるトラブル(胎児仮死、頭部外傷、出産時の低酸素状態)
・先天奇形
・脳血管奇形
・脳炎や髄膜炎
・脳卒中
・脳腫瘍
・代謝異常
・アルツハイマー型認知症

てんかん発作の種類

てんかん発作は、部分発作と全般発作に分類されます。

発作の種類によって、使用する抗てんかん薬の種類が異なってきます。

部分発作

大脳の一部分が過剰興奮することによって起きる発作です。

部分発作には2種類の発作があります。

単純部分発作

意識が保たれたまま起こる発作です。

顔や手足の一部にけいれんが起こったり、胃に不快感を感じたり、目がチカチカしたり、からだの一部がピリピリしたりすることがあります。

過剰興奮を起こしている大脳の部位に応じた症状がみられます。

複雑部分発作

意識障害を伴う発作です。

1点をじーっと見つめ、動作が止まることから始まります。

よくみられるのが、自動症と呼ばれるものです。意識のない状態で、口をもぐもぐさせたり、舌なめずりをしたり、ボタンをいじるといった行動がみられます。

発作後も、意識がもうろうとします。

※二次性全般発作について

部分発作でも悪化すると、全般発作に移行することがあります。これを二次性全般発作といいます。全般発作ではありますが、治療は部分発作をベースとして行います。

全般発作

大脳全体で過剰興奮が起こることによって生じる発作です。

全般発作には様々な種類があります。

欠神発作

突然意識が遠くなる発作です。

動作の途中で発作が起きても、発作がおさまるとまた動作を再開します。

過呼吸で誘発されやすい特徴があります。

子どものてんかんで見られることが多く、成長に伴い軽快していきます。

ミオクロニー発作

からだの一部、あるいは全身に「ピクッ!」と瞬間的な筋肉の収縮が起きる発作です。特に両腕にみられることが多いです。

瞬間的なので、意識障害の自覚はほとんどありません。

目が覚めて数時間以内に見られることが多く、光に反応して誘発されることもあります。

発作時に手に何かを持っていると、手からはなれて飛んでいってしまい、トラブルの元になることがあります。

脱力発作

意識を失い、全身の筋肉が脱力する発作です。

けいれんはないものの、突然崩れるようにして倒れるため、顔や頭をぶつけるなどしてけがをしやすいです。

強直間代発作

強直発作を起こした後に、立て続けに間代発作を起こす発作です。

強直発作とは、全身の筋肉が硬直し、からだがピンとまっすぐになる発作です。呼吸を止め歯を食いしばり、眼球は上転します。

間代発作とは、全身の筋肉を収縮したり、緩めたりする発作です。手足を曲げたり伸ばしたりする動作を繰り返します。

発作は通常5分以内にはおさまり、その後は入眠したり、意識がもうろうとした状態になります。

てんかん重積状態

てんかん重積状態とは、てんかん発作が5分以上続いている、あるいはその間意識が回復することなく発作を繰り返している状態をいいます。

てんかん発作は、通常では2分以内に終わるものがほとんどです。

発作が30分以上続くと、脳が低酸素状態となり深刻なダメージを受け、後遺症が残ったり、最悪の場合には命の危険もあります。

そのため、てんかん重積が疑われた場合はただちに緊急搬送し、病院で対処する必要があります。

第一選択薬として、ジアゼパムやミタゾラムといったベンゾジアゼピン系の薬を静脈注射することが多いです。

※てんかん発作が起こった場合、どうすればいいのか?

近くにいる人がてんかん発作を起こした場合、びっくりしてあわててしまうと思います。

発作時の対応の基本は、ケガを防ぐことです。周囲に物があれば片付けるようにし、安全を確保して下さい。

今後の治療につながるため、どのような発作が起きているのか観察して下さい。

発作が3分以上続くようであれば、てんかん重積の可能性が高いので、救急車を要請するようにして下さい。

てんかん発作のメカニズム

私たちは、神経細胞(ニューロン)から神経細胞へと情報伝達をしていくことで、からだを動かしたり、感覚を感じたりします。この情報伝達は電気的興奮によって行われています。

神経細胞の興奮は、興奮性シグナルと抑制性シグナルのバランスによって調節されています。

興奮性シグナルには主にグルタミン酸が、抑制性シグナルには主にGABAが関わっています。

この興奮と抑制のバランスが崩れると、神経細胞が過剰に興奮してしまい、てんかん発作が生じます。

つまり、興奮性シグナルが強いか、あるいは抑制性シグナルが弱いか、いずれかに問題があるということになります。

てんかん発作以外の症状

てんかん患者の20〜40%はなんらかの精神症状を合併していると言われています。

原因として、てんかん発作に関連するもの、脳の器質的障害、心理的影響、抗てんかん薬の影響などがあります。

よく見られる精神症状は気分障害や不安障害で、幻覚妄想などを伴うこともあります。

てんかん発作ではありませんが、てんかん発作のような症状がみられる心因性非てんかん発作がみられることもあります。

心因性非てんかん発作では、脳波に異常は認められません。

カウンセリングを中心とした心理療法が行われます。

てんかんの診断

まずは慎重に問診を行っていきます。親や周囲の人による発作時の目撃情報が重要になってきます。

てんかんは、発作を2回以上繰り返すことにより疑われます。意識障害だけであれば、てんかん以外の病気でもみられるからです。

診断で特に大切なのは、脳波です。脳の電気信号を読みとる検査ですが、てんかんでは大脳で過剰な電気的興奮が生じているので、当然異常が確認されます。

他にもMRIやCTといった画像検査がありますが、どちらかというと脳卒中や脳腫瘍など、他の診断の除外目的という色合いが強いです。

PETやSPECTといった優れたCT・MRIの画像検査もあり、てんかんの焦点部位の検索に用いられます。

てんかんの治療

てんかん治療の目的は、発作を予防することです。
薬物療法が中心となります。

薬物療法

てんかん発作は、興奮性シグナルと抑制性シグナルのバランスが崩れることによって生じます。

つまり発作を抑制するためには、興奮性シグナルを抑えるか、抑制性シグナルを活性化すればいいということになります。

興奮性シグナルは主にグルタミン酸、ナトリウムイオン、カルシウムイオンが関連します。

抑制性シグナルは主にGABAやクロライドイオンが関係します。

抗てんかん薬とは、グルタミン酸・ナトリウムイオン・カルシウムイオンのはたらきを抑制する、あるいはGABAを増やしたり活性化する薬です。

作用点が多いため、ターゲット部位に応じて、たくさんの抗てんかん薬が存在します。

抗てんかん薬の作用点

部分発作の第一選択薬はカルバマゼピンです。ラモトリギンやレベチラセタムの場合もあります。
第二選択薬はゾニサミド、フェニトイン、トピラマートです。

全般発作の第一選択薬はバルプロ酸ナトリウムです。

第二選択薬として、欠神発作に対してはエトスクシミド、ラモトリギンが用いられます。

ミオクロニー発作に対してはクロナゼパム、レベチラセタムが用いられます。

強直間代発作に対しては、ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマート、フェノバルビタールが使用されます。

他にも、ドラベ症候群に対してはスチリペントール、レノックス・ガストー症候群に対してはルフィナミド、ウエスト症候群に対してはビガバトリンの併用が考慮されます。

抗てんかん薬は、発作が起きなくても2年以上は服用し続けることが推奨されています。服用の中断は医師が判断します。

抗てんかん薬の基本は、単剤服用です。複数になると、副作用や薬同士の相互作用が問題となりやすいからです。

ですが、難治性のてんかんでは多剤併用となる場合がほとんどです。

脳の興奮をしずめることからわかるように、副作用として多いのは、眠気やめまいです。

薬によっては精神症状や消化器症状、歯茎が腫れるなどの副作用もみられます。多剤併用では副作用を生じやすくなるので、QOL(生活の質)が低下しやすくなります。

また、抗てんかん薬は生まれてくる子どもに奇形のリスクを伴います。ですが、発作を起こすほうが胎児に危険を及ぼすため、妊婦でも内服を中断してはいけないとされています。

そのため妊婦では、最も奇形リスクのあるバルプロ酸の使用を避け、できる限り低用量で発作をコントロールすることが望ましいとされています。

外科治療

抗てんかん薬では発作をコントロールできない時に考慮されます。

小児や、海馬硬化症などの器質的な病変による例では、早期に手術が検討されます。

術式には焦点切除術(側頭葉てんかんに有効)、脳梁離断術(脱力発作に有効)、軟膜下皮質多切術(MST)などがあります。

迷走神経刺激法

焦点切除術が適応にならない難治性てんかんが適応となります。

首の迷走神経に電極を設置し、鎖骨の下あたりの皮膚の下に刺激装置を埋めこみます。これにより迷走神経を刺激し、発作を抑制します。

装置を埋めこむためには、手術が必要となります。

発作の減少率は約50%と言われています。

補助療法であり、抗てんかん薬の服用は継続する必要があります。

ケトン食療法

難治性てんかんに対する食事療法です。

脂肪:炭水化物・たんぱく質の割合を3〜4:1にした高脂肪食です。

ケトン体の産生を促すことで、てんかん発作を抑制します。

難治性てんかん

抗てんかん薬を十分量で2種類以上使用しても、発作を抑えることができないてんかんです。

てんかん患者の約3割は発作をコントロールできていないと言われています。

ここでは、欧米で使用されているエピディオレックス(詳しくは後述します)の適応疾患であるレノックス・ガストー症候群、ドラベ症候群、そして結節性硬化症に合併しやすいウエスト症候群についてご紹介します。

レノックス・ガストー(Lennox-Gastaut)症候群

1〜8歳の幼児期(特に3〜5歳)に好発する難治性てんかんです。

強直発作、はっきりしない意識障害(非定型欠神発作)、ミオクロニー発作、脱力発作をきたします。てんかん重積状態も起こしやすいです。

これらの発作によりしばしば転ぶことが多く、頭や顔をケガしやすいです(転倒発作)。

精神発達遅滞も伴います。

原因としては、器質的な脳の病気や、ウエスト症候群からの移行などがあります。

治療の基本は抗てんかん薬の多剤併用(バルプロ酸、ラモトリギン、クロナゼパム、ルフィナミドなど)です。不十分であれば、ケトン食療法も行われます。

転倒発作に対しては、手術(脳梁離断術)が有効とされています。

しかし極めて難治であり、寛解率は20%以下と言われています。

ドラベ(Dravet)症候群

1歳未満(特に生後5〜6ヶ月)に好発するてんかんです。

原因は不明ですが、ナトリウムイオンの一部のチャネル(SCN1A)やGABAA受容体の一部(GABRG2)の遺伝子の変異が認められています。

入浴や発熱などをきっかけとして強直間代発作を起こし、発症します。
平熱でも発作を起こすようになり、1〜2歳ごろからはミオクロニー発作も伴うようになります。

思春期以降は睡眠中の発作が中心となり、発作は軽くなります。

知的障害や歩行を中心とした運動失調もみられます。

発作の寛解は難しく、治療は抗てんかん薬の多剤併用(バルプロ酸+クロバザム+スティリペントール)で、てんかん重積状態を予防することが目標となります。

ケトン食療法も有効とされています。

てんかん重積状態になりやすく、乳幼児期での死亡率が最も高く、約10%とも言われています。

ウエスト(West)症候群

4〜7ヶ月の乳児に好発するてんかんで、点頭てんかんとも呼ばれます。

頭をカクンと前にたらし、両手足を上に振り上げるてんかん性スパズムという発作を、数秒間隔で繰り返すのが特徴です(シリーズ形成)。

発達の遅れや退行(一度できるようになったことができなくなること)も認められます。

周産期に生じた障害、先天奇形、代謝異常、結節性硬化症などを原因として発症します。

※結節性硬化症とは

全身の臓器に結節性病変(過誤腫という腫瘍のようなものを形成)が多発する難病。染色体異常より生じる。てんかん、精神遅滞、顔面血管線維腫(顔に左右対称の赤いボツボツができる)を3徴とする。

治療の第一選択はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法です。

第二選択はビガバトリン(抗てんかん薬)の服用です。
ビガバトリンは1/3の症例で、治ることのない視野の狭窄が認められているため、講習を受けた専門医しか処方できません。

それ以外にも抗てんかん薬を内服したり、ビタミンB6大量療法やケトン食療法も行われることがあります。

発症後早期に対応することで、発達への影響を減らすことができるとされています。

ですが症候性では予後が悪く、10〜50%はレノックス・ガストー症候群へ移行すると言われています。

てんかんとCBD

てんかん発作のイラスト2

CBD(カンナビジオール)がてんかんに効くという事実が広まったのは、アメリカにいた1人の少女がきっかけでした。

彼女の名前はシャーロット・フィギー。ドラベ症候群を患い、1日に何度もてんかん発作を繰り返し、医師からは余命宣告までされていました。

そんな彼女がCBDオイルを使用したところ、発作がピタリと止み、余命宣告をものともせずに生き続けることができました(ただし2020年、新型コロナウイルスに感染したのをきっかけにこの世を去っています)。

2013年、その一部始終がテレビ番組「WEED」で放送されたことにより、てんかんに対するCBDの医療効果どころか、CBDの認知度自体が一気に上昇し、医療用大麻を合法化するところも増えていきました。

CBDは難治性てんかんに有効

抗てんかん薬にはたくさんの種類がありますが、患者の約3割は十分な薬効を得ることができていません。

前述したように、ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群、ウエスト症候群などは、その典型例になります。

このようなてんかんに対し、CBDが治療効果を示した研究や論文が海外では数多く存在します。そのうちの一部を紹介していきます。

2018年の研究では、レノックス・ガストー症候群の患者171名(2〜55歳)のうち、86名がCBD20mg/kg/日、85名がプラセボを約6ヶ月間服用しました。

発作の減少率はCBDで43.9%、プラセボで21.8%でした。

副作用は74名に認められ、主な症状は下痢、傾眠、発熱、食欲低下、嘔吐でした。また、副作用により12名が治療を中断しています。

別の2018年の研究では、週に2回以上転倒発作を起こしているレノックス・ガストー症候群の患者225名のうち、76名にCBD20mg/kg/日を、73名にCBD10mg/kg/日を、76名にプラセボを28日間投与しました。

発作の減少率は、CBD20mg/kg/日の群では41.9%、10mg/kg/日の群では37.2%、プラセボ群では17.2%となりました。

副作用で多かったのは傾眠、食欲低下、下痢で、特に20mg/kg/日の群で多く認められました。また、血液検査上肝臓の異常を示すデータが14名に認められました。

CBD20mg/kg/日の群で6名、10mg/kg/日の群で1名は、副作用により治療を中断しました。

2020年の論文では、月に4回以上てんかん発作のあるドラベ症候群の患者198名(平均年齢9.3歳、男性94名、女性104名)のうち、67名にCBD20mg/kg/日を、66名にCBD10mg/kg/日を、65名にプラセボを14週間服用してもらった結果が報告されています。

発作の減少率は、20mg/kg/日の群で45.7%、CBD10mg/kg/日の群で48.7%、プラセボで26.9%となりました。

副作用で多かったのは、食欲低下、下痢、傾眠、発熱、疲労感で、20mg/kg/日の群のうち5名はCBDの服用を中断しています。

また、10mg/kg/日の群で3名、20mg/kg/日の群で13名に肝臓の異常を示すデータが認められました。これらの人はみなバルプロ酸ナトリウム(全般発作の第一選択薬)を服用していました。

DSの患者198名を対象にした論文(2020年)

2019年の論文では、てんかん患者607名(ドラベ症候群58人、レノックス・ガストー症候群94人、その他455名)が治療のためにCBDを使用した結果が報告されています。

ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群の患者は平均して3種類の抗てんかん薬を服用していました。

CBDの摂取量の平均は21〜25mg/kg/日で、治療の平均期間は78.3週(4週〜146週)でした。

ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群の患者のうち、28%は有効性が認められず、治療を中断しました。

12週間の投与により、月に起こる強直間代発作は平均して50%、その他の発作も含めると44%の減少が認められました。

強直間代発作が50%以上減少したのは参加者のうち53%、75%以上減少したのが23%であり、6%は完全に発作が消失したと報告しています。

なお、この効果は96週間CBDを使用し続けた人でも同様に確認されました。これは、CBDは治療耐性がつきにくいということを意味しています。

最もみられた副作用は、傾眠(30%)および下痢(24%)でした。

今後日本でも、エピディオレックスの治験が行われる予定です。

これらの研究や論文から、CBDは数多くの難治性てんかんの人を救っていること、そして副作用がないわけではないですが、重篤なものはないことが分かります。

高濃度CBD製剤「エピディオレックス」

欧米では、エピディオレックス(epidiolex)という高濃度のCBD製剤がFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認され、医薬品として使用されています。

1mlあたり100mgのCBDが含有されています。

適応疾患はドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群、結節性硬化症に起因するてんかんです。

適応年齢は2歳以上とされています。

添付文書によると副作用は10%以上で出現し、主なものとして傾眠、食欲低下、下痢、疲労感、不眠、肝臓の異常を示すデータなどが挙げられています。

CBDがてんかんに効くメカニズム

なぜCBDがこれほどてんかんに効果があるのか、まだはっきりとしたメカニズムは分かっていません。ですがまったく分かっていないわけでもありません。

いくつかの研究や論文を元に、考察していきます。

理解しやすいように、もう一度復習します。

てんかん発作は大脳の神経細胞が過剰に興奮することにより生じます。この原因は興奮性シグナルと抑制性シグナルのバランスが崩れることでした。

てんかん発作を抑制するためには、興奮性シグナルを抑えるか、あるいは抑制性シグナルを高める必要があります。そのいずれかの作用を有するのが、抗てんかん薬でした。

抗てんかん薬の作用点

興奮(グルタミン酸)性シグナルを抑える

神経細胞の興奮は、ナトリウムイオン、カルシウムイオンといった陽イオンが細胞内に流入することにより発生します。

ナトリウムイオンは、シナプス前膜にあるナトリウムイオンチャネルと、シナプス後膜にある電位依存性ナトリウムチャネルからとりこまれています。

似たような感じで、カルシウムイオンは、シナプス前膜にあるカルシウムイオンチャネルと、シナプス後膜にあるT型カルシウムイオンチャネルからとりこみが行われています。

つまりこれらのイオンの取りこみを防ぐことは、てんかん発作の抑制に有効ということになります。

2001年の研究では、カルシウムイオンの増加によりエンドカンナビノイドが放出され、CB1受容体を介してシナプス前膜におけるカルシウムイオンの取りこみが阻害され、神経の興奮が抑制される可能性が示されました。

CBDはエンドカンナビノイドの分解酵素を阻害することにより、エンドカンナビノイドシステムを活性化するはたらきがあるため、カルシウムイオンの調節を通して、てんかん発作を抑制している可能性があると言えます。

ですが、CBDのてんかん発作の抑制は、主にエンドカンナビノイドシステム以外の作用によるものと考えられています。

CBDが結合する受容体には様々なものがあります。

その中の1つであるバニロイド(TRPV1)受容体は、てんかん治療において注目を浴びています(参考論文) 。

TRPV1受容体は活性化することにより、シナプス前膜でのグルタミン酸の放出とカルシウムイオンの流入を促進するため、神経細胞の興奮をもたらします。

CBDはTRPV1受容体に作用し、やがて脱感作(受容体の感受性を低下させること)します(参考論文)。それによりカルシウムイオンの流入が減少するようになり、興奮系シグナルを抑制すると考えられています。

2008年の研究では、CBDはT型カルシウムイオンチャネルを阻害することが示されています。つまりシナプス後膜におけるカルシウムイオンの流入を阻害することで、興奮系シグナルを抑える可能性があります。

CBDはGPR55受容体に拮抗作用をもたらします。GPR55受容体は脳内に数多く存在し、神経伝達の促進のために、カルシウムイオンの放出を誘導していると言われています。

つまりてんかんにおいては、GPR55受容体を阻害することは、興奮系シグナルの抑制に結びつくと考えられます。

2019年の研究では、てんかんのマウスのGPR55受容体を介した神経伝達の調節は、興奮性シグナルで増強され、抑制性シグナルでは減少していることが分かりました。

このマウスにCBDを投与したところ、GPR55受容体を介した電気的興奮が強力に阻害されました。また、GPR55受容体を欠損させたマウスでは、CBDによる抗てんかん作用が減弱したと報告しています。

2016年の研究では、CBDは電位依存性ナトリウムチャネルを阻害することにより、神経興奮の抑制にはたらきかけることが示されています。

このようにCBDは様々な作用点を通して、興奮性シグナルを抑制すると考えられています。

抑制(GABA)性シグナルを高める

抑制性シグナルは、シナプス前膜からGABAが放出され、シナプス後膜にあるGABAA受容体が活性化することにより、細胞内にクロライドイオンが流入し、興奮がしずまるという流れになっています。

抗てんかん薬のうち、GABAの分解を阻害することで、GABAの放出を促進するのがバルプロ酸ナトリウムであり、GABAA受容体にあるベンゾジアゼピン受容体に作用するのが、クロバザムやジアゼパムといった抗てんかん薬です。

2017年のマウスの研究では、CBDがGABAA受容体を介して神経の興奮を抑制する可能性が指摘されています。

これにはGRP55受容体への拮抗作用が関係していると示されています。

2017年の別の研究でも、CBDがGABAA受容体に作用することで、抗てんかん作用を示す可能性が指摘されています。

これらのことから、CBDは抑制性シグナルを高めることで、てんかん発作を抑制している可能性があります。

抗てんかん薬の作用を強める

CBDは難治性てんかんに対し治療効果がみられていますが、ほとんどの患者が抗てんかん薬も併用しています。よって薬との相互作用にも注目する必要があります。

薬の代謝は肝臓で行われます。そこで活躍するのが、シトクロムP450(CYP)という酵素です。

2011年の研究では、CYPの中でも、CBDは特にCYP3A4、CYP3A5を強力に阻害することが示されています。

CYP3A4を阻害する身近なものとして、グレープフルーツがあります。

部分発作の第一選択薬であるカルバマゼピンでは、薬の作用が想定よりも増強してしまうリスクがあるため、グレープフルーツの摂取は避けるように指導されます。

1977年のマウスでの研究では、CBDは抗てんかん薬であるフェニトインの効力を増強し、逆にクロナゼパム、トリメタジオン、エトスクシミドといった抗てんかん薬の効果を低下させました。

2015年の研究では、難治性てんかん患者13名が、抗てんかん薬クロバザムとCBDを併用することによる作用および副作用をモニタリングしました。

このうち10名は、CBDを併用中にクロバザムの服用量を減らしても、血中のクロバザムの濃度は高いまま維持され、発作の減少も認められました。

また10名に副作用がみられましたが、クロバザムを減量することにより軽減されたと報告されています。

先ほど示したように、2020年の論文では、ドラベ症候群の患者がCBDを服用することにより発作の減少を認めましたが、133名中16名は採血上肝臓の異常を示すデータも認められました。

この16名が全員バルプロ酸ナトリウム(全般発作の第一選択薬)を服用していたというのは、良くも悪くも効果を増強していた可能性があり、注目に値します。

これらのことから、CBDは一部の抗てんかん薬の作用を増強することで、治療効果を高めている可能性も考えることができます。

ただしお分かりのように、抗てんかん薬による副作用の頻度を増やしたり、悪化させる可能性があるため、注意が必要となります。

このようにCBDは複雑に作用することによって、てんかん発作を抑制していると考えられています。

他にも、セロトニン受容体やアデノシン受容体を介して抗てんかん作用をもたらしている可能性も指摘されています。

これまでのことを図にまとめると、以下のようになります。

てんかんに対するCBDの治療効果(仮説)

カンナビノイド医療 患者会(PCAT)

前述した研究からわかるように、てんかん治療のためにCBDを服用するには、毎日体重1kgあたり、およそ10〜20mgの量が必要になります。

体重10kgの子どもでは、毎日CBD100〜200mg服用する必要があるということです。

CBDは難治性てんかんの人にとって大きな希望といえるものですが、コストパフォーマンスはいいとは言えません。

その問題を助けてくれるのが、カンナビノイド医療 患者会(PCAT)です。

PCATは、難治性てんかんに対しCBDを使用している患者家族と、医療従事者で構成された非営利の団体です。

この団体は一般社団法人GreenZoneJapanのチャリティバンク「みどりのわ」を継承しています。

「みどりのわ」とは、難治性の病気の人が医師の助言のもと、CBDを安価で使用することを可能にしたプログラムです。主に難治性てんかんが治療の対象となっています。

難治性てんかんの子どもに対しCBDでの治療を検討している方は、大きな助けになると思いますので、ぜひチェックしてみてください。

てんかんと医療用大麻

てんかんと医療用大麻

てんかんに対する医療用大麻の効果についてお話していきます。

ご存知のように、現在日本では大麻は違法となっています。また、精神活性作用を持つカンナビノイドであるTHC(テトラヒドロカンナビノール)も、取り締まりの対象となりうるものとなっています。

2015年の論文では、医療用大麻はてんかんに治療効果があったり、逆に悪化させたとの報告もあります。

THCはCB1受容体に部分的に作用し、神経興奮を抑制すると言われています。

ですがいくつかの研究では、CB1受容体を介したこの作用は、耐性を生じていくと指摘されています。

つまり使用していくにつれ、だんだんと抗てんかん作用を得ることができなくなっていくということです。

また2005年の研究では、THCはT型カルシウムイオンチャネルを阻害しますが、一方で活性化し、カルシウムの流入を増やす可能性も指摘されています。これはてんかん発作を誘発するリスクがあることを意味しています。

では、THCはてんかん治療において悪者なのでしょうか?
おそらくTHC単体、あるいは高用量のTHCではそうかもしれません。

さきほど、ドラベ症候群を患ったシャーロットがCBDオイルを使用することにより、病状が劇的に改善したとお話しました。

実はこのオイルには、少量のTHCが含まれていました。

この”少量のTHC”というのが、鍵になります。

2016年のイスラエルの研究では、7種類以上の抗てんかん薬を使用しても治療効果がみられない1〜18歳の患者74名に対し、CBD:THC = 20:1のオイルを1〜20mg/kg/日の量で、3ヶ月以上(平均6ヶ月)使用してもらいました。

発作回数を保護者(返答があったのは74名中66名)に評価してもらったところ、75〜100%の減少が13名(18%)、50〜75%の減少が25名(34%)、25〜50%の減少が9名(12%)、25%未満が19名(26%)に認められました。

それにあわせて覚醒レベル、言語能力、運動能力、睡眠にも改善がみられたと報告されています。

副作用としては傾眠、疲労感、胃腸障害、過敏症がみられており、5名が治療を中断しています。

難治性てんかん患者66名を対象にした研究(2016年)

2020年のイギリスの論文では、難治性てんかん患者10名(2〜48歳)が、THCを含んだCBDオイルを摂取した症例が報告されています。

抗てんかん薬の服用量は平均して8種類であり、うち4名はエピディオレックスでも治療効果が認められませんでした。

オイルを使用することにより、月間の発作回数は平均して97%の減少が認められました。抗てんかん薬の服用量も平均して1種類にまで減っています。

さらに保護者からはパニック発作、不眠症、認知能力や言語能力の改善も報告されています。

副作用は特に報告されていません。

1日の摂取量はTHCが6.6mg〜26.5mg、CBDが200〜550mgでした。

2021年の研究では、10名の難治性てんかん患者(このうち2名がエピディオレックスも無効であった)に対し、THCを含有したCBDオイルを使用しました。

平均年齢は6.2歳(1〜13歳)で、抗てんかん薬を平均して7種類使用していました。

データは2021年の1〜5月の間で収集されました。

10名全員に月間の発作回数の減少が認められ、減少率の平均は86%でした。

抗てんかん薬の服用量は平均して1種類(±1.23)に減り、うち7名が薬をやめることができたといいます。

また、睡眠、食事、行動、認知に関する改善も報告されています。

THCとCBDの濃度は製品によりバラバラであり、他のカンナビノイドやテルペンも含有されていましたが、平均の1日の摂取量はTHCが5.15(±6.8)mg、CBDが171.8(±153.3)mgでした。

対象人数が少なく、プラセボ群がないといった点は気になりますが、エピディオレックスが効かなかった人に対しても治療効果がみられたことは、驚くべきことと思います。

大麻草に含まれるカンナビノイドは、CBDやTHCだけではありません。

2021年の論文では、CBD以外にもCBDVTHCVCBGといったその他のカンナビノイドにも、てんかんに治療効果をもたらす可能性が指摘されています。

以上のことから、CBDだけでなく少量のTHCやその他のカンナビノイドも含まれることにより、てんかんへの治療効果がより高くなると考えられます。

まとめ

てんかんの基礎知識、そしててんかんに対するCBDや医療用大麻の治療効果についてお話してきました。

・てんかんは大脳の神経細胞の過剰興奮によって起こる
・治療の中心は抗てんかん薬だが、約3割が十分な効果を得られていない
・CBDは様々な作用を通して、難治性てんかんにも治療効果を発揮する
・CBDだけでなく、少量のTHCやその他のカンナビノイドも含有することにより、より高い治療効果がみられる可能性がある

最初の一文に戻ります。

想像してみてください。

もし自分の子どもがドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群など、難治性のてんかんを患ってしまったら、どうしますか?

子どもはたくさん薬を飲んでいるにもかかわらず発作が起き、ずっと眠そうにしているかもしれませんね。いつ発作が起こるか分からず、不安で怯えてるかもしれません。てんかん重積状態になったら命の危険もあります。

あなたが親だったら、「薬が効きづらいてんかんだし、仕方ないね」ですませることができるでしょうか?

ようやく日本でもエピディオレックスの治験が開始されようとしているところです。間違いなくこれは進歩と言えますし、本格的に処方されるようになれば、救われる人は多いでしょう。

一方でTHCは、依然として厳しく規制されています。それどころか、もはや大麻使用罪という法律まで作られようとしています。

少量のTHCも使うことができれば、より多くの子どもを救うことができるかもしれません。

もしかしたらそれは、国民一人ひとりが声を上げることで実現できるかもしれません。

一人でも多くの子どもが、笑顔を取り戻すことができますように。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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