大麻に含まれる成分CBDは抗てんかん作用を有することで知られており、この成分を高濃度に含有した医薬品「エピディオレックス」による治験が日本でも行われようとしています。ですが、CBDによる抗てんかん作用のメカニズムはいまだに明らかとなっていません。
11月16日、CBDの抗てんかん作用に腸内細菌の調節や抗炎症作用が関与する可能性が中国の研究者らにより報告されました。
「腸内フローラ」という言葉が浸透しているように、腸内には様々な常在菌が存在します。腸内細菌は神経を介して脳と相互作用すること(脳腸相関)が明らかとなってきており、脳の病気とも関連することが指摘されるようになっています。
これはてんかんにおいても同様です。1つ、アメリカの興味深い研究報告をご紹介しましょう。
ストレス負荷をかけ続けたマウスの脳に電流を流すと、てんかん発作を起こしやすく、発作時間も長くなりました。しかし、このマウスにストレス負荷をかけなかったマウスの腸内細菌を移植すると、正常なマウスと同様、電流を流しても発作が起きにくく、起きても発作時間が短かったといいます。
つまり、ストレスにより腸内細菌が変化するという事実とともに、腸内細菌がてんかんの病態に関与することが示されたということになります。
また、難治性てんかんの治療法の1つとして「ケトン食療法」というものがあります。ケトン食は脂質をメインとし、炭水化物を少なくした食事です。
この食事療法が有効となるメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、腸内細菌を整えることが作用機序の1つとして考えられています(てんかんと腸内細菌との関連について興味のある方はこちらの論文を参照ください) 。
大麻に含まれる成分であるTHCやCBDは腸内細菌を調節することが明らかとなってきており、例えばパーキンソン病モデルマウスにおいて、CBDが脳腸相関を整えることにより有効性を示したことが報告されています。
また、てんかんには「脳の炎症」が関与しているとも言われています。脳の免疫反応は主にミクログリアという細胞が司っています。ミクログリアは「諸刃の剣」とも表現され、炎症反応を起こす攻撃的な型(M1型)と、抗炎症反応により回復を促進する保護的な型(M2型)が存在します。
てんかんにおいては、ミクログリアはM1型で過剰な炎症反応を引き起こすため、それをM2型へとシフトさせることで発作を緩和できる可能性があるとされています。
少し長くなってしまいましたが、本題に入ります。
今回の研究では、ピロカルピンによりてんかん発作を誘発させたラットに対し、CBDを低用量(20mg/kg)あるいは高用量(100mg/kg)で経口投与し、抗てんかん薬であるカルバマゼピン(75mg/kg)と比較しながら有効性が検証されました。
てんかんモデルラットでは発作が誘発されたのはもちろんのこと、脳内において炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α)が有意に増加。ミクログリアはM1型が増加し、M2型が減少した状態となりました。
CBD使用により、発作が起こるまでの時間、発作の程度と持続時間は減少。ミクログリアはM1型が減少し、M2型が増加。炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α)の上昇を抑制し、抗炎症性サイトカイン(IL-10、IL-4、TGF-β1)を有意に増加させました。
CBDは高用量であるほど有効性が高く、発作の減少と炎症性サイトカインの抑制の程度はカルバマゼピンと有意差がないほどでした。むしろ、抗炎症性サイトカインの増加に関してはカルバマゼピンよりCBDのほうが勝っていました。
続いててんかんモデルラットの糞便を調べたところ、健康なラットと比べヘリコバクター属、ローズブリア属、ユウバクテリウム属、プレボテラ属、ルミノコッカス属といった腸内細菌に変化が認められ、これらは脳内の炎症と有意に関連していました。
CBDはこれらの腸内細菌の変化を部分的ながら改善し、この作用は腸内細菌の代謝(グリセロホスホコリン、グリコケノデオキシコール酸など)に関与することによりもたらされたことが示されました。
これらの結果から研究者らは「CBDはてんかんラットの腸内細菌を調節し、脳の炎症を抑えることで抗てんかん作用をもたらしている可能性がある」と結論づけています。