参院厚労委、大麻法改正法案を可決

参院厚労委、大麻法改正法案を可決

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12月5日、参議院厚生労働委員会において「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案」が賛成多数で可決されました。

同法案は11月14日に衆議院を通過。法案の舞台は参議院へと移され、11月29日には参議院厚生労働委員会において参考人意見陳述が行われました。

およそ5時間に及ぶ今回の質疑・討論では、登壇した全ての議員が大麻由来医薬品の利用を支持。一方で、大麻使用罪に関しては立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組から反対意見がみられました。

目次

大麻由来医薬品について

現行の大麻取締法には、大麻由来医薬品の施用を禁止する条項が存在。改正法ではこれが丸々削除されることで、大麻由来医薬品の施用が可能となります。

神谷正幸議員(自由民主党)は医療用大麻の定義について質問。厚生労働省医薬局長である城克文氏は「明確な定義はない」としながらも、国内で利用可能になるのは「大麻草の成分を抽出して製造した医薬品」のみであり、「医薬品・医療機器等法に基づいて承認を得たものを想定している」と返答。

加えて、海外の医療用大麻合法国・地域で承認されているような”大麻たばこ”の使用は認められないと説明しました。

すでに国内では一部の難治性てんかん患者を対象とし、高濃度のCBDを含有した大麻由来医薬品「エピディオレックス」の治験が開始されています。城医薬品局長によれば、エピディオレックスの医薬品承認は2024年後半頃になる見込みです。

一方、大麻の医療効果はてんかんでのみ認められているわけではありません。例えば、委員会の質疑において大椿ゆうこ議員(立憲民主党)は、スペイン国籍のカタルーニャ人である連れ合いが緑内障を患っており、医師から眼圧を下げるために大麻の使用を勧められたことについて語っています。

これに関して城医薬品局長は、サティベックスマリノールといったTHCを含有した医薬品についても、今後国内でニーズがあれば「開発・導入が可能」と明言。これらの医薬品はHIV、多発性硬化症、がん性疼痛などに用いられています。

今回の法改正は、日本臨床カンナビノイド学会の働きかけに応じ、秋野公造議員(公明党)が2019年の国会質疑で大麻由来医薬品の治験が可能であるとの確認を得たことがきっかけの1つとなっています

秋野議員は、エピディオレックスの適応症はわずか3疾患(ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群、結節性硬化症)のみであるが、これら以外にも生活の質を維持するために大麻成分を必要とする患者がいることを強調。実際に市販のCBD製品がこれらの患者において役立てられていると述べました。

このようなCBD製品には、今年9月に指定薬物とされた大麻成分「THCV」を含んだ製品も存在。なお、CBDは単体で服用するよりも、THCVなどその他の大麻成分と一緒に服用することでより高い効果をもたらす場合があります

日本臨床カンナビノイド学会からの要望に応じ、秋野議員はこれについて濱地雅一厚生労働副大臣に相談。その結果、必要とする当該患者において、THCVを含有したCBD製品が利用可能であるとの通知が発出されました。

秋野議員は今回の質疑において、これについて再確認。濱地厚生労働副大臣は、難治性てんかん患者は手続きを行うことで、QOLの維持・向上を目的として、THCVを含有した製品(THC残留値が制限値以下であれば、製品の指定はない)を利用できると返答しました。

CBD産業について

改正法では、これまで大麻草の茎・種以外を違法な”大麻”と定めていた「部位規制」から、精神活性成分THCの含有量を基準とした「成分規制」へと変更されます。この変更により、これまで実質不可能であったCBD製品の国内生産が可能となり、今後産業が拡大されることが見込まれます。

衆議院厚生労働委員会での審議で述べられたように、CBD企業は各々が責任を持って検査を行い、製品に含まれるTHCが制限値以下であることを証明する必要があります。加えて、行政はCBD製品の買上げ調査を行うことで、規制が遵守されているかどうかを確認していく予定です。

THCの制限値に関しては現時点で未定。城医薬品局長によれば、海外の制限値を参考にしながら、限りなく0に近い数値で設定される見込みです。

買い取り調査においてCBD製品から制限値以上のTHCが検出された場合、販売業者は直ちに製品回収を行うよう指示され、これらの製品を購入した消費者も販売事業者に返品もしくは保健所に相談する必要があります。

なお、城医薬品局長によれば、これらについては麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)違反に該当する可能性があるものの、一般的に「故意でなければ」罪に問われることはありません。

他にも委員会質疑では、試験管内の研究においてCBDが熱や酸によりTHCに変換された報告があることについて、懸念の声が聞かれました。

この懸念に対し城医薬品局長は、人や動物における研究では生体内でCBDがTHCに変換されておらず、通常の保存ではそのような化学変化は起こらないと説明。ただし、意図的にCBDをTHCに変換した場合には麻薬の無許可製造に該当するため、処罰の対象となると述べました。

一方、今回の質疑では、CBD事業者に対する厳しい指摘もみられています。

前述したように、現在THCVは国内で指定薬物とされています。THCVは当時流通していたTHCBなど精神活性作用のある物質と化学構造が類似していたことから、これらの物質の流通を防ぐための一環として包括規制の対象とされました。

これに関して秋野議員は、THCVを切実に必要とする患者がいる中で「非常に残念」と発言。「患者の命が関わっている」ことを認識し、「心して対応していただきたい」と述べ、CBD事業者に対し責任ある販売を求めました。

産業用大麻について

改正法案では、都道府県知事から免許(第一種大麻草採取栽培者免許)を取得することで、産業用大麻(ヘンプ)を栽培することが可能となります(現在も産業用大麻の栽培は可能だが、免許の名称が変更となる)。

なお、医薬品原料(CBDを始めとしたカンナビノイド等)の採取を目的とした「第二種大麻草採取栽培者免許」、大麻草の研究を目的とした「大麻草研究栽培者免許」に関しては、厚生労働大臣から免許を取得する必要があります。

参考人からは産業用大麻に関しての意見も聴取されましたが、今回の委員会審議ではこれについての質疑はほとんど行われませんでした。

大椿ゆうこ議員(立憲民主党)は、法案の審議において大麻農家の方々から「蚊帳の外に置かれている」との声が寄せられていると指摘。今後栽培できる大麻の品種が一元化されるのではないかとの声も聞かれていると述べました。

これに対し城医薬品局長は、政府から品種が指定されることはないと明言。THCが制限値以下の大麻草であれば、海外の品種も含め、目的に沿った栽培を行うことが可能であると返答しました。

また、既存の大麻農家に関しては、すでにTHCを一定量含んだ大麻を栽培している場合もあるため、低THCの大麻栽培に切り替えるための移行期間が設けられると説明されています。

大麻使用罪・薬物政策について

改正法では、大麻由来医薬品が”医療用麻薬”として施用されることに伴い、大麻及び自然由来のTHCは麻向法の下で規制されます(化学合成由来のTHCはすでに麻向法で規制されている)。これにより、これまで犯罪とされていなかった大麻の使用も刑罰の対象となり、大麻の使用・所持・譲渡・譲り受け等には7年以下の懲役が課せられます。

加えて、厚生労働省は新たに大麻使用罪を設ける理由について、若年者による大麻検挙者数が増加していること、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動を始めとした「一次予防」が日本において一定の成果を収めていることを指摘。

実際、日本における大麻の生涯使用率は1.4%と報告されており、欧米諸国と比較して極めて低い割合となっています。

衆議院厚生労働委員会での質疑とは異なり、今回は大麻使用罪の運用方法についての質問はほとんどありませんでした。

高木真理議員(立憲民主党)は、大麻の受動喫煙による誤認逮捕の可能性について質問。城医薬品局長は「客観的状況から判断」することに加え、副流煙による曝露は大麻使用者と比べて尿中のTHC-COOH(THCの代謝産物)濃度が低いことから、副流煙による曝露の判別は可能であると返答しました。

ただし、現時点で大麻使用者と判断される尿中THC-COOH濃度については明らかにされていません。

ほとんどの議員が薬物の一次予防の重要性に対して理解を示す中、大麻の厳罰化に関しては立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組から反対意見が聞かれました。

石橋通宏議員(立憲民主党)は、大麻の使用による新たな前科を生み出すことで、若者の社会復帰が妨げられ、かえって「若者を追い詰めることになるのではないか」と懸念を表明。

武見厚生労働大臣はそのような可能性を認めつつも、専門家からは刑事司法手続きがないと薬物依存症患者が治療にアクセスできないとの指摘も受けていると返答。これらの人々に対しては第6次薬物乱用防止5か年戦略に基づいた取り組みにより、回復支援を推進していくと述べました。

石橋議員は、刑事司法手続きがないと依存症患者が治療にアクセスできないという意見に対し、「今の体制が悪いからではないのか」と指摘。このような状況は新たな刑罰を設ける前に改善されるべきであると述べ、「順番が違う」と批判しました。

今回の委員会審議では、参考人の意見が反映された質疑がいくつか見られました。

例えば、高木真理議員(立憲民主党)は、大麻の有害性がアルコールやたばこよりも低いことを客観的に示した論文(2010年に「The Lancet」に掲載)を引用し、大麻を厳罰化するには不適切なのではないかと指摘。

これについて厚生労働省は、この論文には「賛否両論の意見」があると述べ、「信憑性には疑いがある」と返答。

また、薬物の生涯使用率の調査方法に関して、下水から検出された薬物濃度から推定値を算出する方法が望ましいのではないかという質疑もありました。

これに対して城医薬品局長は、国内におけるアンケート方式の調査は匿名で行われていることから信憑性が保たれていると説明。下水による調査では抗菌薬でも検出量が少ないため、日本では「有効ではない」と述べました。

他にも、大椿ゆうこ議員(立憲民主党)は、昨年バイデン大統領が大麻の単純所持で有罪判決を受けた人々に恩赦を与えたことについて質問。

武見厚生労働大臣は、アメリカでは国民の40%が大麻を経験していること、人種によって不釣り合いな取締りが行われていたことから、日本とは状況が異なると返答。薬物政策は各国によって構築されるべきとの考えを示しました。

倉橋明子議員(日本共産党)は、ハームリダクションに基づいた薬物政策の必要性について言及。

これに対して武見厚生労働は「我々は違う考えを持っている」とし、日本では大麻を含めた薬物の生涯経験率が海外と比べて極めて低いことから、ハームリダクションのような政策はかえって誤解を招き、一次予防の効果が期待できなくなる恐れがあると述べました。

天畠大輔議員(れいわ新選組)は11月14日に発表した声明にもあるように、大麻使用罪の創設が成立ありきで”恣意的に”進められた可能性について追求しましたが、厚生労働省は一貫して否定しました。

質疑の後の討論において、れいわ新選組は大麻に関する罰則をこれまで通りのものとする修正法案を発表。日本共産党もこれに同意しましたが、その他の議員からは賛成が得られませんでした。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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