参院厚労委 大麻法改正法案に関する参考人意見 -前編-

参院厚労委 大麻法改正法案に関する参考人意見(前編)

- 大麻の医療・産業利用に関する意見

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11月29日、参議院厚生労働委員会は「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案」の審議を行うにあたり、参考人から意見を聴取しました

同法案は11月14日に衆議院を通過。審議の舞台は参議院へと移されました。

今回、参議院厚生労働委員会は同法の審議に向け、以下4名の参考人を招致しました。

太組一朗(一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会理事長 聖マリアンナ医科大学脳神経外科学教授)

大森由久(日本大麻生産者連絡協議会会長)

丸山泰弘(立正大学法学部教授)

岡崎重人(特定非営利活動法人川崎ダルク支援会理事長)

前編となるこの記事では、太組氏と大森氏の意見陳述をご紹介。太組氏は大麻由来成分の医療活用について、大森氏は伝統大麻と大麻の産業利用について、それぞれ専門的な立場から意見を述べました。

医薬品だけでなく、市販の製品の利用も支援

カンナビノイドの研究促進、教育、普及活動等を行う「日本臨床カンナビノイド学会」の理事長であり、神奈川県のてんかん拠点病院「聖マリアンナ医科大学病院」の脳外科医である太組一朗氏は、大麻法改正法案について賛成であるとの立場を表明。

今回の法改正の大きなポイントは「大麻由来医薬品の利用が可能になること」にありますが、太組氏はこのきっかけを作った立役者の一人です。

日本国内には約100万人のてんかん患者が存在。7割の患者は薬物療法、手術等により改善が認められているものの、残り3割の患者は十分な効果を得られず、未だ苦しみ続けている状況にあります。

このような中、米国FDAは2018年に大麻由来医薬品「エピディオレックス」を承認。1mlあたり100mgのCBDを含むエピディオレックスは、標準治療で効果が乏しいてんかん患者に対し高い効果をもたらしています。

しかし、現行の大麻取締法では、日本国内においてエピディオレックスを利用することができません。

太組氏は、日本臨床カンナビノイド学会の副理事長及び一般社団法人「Green Zone Japan」の代表理事である正高佑志氏と共に、大麻由来医薬品を日本でも活用できる道を切り開くため、公明党の秋野公造参議院議員に要望書を提出。

その後、秋野議員が国会での質疑で大麻由来医薬品の治験が可能と確認したことで、エピディオレックスの治験が日本でも2022年末より開始されました

太組氏は聖マリアンナ医科大学病院で行われているエピディオレックスの治験について「順調に進んでおります」とコメント。

なお、エピディオレックスの適応症は乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)、レノックス・ガストー症候群、結節性硬化症の3種類のみ。しかし、エピディオレックスに含まれるCBDはこれらのてんかん以外においても有効性が報告されています

国内でもそのような症例は存在。太組氏は大田原症候群ウエスト症候群(点頭てんかん)などのてんかん患者が、市販のCBD製品を利用することで大幅にQOLが向上したことについて語りました。

このことから、太組氏は大麻由来医薬品の適応症以外の患者も「大切にしたい」と述べ、市販のカンナビノイド製品に関しても、正規の用途であれば利用を支援していきたいと発言。

また、白血病の子供が病院でカンナビノイド製品による治療を中断させられた話を取り上げ、カンナビノイド製品を必要としている患者が差別されることがないように取り組んでいきたいとの考えを明らかにしました。

他にも、梅村聡議員(日本維新の会)から質問を受けた太組氏は、大麻由来医薬品がてんかん以外の病気にも有効になり得ると回答。ただし、具体的な疾患・症状については言及しませんでした。

一方、大麻由来医薬品は”医療用麻薬”として施用されることから、大麻やTHCを麻薬と指定し、これらの使用者に対し罰則を課すことは「必須のプロセス」であると太組氏は述べました。

麻は日本の伝統・生活文化において「なくてはならないもの」

日本大麻生産者連絡協議会会長の大森由久氏は、栃木県鹿沼市で「とちぎしろ」と呼ばれる麻(産業用大麻、ヘンプ)を栽培。大森氏の家系は江戸時代から代々麻を栽培しており、大森氏は7代目にあたります。

大森氏は麻の種まきから加工に至るまでのプロセスを簡単に説明。加工された麻は神事、伝統文化、生活文化(ロープ、凧糸、太鼓、衣服等)に活用されると述べました。

その中で、大森氏は日本の花火が世界一きれいと言われている背景には、麻から作られる「麻炭」が欠かせないとアピール。

また、大森氏は麻がら(麻の茎の表皮を剥いで乾燥させたもの)をチップ状に粉砕して作った「ヘンプクリート」を披露。化学物質が不使用であるにも関わらず、吸湿性や断熱性に優れ、環境に優しい特性を持つと説明しました。

大森氏は麻由来のプラスチックについても紹介。耐久性に優れたこのプラスチックを使用すれば、軽量化が必須とされるEV車の外装を作ることも可能になるだろうと語りました。

他にも、麻の実そこから絞り出したオイルは食品や化粧品としても活用できると述べ、麻には「捨てるところがない」とアピールしました。

改正法案によれば、日本国内で麻を栽培するには、都道府県知事から免許(第一種大麻草採取栽培者免許)を取得する必要があります。

なお、医薬品原料(CBDを始めとしたカンナビノイド等)の採取を目的とした「第二種大麻草採取栽培者免許」、大麻草の研究を目的とした「大麻草研究栽培者免許」に関しては、厚生労働大臣から免許を取得しなければなりません。

大森氏は、麻の栽培には「豊かな知識、経験、それに裏打ちされた対応能力」が必要であり、誰もが栽培できるわけではないことを強調。意欲のある人でも3年間は研修を受ける必要があると語りました。

そのため、大森氏は国に対し、統一化された基準で都道府県知事が栽培免許を交付できるようにすることを求めています。

また、大森氏は一般人に麻の栽培を見せてはいけない、写真を撮ってはいけないなどの厳しい規制や、大麻関連の報道により風評被害を受けているなど、いくつかの困難に直面していることについても言及。麻の有益性についても広く報道して欲しいと述べました。

加えてこのような状況から、大森氏は嗜好用大麻に関しては「語るのも嫌」とし、産業用大麻との間に一線を画しました。

産業用大麻についてもう少し知りたい方は、アメリカの老舗アウトドアウェアブランド「パタゴニア(Patagonia)」が制作した動画をご参照下さい。産業用大麻について分かりやすく説明されています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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