麻の実(ヘンプシード)オイル主成分の軟膏によって切れ痔の症状が改善

麻の実(ヘンプシード)オイル主成分の軟膏によって切れ痔の症状が改善

- イスラエルの臨床試験

2月3日、麻の実(ヘンプシード)を主成分とした軟膏が切れ痔の痛み、出血などの症状を改善したことがイスラエルの研究者らにより報告されました。論文は「Medical Cannabis and Cannabinoids」に掲載されています

切れ痔(裂肛れっこう)とは、肛門周囲の皮膚が切れた状態のこと。硬い便に伴い生じることが多く、便秘気味の人に多く認められます。他にも、感染症や肛門周囲の虚血などが原因となることもあります。

皮膚が切れることから想像できるように、切れ痔には痛みや出血が伴います。排便時に強い痛みを伴うことから、排便を避けることでより便秘がちとなり、悪循環となるリスクも。

切れ痔は軽度であれば自然軽快しますが、再発も多く、治癒しないまま放っておくと、潰瘍、いぼ、ポリープの形成や肛門狭窄が認められるため、適宜治療が必要となります。

治療は基本的に、外用薬や内服薬によって保存的に行われます。外用薬には痛みや炎症を抑えるステロイド軟膏(強力ポステリザン、ネリプロクト)などが用いられ、内服薬には便を柔らかくする薬や炎症を抑える薬などが使用されます。これらの治療に加え、十分な水分補給、適度な運動、食物繊維の摂取など、便秘を改善するための生活指導も行われます。

これらで改善せず、慢性化してポリープなどを形成した場合は、手術が行われます。手術成績は良好ではあるものの、そうなる前に治療するのが理想的なのは言うまでもありません。そのためには、既存の薬物療法に加え、より多くの選択肢が増えることが望まれます。

今回研究を行ったのは、世界でもトップレベルの病院として名高い、イスラエル最大の病院「シェバ・メディカルセンター(Sheba Medical Center)」の研究チーム。

研究者らは、鎮痛・抗炎症作用を有する麻の実オイルを主成分とした市販製品「プロクトフィズ(ProctoFiz)」が、切れ痔を有する外来患者に有効なのかを検証。プロクトフィズは麻の実オイル以外にも、局所で血管拡張作用を誘導するトコフェロール(ビタミンEの一種)、抗炎症作用を有するアルニカモンタナオイルなど、様々な成分を含有しています。

研究に参加した患者は92名(女性58.7%)で、年齢の中央値は39歳(17〜78歳)。34.7%が再発性で、96.8%が肛門痛と排便困難を伴う便秘に苦しんでいました。3名が追跡調査から外れ、最終的に89名が解析対象となりました。

参加者は1ヶ月間、プロクトフィズを患部に3〜4回/日塗布するよう指示されました。

プロクトフィズ使用から1週間後の時点で、89.9%の患者が痛みや出血といった症状の大幅な改善を報告。1ヶ月後でも88.8%の患者が継続的な改善を報告しました。

具体的には、治療開始1週間後、VAS疼痛スケール(0:痛みなし〜10:最大の痛みの11段階で痛みを評価するスケール)の平均は8.9から2.3へと減少。1ヶ月後には0.6となり、持続的な改善が認められました。

また、治療開始1週間後、排便後の痛みや不快感の持続時間も、平均6.2時間から1.34時間へと有意に減少。この減少は2週間後も続きましたが、2週間後から1ヶ月後においては、痛みの持続時間がわずかに増加していました(平均0.45〜1.01時間)。

64.1%の患者が治療開始前に肛門からの出血を認めていましたが、その割合は治療1週間後には12.4%、1ヶ月後には2.2%にまで減少。89.1%が排便に伴い肛門の灼熱感を訴えていましたが、この割合も1週間後には29.4%、1ヶ月後には13.1%にまで減少していました。

全体として、参加者は切れ痔によるQOL低下が改善したと報告し、治療1ヶ月後には平均8.8から0.4にまで有意に改善(0〜10の11段階評価で、数値が低いほどQOLの改善を示す)。

プロクトフィズによる治療で改善が認められなかったのは、8%(7名)のみ。副作用については、治療開始1週間後に2名で頭痛が認められましたが、翌週には消失しています。

これらの結果に対し、研究者らは「(本研究で示された)症状消失の高い成功率は、慢性的な裂肛に対する短期管理において、新規のハーブベース製品であるプロクトフィズの局所適用が、有効かつ安全な手術以外の治療法として考慮できることを示している」「裂肛の標準治療で重大な副作用を発症した患者において、この代替療法は検討されるべき」と述べています。

また、今回の研究では治療効果を比較する対照群がなく、フォローアップ期間が短いといった限界があることから、今後もさらなる研究が必要であるとしています。

2020年のバハマの研究では、切れ痔を有する患者5名がCBDを局所使用することで、数日以内に改善が認められたことが報告されています。

これまでの研究において、CBDの局所使用は、その他の皮膚病変に対しても有効性を示しています。

最近タイの研究者らは、CBDを含有した軟膏が再発性アフタ性口内炎を改善し、ステロイド軟膏の代替となる可能性があることを報告

2022年末にイタリアの研究者らは、指定難病となっている膠原病「全身性強皮症」に対し、CBDオイルの局所使用が有効性を示したことを報告しています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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