12月2日、ヘンプシードからの抽出物が腸内細菌を整え、マウスにおいて便秘を改善したことが中国の研究者らにより報告されました。
ヘンプシードとは大麻の種子のこと。タンパク質を豊富に含むだけでなく、必須脂肪酸(体内で合成できず、体外から摂取する必要がある脂肪酸)を絶妙なバランスで摂取できる「スーパーフード」としても注目されています。
おそらく、便秘で悩んでいる人は少なくないでしょう。今便秘に悩んでいない人でも、高齢になるほどそのリスクは高くなっていきます。
便秘には、大腸の病気などで便の通り道が狭くなって生じるものや薬剤性のものもありますが、一般的には腸の動きの低下や水分不足・電解質異常などが原因として挙げられています。
なんとなく耳にしたことがある人は多いでしょうが、便秘には腸内におよそ100兆ほど存在するとされる「腸内細菌」も関わっていることが分かってきています。
例えば、乳酸菌やビフィズス菌といった「プロバイオティクス」において有効性が示されており、他にも「プレバイオティクス」であるオリゴ糖が腸内フローラを整え、便秘を改善したことも報告されています。
※プロバイオティクスとは?
健康に有益な影響を及ぼす生きた微生物。あるいはこれらを含んだ食品や飲料を指す。
※プレバイオティクスとは?
腸内細菌の栄養源となり、腸内フローラを整える食品成分。オリゴ糖の他、食物繊維なども該当する。
便秘を改善する漢方薬に「麻子仁丸」というものがありますが、「麻子仁」とはヘンプシードのことを指し、他にも様々な生薬が配合されています。ですが、ヘンプシード自体が便秘に及ぼす影響ははっきりと分かっていませんでした。
そこで中国の研究者らは、生理食塩水を用いたマウス(対照群)、下痢止め「ロペラミド」を用いて便秘を誘発させたマウス(ロペラミド群)、あらかじめヘンプシードからの抽出物を使用した後にロペラミドを使用したマウス(ヘンプシード群)にて検証を実施。
ヘンプシード抽出物(以下、ヘンプシードと表記)にはリノール酸(オメガ6脂肪酸)が最も豊富に含まれており、他にもα-リノレン酸(オメガ3脂肪酸)、オレイン酸(オメガ9脂肪酸)などが多く含まれていました。
ヘンプシードは便秘だけでなく、精神症状も改善
ヘンプシード群はロペラミド群と比べ、1回目の便が出るまでの時間が有意に短く、便の水分量も多いことが明らかに。
ヘンプシードはロペラミドにより生じた結腸組織の変化も改善し、ロペラミド群で少なくなったムチン(腸のバリア機能や潤滑油として働く粘液性の成分)の量も増加させました。
便秘はしばしばうつ病や不安障害と関連することが指摘されています。それを証明するかのように、ロペラミド群では行動テストにおいて抑うつ・不安症状が観察されましたが、ヘンプシード群ではこれらが有意に改善されていることが分かりました。
ヘンプシードは腸の機能障害を改善
ロペラミド群では腸において水分量を調節する細胞膜のタンパク質(アクアポリン)やナトリウムイオンチャネル(上皮性ナトリウムチャネル)が過剰発現し、腸のバリア機能(タイトジャンクション)に関連するタンパク質(ムチン、クローディン、オクルディン)が減少し、炎症を促進する因子(TRF-α、IL-1β、NLRP3、TLR2)のmRNAレベルが上昇していましたが、ヘンプシード群ではこれらの所見は全て正常化。
またロペラミド群では、腸の運動を促進する作用を持つセロトニン4受容体が減少していましたが、逆にヘンプシード群ではこの受容体の上昇が認められていました。
ヘンプシードの有効性は腸内フローラありき!
ここまで素晴らしい有効性を示したヘンプシードですが、なんと抗生物質を使用することで腸内細菌を消滅させたマウスでは、便秘が改善されないことが明らかとなりました。
つまりこれは、ヘンプシードが腸内フローラに作用することで便秘を解消していた可能性を示したということ。
ここから研究は腸内細菌に焦点が当てられます。
対照群と比較してロペラミド投与群ではファーミキューテス門が減少し、バクテロイデス門、プロテオバクテリア門が増加。一方で、ロペラミド群と比べヘンプシード群では、逆にファーミキューテス門が増加し、バクテロイデス門とプロテオバクテリア門は減少。
より細かく調べてみると、ヘンプシード群ではプレボテラ科、バクテロイデス科、エリュシペロトリクス科、デスルフォビブリオ科が著しく減少し、善玉菌として知られるラクトバシラス(乳酸桿菌)科やルミノコッカス科の他、ラクノスピラ科やスピロヘータ科が増加していたことが分かりました。
※生物の階層
細菌も含め、生物は階層別にドメイン→界→門→鋼→目→科→属→種→株に分類される。人間は「脊索動物門」の中の「ヒト科」に属する。
また、腸内細菌と便秘との相関関係を解析した結果、ブチリシコッカスとパラステレラにおいて最も高い関連性があることが明らかに。
酪酸産生菌であり善玉菌として知られるブチリシコッカスは、ヘンプシード群で有意に増加しており、日和見菌であり大腸の炎症とも関連するとされるパラステレラは、ロペラミド群で増加する一方、ヘンプシード群では減少していたことが分かりました。
これらの結果は、ヘンプシードが便秘により変化した腸内フローラの構成を調節することで便通を改善したことを示しています。
腸内フローラは便秘だけでなく、自閉症スペクトラム症、糖尿病、花粉症やアトピーなどのアレルギー疾患、多発性硬化症などの自己免疫疾患などとも関連すると言われています。
これらの疾患に対するヘンプシードの有効性や腸内フローラへの影響についての研究報告にも、今後期待できるかもしれません。