ミネソタ州知事、医療従事者監視下での違法薬物使用施設を支援する法案に署名

ミネソタ州知事、医療従事者監視下での違法薬物使用施設を支援する法案に署名

- 過剰摂取防止センターを公式に支援する米国2番目の州へ

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5月25日、米国ミネソタ州知事は「ハームリダクション」に基づいたアプローチのもと、医療従事者の監視下で安全に違法薬物を使用できる施設の設立を支援する法案「SF2934」に署名しました。このような施設の設立を公式に支援する州は、ロードアイランド州に続き2番目となります。

近年、禁止政策による薬物使用の抑制効果は乏しいとされています。むしろ、薬物の犯罪化は依存症治療へのアクセスを妨げるだけでなく、過剰摂取による死亡事故や不衛生な器具の使用による感染拡大などをもたらし、公衆衛生上様々な問題を引き起こす原因として考えられるようになってきました。最たる例が、「オピオイド危機」と言えるでしょう。

※オピオイド危機について

オピオイド鎮痛薬は現時点で最も効果の高い鎮痛薬であるが、米国ではこのオピオイドの過剰摂取や誤用が社会問題となっており、1999年から2019年にかけ、これらによる死亡者数は約4倍になったことが報告されている。

今回ミネソタ州で承認された福祉予算法案「SF2934」には、薬物使用による公衆衛生上の害を減らすことを目的とした内容が盛り込まれています。

同法案は、ミネソタ州福祉委員会に対し「安全な注射スペースを含むがこれに限定されない、ハームリダクションサービスや物資を提供する安全な回復施設を設置する」ことを義務付けています。また、このような施設を設置するために、2029年まで毎年分配される一時的な助成金として、1,450万ドル(約20億4000万円)以上が提供されます。

このような施設は「過剰摂取防止センター(Overdose Prevention Center)」と呼ばれています。過剰摂取防止センターは訓練を受けた医療従事者の監視のもと、事前に入手した薬物を検査の上、滅菌された器具で使用することを可能にします。こうすることで、HIVやC型肝炎ウイルスなどの感染や過剰摂取による死亡・救急搬送を防止。当然、ここで違法薬物を使用しても逮捕される心配はなく、希望があれば医療・福祉サービスへのアクセスの提供も行われます。

ティム・ウォルツ(Tim Walz)州知事が「SF2934」に署名したことを受け、ドラッグ・ポリシー・アライアンス(Drug Policy Alliance)のエミリー・カルテンバッハ(Emily Kaltenbach)氏は、声明で以下のように発言

「今日、ミネソタ州は過剰摂取の危機に対応するために、非効果的で有害な犯罪的アプローチではなく、健康的アプローチを選択する重要な転機を迎えました。ウォルツ知事はペンを走らせSF2934に署名することで、大胆かつ勇気ある行動をとりました。この署名は、州が過剰摂取防止センターの利用を公式に認可するための道筋を作り、支持するものです。このことは、人々が薬物を使用するという現実を認識し、依存症サービスや支援へのアクセスを提供しながら、彼らの安全を守る必要性を示しています」

「過剰摂取防止センターだけでは、ミネソタ州における問題ある薬物使用、または危険な薬物使用につながる健康の社会的決定要因の全てに対処することはできません。過剰摂取防止センターは人々をより安全にし、生きることを可能にしますが、それでもまだ私たちは、人々の基本的なニーズを満たし、住宅、生活賃金、医療へのより良いアクセスに投資する必要があります。そして、薬物の個人使用も非犯罪化しなければなりません」

「薬物所持の犯罪化は、ミネソタ州における逮捕と投獄の主な要因となっています。ミネソタ州は代わりに、コミュニティ支援とサービスに再投資する次の州になることができます。薬物使用の非犯罪化は私たちが今すぐできる次の最も重要なステップであり、焦点を本来あるべき場所、つまり、人々と公衆衛生を中心に据えるものです」

ミネソタ州では5月18日に下院で、20日に上院で嗜好用大麻合法化法案が可決され、ウォルツ州知事はこれに署名する意向を明らかにしています。さらに、ウォルツ州知事は最近、薬物関連の道具の所持、それらに残留した少量の薬物などを合法化するオムニバス法案にも署名しています。

ニューヨーク州は5月23日、上院の委員会で過剰摂取防止センターの設置を許可する法案を承認。ニューヨーク市ではすでに2021年に過剰摂取防止センターが開設されており、同法案はこれを強固に支持するものとなります。

なお、ドラッグ・ポリシー・アライアンスによれば、過剰摂取防止センターは世界14カ国(オーストラリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、アイスランド、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スイス、ウクライナ、米国)で約200箇所存在します。

近年、世界は薬物を犯罪とした「麻薬戦争」が失敗であることを認め、薬物を非犯罪化することで、薬物の問題を「刑事上の問題」から「公衆衛生上の問題」へとシフトする動きや見解を見せ始めています。

7000名以上の医師や依存症専門家を有する医学会「アメリカ依存医学会(ASAM:the American Society of Addiction Medicine)」は今年2月、個人使用目的での薬物所持の非犯罪化やそれに関連した犯罪記録の抹消を支持していることを明らかにしています

62,000人以上の薬剤師が会員となっている米国初の薬剤師協会「米国薬剤師会(APhA:American Pharmacists Association)」は2023年の公式方針で、薬物の非犯罪化を支持する立場を明確にしています

ニュージーランド元首相であり、世界薬物政策委員会(GCDP:Global Commission on Drug Policy)の委員長を務めるヘレン・クラーク氏は4月、個人使用目的での薬物所持に対する非犯罪化の支持を表明

カナダのブリティッシュコロンビア州では、2023年1月31日から3年間、コカイン、ヘロイン、モルヒネ、フェンタニル、メタンフェタミン、MDMAの少量所持を非犯罪化するトライアルが実施されています

また、オーストラリア首都特別地域では2023年10月より、コカイン、ヘロイン、MDMA、メタンフェタミンなど9種類の薬物の少量所持が非犯罪化される予定です

Drug Policy Alliance「Minnesota Becomes 2nd State to Officially Support Overdose Prevention Centers」https://drugpolicy.org/press-release/2023/05/minnesota-becomes-2nd-state-officially-support-overdose-prevention-centers

Drug Policy Alliance「Overdose Prevention Centers」https://drugpolicy.org/issues/supervised-consumption-services

Marijuana Moment「Minnesota Governor Signs Bills To Create Psychedelics Task Force And Allow Safe Drug Consumption Sites」https://www.marijuanamoment.net/minnesota-governor-signs-bills-to-create-psychedelics-task-force-and-allow-safe-drug-consumption-sites/

Marijuana Moment「Minnesota Governor Signs Bill Legalizing Drug Paraphernalia, Residue, Testing And Syringe Services」https://www.marijuanamoment.net/minnesota-governor-signs-bill-legalizing-drug-paraphernalia-residue-testing-and-syringe-services/

Marijuana Moment「New York Senators Approve Bill To Legalize Safe Drug Consumption Sites」https://www.marijuanamoment.net/new-york-senators-approve-bill-to-legalize-safe-drug-consumption-sites/

ACT Government Chief Minister, Treasury and Economic Development Directorate「Nation leading drug reform for the ACT」https://www.cmtedd.act.gov.au/open_government/inform/act_government_media_releases/rachel-stephen-smith-mla-media-releases/2022/nation-leading-drug-reform-for-the-act/

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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