イギリス初、大麻の花が国民健康保険の適用に

イギリス初、大麻の花が国民健康保険の適用に

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2018年に医療用大麻が合法化されたイギリスにおいて、がん患者に対し処方された大麻の花が初めて国民健康サービス(NHS)の適用として承認されました

イギリスの医療サービスには、国が運営する国民健康サービス(NHS)と、私立病院や民間クリニックが運営するプライベート医療サービスの2種類があります。

NHSは税金で運営されており、加入者はGP(General Practitioner:日本で言うところのかかりつけ医)による診察料が原則無料。一方、プライベート医療サービスは自由診療となるため、医療費が高額となります。

NHSの枠で医療用大麻の処方が可能となる状況は非常に限られており、ほとんど大麻由来医薬品(エピディオレックスサティベックスナビロン)のみに限定されています。

今年3月に公開されたNHSのデータでは、2021年から2022年にかけて大麻由来医薬品の処方数が45%増加していたことが明らかにされましたが、これらの医薬品を除く未承認の医療用大麻製品に関しては、これまで5名(ほとんどが難治性てんかん)しかNHSの適用が認められていません。

そのため、医療用大麻による治療をできるだけ安価に提供できるように、イギリスの民間クリニックは様々な取り組みを行っています

今回大麻の花で保険適用が認められたのは、2021年6月にステージ4の大腸がん及び転移性肺がんと診断された男性(以下、A氏)。抗がん剤治療を開始したA氏は、その副作用である悪心・嘔吐に悩まされていました。

医療用大麻が抗がん剤治療による吐き気に有効であることを知ったA氏は、この適応として正式に承認されている合成THC製剤「ナビロン」の処方を医師や医師団体に求めましたが、これらの医師には処方する経験や知識がありませんでした。

ある医師から民間クリニックで医療用大麻を処方された別の患者の話を聞き、A氏は2022年初頭に民間の医療用大麻クリニックを受診。THC優位の大麻の花を何種類か処方されたA氏は、これらの使用により不安気分食欲不振睡眠などを改善しながら、抗がん剤による吐き気に対し有効な大麻の品種をいくつか発見しました。

この知識と経験をもとに、A氏は大麻の花をNHSの適用として認めてもらうために申請を出しました。すでにA氏はNHS適用の制吐剤をほとんど試していましたが、ほとんど効果がなく、しばしば不快な副作用も経験。しかし、NHSの資金提供委員会は当初この申請を却下し、代わりにナビロンの使用を提案しました。

2022年末から開始された抗がん剤治療期間において、A氏はナビロンを試してみたものの、吐き気が緩和されませんでした。しかし、帰宅後に大麻草そのものを使用した結果、吐き気が治まり、家族と夕食を楽しむことが可能となりました。

2023年1月、A氏は受診していたクリニックをイギリス・ゼレニアクリニック(Zerenia Clinics UK)へと変更し、がん性疼痛の専門医である医院長と面談。大麻の花に対するNHSの適用を求めるA氏の決意に感動し、ゼレニアクリニックの医療チームはその申請を支援することを申し出ました。

以降2度に渡る申請の結果、大麻愛好家たちの記念日である4月20日、NHSの委員会はA氏が使用していたTHC優位の大麻の花に対し、保険金から払い戻しを行うことを承認しました。

世界各地でゼレニアクリニックを展開する「Khiron Life Sciences社」のギレルモ・モレノ=サンズ(Guillermo Moreno-Sanz)医師は「患者さんの個人的なストーリーと目覚ましい功績に深く感動しています。逆境に直面しながらも、彼は比類ない決意を示し、イギリスで初めて大麻の花のNHS償還を確保した患者となり、後に続く他の患者への道を切り開きました」

「この例は、全ての医療従事者がカンナビノイドエンドカンナビノイドシステムに関する医学教育を受けることが急務であることも強調しています。化学療法による悪心・嘔吐(CINV)は、大麻やカンナビノイドの有効性に関する臨床エビデンスが最も決定的であることが十分に証明された適応症です。公平な選択肢とみなされるべきものを実現するために、この患者さんが2年以上の期間と多大な個人資源を要したことは、残念でなりません」と述べました。

なお、ドイツでは条件を満たした患者においてあらゆる医療用大麻製品が、コロンビアではKhiron社の医療用大麻製品が保険適用として認められています。

今年に入り、イギリスでは医療用大麻に関していくつか動きがみられています。

3月には、イギリス初のオンライン医療用大麻クリニック「トリートイット(Treat it)」が開設されました。このオンラインクリニックは慢性疼痛患者を対象としていますが、今後うつ病やPTSDなどの精神疾患患者もサポートしていく予定です。

5月には、脳腫瘍患者を対象とした大麻由来医薬品「サティベックス」と化学療法の併用療法による大規模な治験プログラムが開始されています。この治験が成功すれば、今後脳腫瘍に対するサティベックスの処方が保険適用となる可能性があります。

なお、イギリスで優良大学上位10位に常にランクインする国立大学「エクセター大学(University of Exeter)」は4月、世界初となるサイケデリクス(幻覚剤)の大学院課程を創設することを発表しています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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