CBDの1日摂取量は「10mgまで」イギリス食品基準庁が勧告

CBDの1日摂取量は「10mgまで」イギリス食品基準庁が勧告

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10月12日、FSA(イギリス食品基準庁)は潜在的なリスクを避けるために、CBDの経口摂取量を「1日10mg以内」とする勧告を行いました。FSAは2020年にCBDの1日摂取許容量を70mgとしていたため、大幅な引き下げとなります。

さらに、FSAは妊活・妊娠・授乳中の人、子供、薬を服用中の人、免疫抑制状態にある人は、医療従事者の助言がない限りCBDの摂取を避けるべきとしています。

1日摂取許容量(ADI)とは、人が生涯かけて毎日摂取し続けても健康に悪影響が生じないと判断される用量のこと。FSAは声明の中で、CBD10mg/日を超える量を摂取しても急性なリスクはないものの、長期間に渡り摂取した場合には潜在的なリスクがあると述べています。

イギリスではすでにCBD10mgを超える飲料、カプセル、グミなどの製品が流通しているため、今回の発表はイギリスのCBD業界にとって非常に衝撃的なものとなります。

ただし、FSAは今回の勧告について「消費者に対する助言」と説明しており、CBD企業は現時点で推奨用量を超える製品を棚から下ろす必要はないとしています。

一方、アメリカの研究チームは最近、栄養補助食品としてのCBDは持病や服用中の薬がない人で70mg/日、妊活・妊娠・授乳中の人を除けば160mg/日まで安全な可能性があると報告していました。この報告では、CBDの1日摂取許容量は0.43mg/kg/日(成人では30mg/日程度)とされています。

また、オーストラリアの医療管理局(TGA)は処方箋なしで薬剤師が健康な成人にCBD製品を提供する場合、最大150mg/日までの量を可能としています

以前までCBDの1日摂取許容量は70mgだった

欧州委員会は2019年、CBDを含む食品や栄養補助食品を「新規食品」に分類。新規食品とは、1997年以前にほとんど消費されてこなかった食品のこと。これらの食品は市場に出る前に安全性の評価を受け、認可を得る必要があります。

2020年2月にFSAは限られたエビデンスから、健康な成人におけるCBDの1日推奨摂取量を70mgまでとする勧告を行いました。

この数値は、人においてCBD5mg/kg/日の用量で肝臓に対する悪影響の兆候(体重70kgの成人で350mg/日)、10mg/kg/日の用量で傾眠(体重70kgの成人で700mg/日)、1mg/kg/日の用量で薬との相互作用(体重70kgの成人で70mg/日)が認められたことから導き出されています。

CBDは肝臓で薬を代謝する酵素「シトクロム(CYP)450」(特にCYP3A4、CYP2C19)を阻害する可能性が指摘されており、実際に抗凝固薬であるワーファリンや免疫抑制剤であるタクロリムスの血中濃度を大幅に上昇させたことが報告されています。

「10mg/日以下」はデータ不足により慎重を期した結果

イギリスの毒性委員会(COT)と新規食品加工諮問委員会(ACNFP)は合同作業グループを結成し、食品としてのCBDに関する新たなレビューを実施しました

CBDの1日摂取許容量を算出するための出発点(POD)として、CBD業者から得られた3つの重要な毒性データを活用。これらの研究はCBDをキャリアオイルで溶かし、マウスやラットに90日間投与したものでした。

CBDの投与により全く毒性がないと判断された量(NOAEL)は、それぞれ体重1kgあたり72mg、50mg、25mg/日。

しかし、CBDにはまだデータ不足による”様々な不確実性”があり、これらを考慮する必要性がありました。

その結果、CBDの1日摂取許容量は上記の3つの数値から大幅に減少し、最終的に「10mg/日」という数字が導き出されました(CBD5%のオイルで4〜5滴の量に該当)。

レビューでは、CBDにおける”不確実性”として以下のものが挙げられています。

・吸収率の違いに対する懸念

CBDは摂取方法により吸収率が異なることが示されている。例えば、ある研究では、高脂肪食と一緒に摂取したことで吸収率が4倍増加したことが報告されている。このようなデータはまだ不足しており、さらなる検討が必要となる。

・生涯に渡って投与されたデータがない

今回のレビューは、げっ歯類への亜慢性(90日間)投与のデータのみに基づいている。CBDが体内に蓄積していくことを考慮すると、生涯に渡って投与した場合には結果が異なる可能性がある。

・免疫抑制作用に対する懸念

CBDには新規食品の投与レベルで免疫抑制作用が認められるという報告が存在する。特に、子供のワクチン接種の反応に微妙な変化をもたらすリスクがある。全体として、そもそも人におけるエビデンスが不足している。よって、薬剤や病気などによって免疫力が低下した人はCBDの使用を避けることが推奨される。

・妊婦や授乳中の女性、子供に与える影響への懸念

データが不足しているため、これらの人々はCBDを使用することで潜在的なリスクにさらされる可能性がある。

・薬との相互作用に対する懸念

前述したように、CBDは1mg/kg/日の用量で薬との相互作用が認められたことが報告されている。データが不足しているため、これより少ない用量で薬との相互作用が認められないとは言い切れない。

このような多数の”データギャップ”から、今回導き出された「10mg/日」という数字はかなり慎重を期しており、レビュー内でも”暫定的なもの”とされています。

つまり、今後の研究でこれらのデータギャップを埋めることができれば、CBDの1日摂取許容量はよりマイルドになる可能性があると考えられます。

なお、CBDでは生殖や発達への影響も懸念されていますが、既存のエビデンスに基づき、肝臓への影響よりも軽微であるとの見解が示されています。ただし、当然のことながらこれにはさらなる検討が必要となります。

勧告は消費者を対象としている

毒性委員会と新規食品加工諮問委員会のレビューに基づき、FSAはイギリスの消費者に対し、CBDの経口摂取量を「1日10mg以下」とし、妊活・妊娠・授乳中の人、子供、服用中の薬がある人、免疫力が低下している人は、医療従事者の助言がない限りCBDの摂取を避けるよう推奨しました。

様々なデータが不足する中、現時点で人の試験において最も影響が懸念されているのは「肝臓への影響」と「傾眠(強い疲労感)」とされています。

FSAの声明によれば、CBD11mg以上の経口摂取で急性に何らかの影響が生じることはないとされています。しかし、長期間に渡り上限を超えた量で摂取を続けた場合には、肝臓や甲状腺に何らかの悪影響がもたらされるといった証拠があり、摂取量が多くなるほどそのリスクが高くなると述べられています。

FSAの首席科学顧問であるロビン・メイ(Robin May)氏は「私たちの独立諮問委員会は、新規食品申請の一部として業界から提出された安全性評価を検討し、健康な成人はCBDを1日10mgより多く摂取しないよう勧告しています」

「生涯に摂取するCBDの量が多ければ多いほど、肝障害や甲状腺の問題のような長期的な副作用を発症する可能性が高くなります。リスクのレベルは、アルコール飲料のような他の潜在的に有害な製品と同じように、摂取量と関連しています」

「消費者は日々の全体的なCBDの消費量を観察するために製品ラベルに記載されているCBD含有量をチェックし、この最新の勧告に基づいて摂取量を変更するかどうかを検討することをお勧めします」とコメント。

FSAの最高経営責任者であるエミリー・マイルズ(Emily Miles)氏は「私たちは常に一般の人々に食用CBD製品の摂取について注意深く考えるよう助言しており、全ての食品と同様、業界から収集した証拠に基づいて勧告を見直し続けています」

「今回の勧告の変更は、現在市販されている1食あたり10mgを超えるCBDを含む製品に影響を及ぼすことを理解しています。消費者が潜在的に有害なレベルのCBDにさらされることがないよう業界と緊密に協力し、リスクを最小限に抑えるよう努めます」と述べています。

業界からは様々な声

FSAの勧告に対し、関連する業界からは様々な声が出ています

多くのCBD企業を代表する団体「Cannabis Trades Association」のトップであるマリカ・グラハム=ウッズ(Marika Graham-Woods)氏は「この勧告は消費者と小売業者を怯えさせ、業界が再び前進することを妨げるだけです。彼らがしたことに何のメリットも見出せません」とコメント

むしろ、これまで”70mg/日のガイダンス”を遵守してきた企業は突如として、銀行、保険会社、広告会社などから”ハイリスク企業”として認識されるようになると指摘しています。

また、国内で正式に新規食品として認可されたCBDオイルが未だに存在しないことにも懸念を表明しています。

「4年間に渡る新規食品プロセスにも関わらず、英国市場で合法的に認可されたCBD抽出物が未だに存在しないことは憂慮すべきことです。Cannabis Trades AssociationとCBD業界は本日出された勧告よりも、包括的でエビデンスに基づいた規制ガイダンスをFSAに期待していました」

1缶あたりCBD30mgを含むドリンクを販売しているGoodrays社は、今回の研究で用いられたCBD製品の質について言及しています。

「FSAは初期に販売された3つのブランドによる試験に基づき、生涯に渡る特定の製品の反復投与が一定のリスクを伴うことを示した結果から、1日の摂取量に関するガイダンスを変更しました。 しかし、全てのCBDが同じように作られるわけではなく、このガイダンスは私たちの製品や他の多くの市場リーダーの製品に基づいているわけではないことを認識することが不可欠です」

「CBDの品質は業界によって大きく異なっており、それを標準化する必要があります」

欧州産業用ヘンプ協会(EIHA)の理事会メンバーでイギリス代表を務めるトニー・リーブス(Tony Reeves)氏は「FSAによるアイソレート製品の摂取ガイダンスが1日あたり70mgから10mgに改訂されたことは、私たちが独自に算出した1日摂取許容量からみても極めて低いものであり、”暴露シナリオ “とそれに関連する仮定に照らしても、すでに非常に保守的なものとなっています」とコメント。

また、神経科医で医療用大麻の専門家であるマイク・バーンズ(Mike Barnes)教授は、CBD10mg/日という用量では健康促進や医療効果を得ることは難しく、すでにてんかんの子供においてエピディオレックスが活用されている背景から、FSAの勧告を疑問視しています。

「健康や医学的な効果を得るために必要な(CBDの)平均用量は60~120mg/日であるため、この勧告は事実上、業界を閉鎖することになります。FSAはそれを望んでいるのでしょうか?」

「てんかんの子供たちは約10mg/kg/日(単離CBDではそれ以上)を必要とし、エピディオレックスが医療ライセンスを持っていることを考えると、その用量では安全であると考えられていることを指摘すべきです。子供は50倍以上の量を摂取しているのに、なぜ10mgが上限とされているのでしょうか?」

Food Standards Agency「Food Standards Agency and Food Standards Scotland update consumer advice for CBD」https://www.food.gov.uk/news-alerts/news/food-standards-agency-and-food-standards-scotland-update-consumer-advice-for-cbd

Advisory Committee on Novel Foods and Processes「Joint position paper from the Advisory Committee on Novel Foods and Processes (ACNFP) & Committee on Toxicity (COT) on establishing a provisional acceptable daily intake (ADI) for pure form (≥98%) cannabidiol (CBD) in foods, based on new evidence」https://acnfp.food.gov.uk/JointpositionpaperfromACNFP%26COTonestablishingprovisionalADIforpureformCBDinfoods

Cannabis Health News「FSA drops recommended daily dose of CBD to 10mg – everything you need to know」https://cannabishealthnews.co.uk/2023/10/12/fsa-drops-recommended-daily-dose-of-cbd-to-10mg-everything-you-need-to-know/

leafie「Safe limit’ of CBD slashed to 10mg by UK food regulator」https://www.leafie.co.uk/news/cbd-10mg-limit-uk/

Business of Cannabis「FSA’s New CBD Guidance ‘Heavy Handed’ and Likely to Leave Consumers and Businesses ‘Confused’ Says Industry」https://businessofcannabis.com/fsas-new-cbd-guidance-heavy-handed-and-likely-to-leave-consumers-and-businesses-confused-says-industry/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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