大麻オイルがトゥレット症候群のチック・不安・強迫性障害を改善

大麻オイルがトゥレット症候群のチック・不安・強迫性障害を改善

- オーストラリアの臨床試験

6月7日、大麻成分THCCBDを含有したオイルを使用することで、トゥレット症候群患者においてチック、不安、強迫性障害の改善が認められたことがオーストラリアの研究チームにより報告されました。論文は権威のある総合医学雑誌「New England Journal of Medicine(NEJM)」の姉妹誌「NEJM Evidence」に掲載されています。

トゥレット症候群は、音声チックと運動チックが合併した状態が1年以上続く疾患のこと。子どもの頃から発症し、症状の増悪と寛解を慢性的に繰り返します。

チックとは、本人の意思とは関係なく、突発的に体の一部を素早く動かしたり、発声したりすることを指します。トゥレット症候群では他人の話したことを真似して繰り返したり、罵倒するような言葉を繰り返したりするなど、特有の音声チックが認められます。

また、トゥレット症候群はADHD(注意欠如・多動性障害)や強迫性障害、うつ病不安睡眠障害などの発症とも関連性があるとされています。

治療は心理教育や認知行動療法などの精神療法がベースとなりますが、重度の場合はドーパミンD2受容体拮抗薬(抗精神病薬)などによる薬物療法が行われます。しかし、これらの治療は全員に有効ではなく、3〜4人に1人が十分な効果を得られていないため、現在も新たな治療が待ち望まれています。

このような中、医療用大麻はトゥレット症候群に対し有効である可能性がいくつかの研究で示されており、実際にアメリカのいくつかの州、イスラエル、イタリアなどでは、トゥレット症候群が医療用大麻の適応症に含まれています。

THC:CBD=1:1のオイルを用いた臨床試験

オーストラリアの研究チームは、大麻成分THCとCBDをMCT(中鎖脂肪酸)オイルで溶かした経口製剤(以下、カンナビノイド製剤)を用いて、トゥレット症候群に対する有効性を検証。

対象となったのは、18〜70歳で、重症度が中程度以上(YGTSS[チックの重症度スケール]が20点以上)のトゥレット症候群患者22名。

この臨床試験は2つの期間で構成されています。第1期では、患者をカンナビノイド製剤群とプラセボ(偽薬)群にランダムに振り分け、それぞれで6週間治療を実施。その後、一時服薬を中断し、体内から薬剤が抜けるまで4週間待った後、第2期へ移行。第2期では、第1期で受けていない方の治療が実施されました(例えば、第1期でプラセボ治療を受けた人は、第2期でカンナビノイド製剤による治療を受けるということ)。

有効性をできる限り公平かつ正確に評価するため、患者及び治療者はそれぞれどの薬剤を使用しているか把握できないようにされました(盲検化)。

6週間のうち、最初の4週間で服用量を調節。1日1ml(THC5mg、CBD5mg)から服用を開始し、1週間ごとに1mlずつ、最大4ml(THC20mg、CBD20mg)まで増量。増量することで耐え難い副作用が生じた場合は、低用量での使用も認められました。

研究にあたり、参加者はチック抑制のために使用していた薬(抗精神病薬など)を中断(抗不安薬や抗うつ薬の服用は可能)。また、大麻を使用していた人は、試験開始30日前から中止するよう指示されました。

主な有効性の評価には、YGTSSの総チックスコアが用いられ、それ以外にもYGTSS総スコア、ビデオによるチック重症度評価(MRVRS)、抑うつ(MADRS)、不安(HAM-A)、強迫性障害(YBOCS)が評価されました(ベースライン、2週間後、4週間後、6週間後)。また、治療の開始時と終了時には、認知機能検査を実施。

治療効果と血中カンナビノイド濃度の関連性を調べるため、ベースライン時と4週目には血中カンナビノイド濃度の測定も行われました。

・YGTSS(Yale Global Tic Severity Scale)

チックの重症度を測定。音声チックと運動チックに分け、それぞれでチックの数、頻度、強さ、複雑さ、行動について評価(チック総スコア)。総スコアではチックの重症度に加え、行動障害の程度も評価する。

・MRVRS(Modified Rush Video-Based Rating Scale)

チックの重症度をビデオベースで客観的に評価する尺度。

・HAM-A(ハミルトン不安評価尺度)

不安に対する評価尺度。17点未満で軽度、18〜24点で軽度〜中程度、25〜30点で中程度、それ以上で重度と評価。

・YBOCS(エールブラウン強迫尺度)

強迫性障害に対する評価尺度。10〜15点で軽度、16〜25点で中程度、26点以上で重度と評価。

※全てスコアが高いほど重症度が高いことを意味する

カンナビノイド製剤は概ね安全

研究に参加した22名(男性14名、平均31歳)は、全体としてチックの重症度が高く、強迫性障害と不安レベルが中程度で、抑うつレベルが軽度でした。

第1期を終了した時点で、カンナビノイド製剤群で1名、プラセボ群で2名が研究を離脱。眠気などの副作用により、3名がカンナビノイド製剤を4ml/日まで増量できませんでした(1名は0.25ml/日、2名は3ml/日で服用を継続)。

カンナビノイド製剤による副作用は41件報告され、いずれも軽度。最も多かったのは集中力低下や記憶障害などの認知機能障害(8件)で、次いで疲労感(7件)、食欲増進(7件)、頭痛(5件)、口渇(4件)、陶酔感(4件)となっていました。

チック、不安、強迫性障害が改善

6週間の治療後、YGTSSの総チックスコアは、プラセボ群ではベースラインから2.5減少したのに対し、カンナビノイド製剤群では8.9減少し、時間経過とともに有意な改善が認められました

また、チックの改善は、YGTSS総スコア(カンナビノイド製剤:-20.9、プラセボ:−3.1)、ビデオによるチック重症度評価(カンナビノイド製剤:-2.4、プラセボ:+0.9)でも有意でした。

それ以外にも、治療開始から時間経過とともに、強迫性障害(カンナビノイド製剤:-4.6、プラセボ:+0.7)、不安(カンナビノイド製剤:-7.2、プラセボ:+0.1)において有意な改善が認められました。一方、抑うつ(MADRS)については改善が認められず、これに関して研究者らは、ベースライン時の抑うつレベルが軽度だったことが関係しているかもしれないと述べています。

ベースライン時と6週間後に行われた認知機能検査では、カンナビノイド製剤群とプラセボ群で有意差が認められず。これについて研究者らは、治療期間中に認知障害に対し耐性が生じた可能性もあると考察しています。

血中のTHC代謝産物濃度がチックの改善と関連する可能性

血中カンナビノイド濃度は参加者によって大きくばらつきがみられました。例えば、0.25ml/日しか服用していなかった参加者は、4ml/日で服用していた参加者の3名よりも、11-COOH-THC(THCの代謝産物)濃度が高くなっていました。また1名では、次に血中濃度が高かった人よりも11-COOH-THCと7-COOH-CBD(CBDの代謝産物)濃度が2倍以上高く、これは外れ値(一般に当てはめられない値)として扱われました。

チック総スコアの減少と血中11-COOH-THC濃度には有意な相関関係が認められました。ただし、先程の外れ値を除外することで、関連性は弱くなっています。

以上の結果から、研究者らは「このランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験において、THC:CBD=1:1の経口製剤を6週間、THC20mg/日とCBD20mg/日まで漸増投与したところ、大きな副作用もなく、YGTSSチック総スコアで測定されたチックの有意な減少と強迫症状や不安の減少が確認されました

観察されたチックの減少の大きさは平均して中程度であり、抗精神病薬などの既存の治療で観察される効果に匹敵するものでした。さらに、鎮静や食欲増進(一部の参加者)などの副作用プロファイルは、抗精神病薬で一般的に報告されている副作用と同様の性質を持っています」と述べています。

また今後について、チックに対するカンナビノイド製剤の耐性や、長期使用による影響などを考慮しつつ、より大規模で長期的な研究が必要であるとしています。

医療用大麻は主に「エンドカンナビノイドシステム」と呼ばれる神経系に作用することにより、医療効果を発揮すると考えられています。

トゥレット症候群は主にドーパミン神経系の異常が関与しているとされていますが、エンドカンナビノイドシステムの異常による可能性も指摘されています。このことから、今回の研究に限らず、医療用大麻がトゥレット症候群に対し有効性を示した報告は多く存在します。

今年2月に公開されたドイツの研究では、トゥレット症候群患者98名を対象とし、THCとCBDをほぼ同比率で含有する口腔粘膜スプレー「サティベックス」の有効性を検証した結果、統計上有意とはならなかったものの、プラセボよりもチック、ADHD、抑うつが改善されたことが報告されています。

昨年ドイツの研究者らは、大麻由来医薬品のエビデンスレベルを評価するためのシステマティックレビューを実施。その結果、合成THC製剤「ドロナビノール」のトゥレット症候群に対する有効性には「中程度のエビデンスがある」と評価されています。

同年にイスラエルの研究者らは、トゥレット症候群患者18名にTHC主体の大麻を12週間使用してもらった結果、チックの重症度の改善に加え、併存する精神症状やQOLの改善が認められたことを報告

さらに同年、トロント大学の研究者らは、トゥレット症候群患者12名にTHC10%、THC9%・CBD9%、CBD13%、プラセボのいずれかを気化摂取してもらった結果、THC10%及びTHC9%・CBD9%の使用においてチックの前駆衝動、主観的苦痛が有意に改善し、主観的な改善度が高かったことを報告しています

それ以外にも2002年のドイツの研究では、トゥレット症候群患者12名にTHC(5.0mg、7.5mg、10mg)を使用した結果、プラセボと比べ運動チック及び音声チックが有意に改善し、この改善は血中11-OH-THC濃度の上昇と有意に関連していました。

これらのことから、トゥレット症候群においては、特にTHCが有効となる可能性が高いと考えられます。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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