大麻由来医薬品の現時点でのエビデンスレベル

大麻由来医薬品の現時点でのエビデンスレベル

ドイツのシステマティックレビュー・メタアナリシス

2020年12月、国連は大麻に「医療価値がある」ことを認め、大麻をスケジュールⅣ(最も危険で、医療価値のない薬物)から削除。大麻を取り巻く状況においてターニングポイントとも言えるこの決定から、かれこれ1年半以上が経過しました。

これまでに数多くの研究により大麻の医療効果が示されてきていますが、大麻にはカンナビノイドテルペンフラボノイドなど多数の成分が含まれており、それぞれに医療効果があることが分かってきています。また、これらの組み合わせやそれぞれの濃度により認められる効果も様々で、一口に「大麻で医療効果が認められた」と言っても研究によって一貫性がなかったりします。

そのような問題にとらわれないのが、同じ成分を一定の量で配合した「大麻由来医薬品」です。

大麻由来医薬品にはTHC(テトラヒドロカンナビノール)を合成した製剤である「ドロナビノールマリノール、シンドロス」や「ナビロンセサメット」、CBD(カンナビジオール)のみを高濃度で抽出した「カンナビジオールエピディオレックス」、THCとCBDをほぼ同等の割合で配合した「ナビキシモルスサティベックス」があります。

そこでドイツの研究者らはこれらの大麻由来医薬品の研究報告に焦点を当て、システマティックレビューとメタアナリシスを実施。その結果が2022年8月19日に公開されました。

この研究では2021年5月までに公開された全ての論文の中から、大麻由来医薬品(ドロナビノールナビロンカンナビジオールナビキシモルス)による盲検化されたランダム化比較試験(RCT)のみを抜粋し、それぞれの疾患や症状に対する有効性が検証されました。

※ランダム化比較試験(RCT)とは?

特定の研究対象を2つ以上のグループにランダムに分け、治療薬や治療法の有効性を検証する研究。1つのグループでは効果を検証したい薬を、別のグループ(対照群)ではプラセボ(偽薬)や既存薬を使用し、それらの結果を比較することにより有効性を検証する。対象者が何の薬を飲んでいるのか分からないようにする試験を「単盲検」、対象者だけでなく研究者(治療者)もそれを把握できないようにする試験を「二重盲検」と呼び、後者のほうがバイアス(偏り)がかかりにくく信憑性が高い。

RCTのエビデンスレベルは、数多くの研究を統合して分析するメタアナリシスやシステマティックレビューに次いで高いとされている。

論文検索により選抜されたRCTの研究報告はドロナビノール53件、ナビロン35件、カンナビジオール27件、ナビキシモルス37件。このうちバイアスリスクが低いと判断されたのはドロナビノール26件、ナビロン6件、カンナビジオール26件、ナビキシモルス19件で、逆にバイアスリスクが高いとされたのはドロナビノール5件、ナビロン9件、カンナビジオール1件、ナビキシモルス2件でした。

これらの研究報告を分析した主な結果は以下の通りです。

・ドロナビノール(マリノール、シンドロス)

慢性疼痛、食欲低下、トゥレット症候群に対し中程度のエビデンスあり。

・カンナビジオール(エピディオレックス)

てんかんに対し高レベル、パーキンソン病の非運動性症状に対し中程度のエビデンスあり。

・ナビキシモルス(サティベックス)

慢性疼痛、痙縮、睡眠障害、物質使用障害に対し中程度のエビデンスあり。

それ以外はこの研究時点においてエビデンスレベルが低い、あるいは効果がないという判定になりました。

以下、それぞれの疾患・症状における分析結果を簡単に記載。

分析された疾患・症状

慢性疼痛

全体として大麻由来医薬品は有効性を示していた。

プラセボとの比較はドロナビノール15件、ナビキシモルス20件、カンナビジオール1件で行われており、ドロナビノールとナビキシモルスは有意な改善をもたらし、これらは中程度のエビデンスを示していた。

多発性硬化症や対麻痺による痙縮

全体として大麻由来医薬品は有効性を示していた。

ナビキシモルスにおいて14件の試験が行われ、痙縮に対し中程度のエビデンスを示していた。

ドロナビノールにおいて6件、ナビロンにおいて2件の試験が行われていたが、これらはエビデンスとして不十分であった。

悪心・嘔吐

全体として大麻由来医薬品は有効性を示していた。

既存薬との比較はドロナビノールにおいて4件、ナビロンにおいて11件あったが、研究方法に緻密さを欠いているためエビデンスレベルは低いと判定。

プラセボとの比較はドロナビノールにおいて8件、ナビロンにおいて4件、ナビキシモルスにおいて6件あったが、プラセボより優れているという証拠は認められなかった。

食欲低下

全体として大麻由来医薬品は食欲の増進に有効であった。

プラセボと比較したドロナビノールの研究は11件で、食欲増進の有効性に中程度のエビデンスを示していた。ただし既存薬との比較(3件)では有意差が認められていなかった。

ナビロン(プラセボとの比較4件、既存薬との比較3件)、カンナビジオール(プラセボとの比較1件)、ナビキシモルス(プラセボとの比較6件)はエビデンスレベルが非常に低い、あるいは有意差なしと判定。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

ドロナビノールとナビキシモルスにおいて1件ずつ試験が行われていたが、プラセボと比較し有意差が認められていなかった。

ハンチントン病

ナビロン、カンナビジオール、ナビキシモルスにおいて1件ずつ試験が行われており、全体として大麻由来医薬品は有意な効果を示す傾向があった。

ただし、有効性を示したのはナビロンだけであった。

ジストニア

3件の小規模な試験(ナビロン、ドロナビノール、ナビキシモルスにおいて各1件ずつ)が行われていたが、有効性は示されていなかった。

てんかん

カンナビジオールは1件の小規模な試験で有効性を示した後、5つの大規模な試験で有効性を示していた。カンナビジオールによる発作頻度の減少は有意であり、高レベルのエビデンスを示していた。

緑内障

1件の小規模な試験において、ドロナビノールが一過性に眼圧低下(有効性)をもたらしていた。逆にナビキシモルスは一過性の増悪をもたらしていた。

過敏性腸症候群

ドロナビノールにおいて2件の試験が行われていたが、有効性を示していたのは1件のみ。よって全体として有効性はないとの判定。

多発性硬化症

多発性硬化症の痙縮に対するナビキシモルスの有効性は中程度であったが、それ以外の症状に対してはナビキシモルス(5件)、ドロナビノール(2件)における試験を分析した結果、有意な改善は認められていなかった。

パーキンソン病

全体として大麻由来医薬品は有効性を示していた。

カンナビジオールは3件の試験においてパーキンソン病の非運動性症状(不安や睡眠など)に対し有効性を認めており、中程度のエビデンスを示していた。ナビロンにおいても小規模な2件の試験において有効性が報告されていた。

注意欠陥多動性障害(ADHD)

ナビキシモルスにおいて小規模な試験が1件のみ行われていた。この試験においてナビキシモルスはプラセボと比較し、多動性と衝動性の有意な改善を認めていた。

摂食障害

ドロナビノールにおいて小規模な試験が2件行われていた。プラセボとの比較では有意な体重増加が認められていたが、ジアゼパム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)との比較では有意差が認められていなかった。

不安障害

ドロナビノールではプラセボとの比較が4件、既存薬との比較が1件、
ナビロンではプラセボとの比較が6件、既存薬との比較が2件、
カンナビジオールではプラセボとの比較が11件、
ナビキシモルスではプラセボとの比較による試験が6件行われていた。

全体として大麻由来医薬品は不安を軽減していたが、各医薬品ごとに分析すると有意な改善は認められず、これらのエビデンスは低いと判定。

認知症

ドロナビノールにおいて3件、ナビロンにおいて1件の試験が行われており、ドロナビノールは全体として有効性を示していなかったが、ナビロンでは有効性が示されていた。

全体として大麻由来医薬品において有意な効果が認められていたが、エビデンスレベルは低いと判定。

うつ病

ドロナビノールではプラセボとの比較が7件、既存薬との比較が1件、
ナビロンではプラセボとの比較が3件、既存薬との比較が2件、
カンナビジオールではプラセボとの比較が6件、
ナビキシモルスではプラセボとの比較による試験が7件行われていた。

全体として抑うつ症状に対する大麻由来医薬品の効果はわずかか、あるいは全くないとの結果を示していた。

ナビロンとカンナビジオールは効果を示していなかったが、ドロナビノールとナビキシモルスはプラセボと比較し軽度の改善を認めており、その効果はナビキシモルスにおいてのみ中程度のエビデンスあると判定。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

ドロナビノールとナビロンにおいて小規模な試験が1件ずつ行われていた。ともにプラセボと比較し有意な改善を認めていた。

統合失調症

全体として大麻由来医薬品は効果を示していなかったが、それぞれの研究のエビデンスレベルは非常に低かった。

1件のドロナビノールにおける試験では悪化が認められていた。カンナビジオールでは4件の試験が行われていたが、全体として有効性が認められていなかった。

睡眠障害

ドロナビノールではプラセボとの比較が7件、既存薬との比較が1件、
ナビロンではプラセボとの比較が6件、既存薬との比較が2件、
カンナビジオールではプラセボとの比較が8件、
ナビキシモルスではプラセボとの比較による試験が23件行われていた。

全体として大麻由来医薬品は睡眠の改善を認めていたが、その効果はナビロンとナビキシモルスにおけるプラセボとの比較試験に限定されていた。ナビキシモルスは最も有効性が高く、中程度のエビデンスを示していた。

物質使用障害

ドロナビノールにおいて4件、ナビロンにおいて3件、カンナビジオールにおいて7件、ナビキシモルスにおいて4件の試験が行われていた。

全体として大麻由来医薬品は有益な効果を示しており、各医薬品ごとでその有効性はカンナビジオール以外の全てにおいて認められていた。

最も高い有効性はドロナビノールにおいて、次いでナビロンにおいて認められていたが、これらの試験は信頼度が低かった。ナビキシモルスにおける試験のみが中程度のエビデンスを示していた。

トゥレット症候群

ドロナビノールにおいて2件の試験が行われており、チックに対し有効性を認め、これらは中程度のエビデンスを示していた。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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