大麻由来医薬品サティベックス、トゥレット症候群(チック)に対し有効性示す

大麻由来医薬品サティベックス、トゥレット症候群(チック症)に対し有効性示す

- ドイツの臨床試験

2月28日、大麻成分THCCBDをほぼ同比率で含有する大麻由来医薬品「サティベックス(ナビキシモルス)」が、トゥレット症候群(慢性チック症)に対し有効性を示したことがドイツの研究者らにより報告されました。この報告は精神医学雑誌「Psychiatry Research」に掲載されています

トゥレット症候群は、音声チックと運動チックが合併した状態が1年以上続く疾患のこと。子どもの頃から発症し、症状の増悪と寛解を慢性的に繰り返します。

チックとは、本人の意思とは関係なく、突発的に体の一部を素早く動かしたり、発声したりすること。トゥレット症候群では他人の話したことを真似して繰り返したり、罵倒するような言葉を繰り返したりするなど、特有の音声チックがみられます。

また、トゥレット症候群はADHD(注意欠如・多動性障害)や強迫性障害、うつ病不安睡眠障害などの発症とも関連性があるとされています。

治療は心理教育や認知行動療法などの精神療法がベースとなりますが、重度の場合はドーパミンD2受容体拮抗薬などによる薬物療法が行われます。しかし、これらの治療は全員に有効ではなく、3〜4人に1人が十分な効果を得られていません。

トゥレット症候群は主にドーパミン神経系の異常が関与していると考えられていますが、エンドカンナビノイドシステムを含むそれ以外の神経系の異常の可能性も指摘されています

これまでの研究において、医療用大麻はトゥレット症候群に対し有効な可能性を示してきており、実際にアメリカのいくつかの州、イスラエル、イタリアなどでは、医療用大麻の適応症リストにも含まれています。

トゥレット症候群に対する有効性は、主に合成THC製剤であるドロナビノールにおいて報告されており、2022年8月に報告されたドイツの研究者らによるシステマティックレビューでは、トゥレット症候群に対するドロナビノールの有効性は「中程度のエビデンスがある」と判定されています。

また、2022年3月にイスラエルの研究者らは、THC主体の大麻使用により、チックの重症度が軽度〜中程度にまで改善しただけでなく、併存する精神症状やQOLの改善が認められたことを報告しています

このようにしてエビデンスが着々と積み上げられている中、今回また新たなエビデンスが追加となりました。

これまでトゥレット症候群に対する有効性は主にTHCで報告されてきましたがが、今回はTHCとほぼ同量のCBDを含んだサティベックス(1噴霧あたりTHC2.7mg、CBD2.5mgを含有)を使用しているのが特徴的になります。

対象となったのは、18歳以上で、慢性チック症の確定診断を受け、Yale Global Tic Severity Scale(YGTSS:チックの重症度スケール)の総スコア(TTS:Total Tic Score)がトゥレット症候群で14点以上、または慢性運動チック障害(CMT)及び慢性音声チック障害(CVT)のみで10点以上であり、臨床全般印象・重症度スコア(Clinical Global Impression of illness Severity :CGI-S)が4以上(1:正常〜7:非常に重度の精神疾患)の患者です。

ドイツ国内の6つの医療センターにおいて、98名の患者が参加。これらの患者はサティベックス治療群:プラセボ(偽薬)治療群=2:1(63名:35名)の割合でランダムに振り分けられました。有効性をできるだけ正しく評価するため、患者と治療者はどの薬を使用しているのか把握できないよう盲検化されました。

治療期間は全部で13週間。最初の4週間は安全性や有効性を確かめながら投与量を増やし適量を見極める期間(漸増期)で、残りの9週間で患者ごとに適量を投与(安定期)。増量は最大12噴霧(THC32.4mg、CBD30mg)/日まで可能となっていました。

主要アウトカムは、YGTSS-TTS(チック重症度スケールの総スコア)で25%以上の改善が認められたかどうか。副次評価項目として、チック症の症状やQOLに関連するスケール(YGTSS-GS、YGTSSサブスケール、ATQ、MRVS、PUTS、GTS-QOL)、全般的な臨床症状の重症度(CGI-S)や治療による改善度(CGI-I)、心身の健康関連QOL(SF-12)を評価。

また、ADHD(CAARS:Conners Adult ADHD Rating Scales)、強迫性障害(Y-BOCS:Yale-Brown強迫性スケール)、うつ病(BDI-II:ベック抑うつ尺度)、不安(BAI:ベック不安評定法)、怒り発作(RAQ-GTS:トゥレット症候群におけるRage Attack Questionnaire)、衝動性(I-8:Skala Impulsives-Verhalten-8)、睡眠障害(PSQI:ピッツバーグ睡眠質問表)といった併存疾患・症状に対する評価も行われました。

その結果、YGTSS-TTSにおいて25%以上の改善を認めたのは、プラセボ群で9.1%であったのに対し、サティベックス群では21.9%とより多くの患者で改善が認められたことが明らかに。しかし、統計分析上、有意差は認められませんでした。

サブグループ内の解析では、男性は女性よりも、あるいは重症度の高いチック(YGTSS-TTSが25点以上)ほど、サティベックスで治療反応がみられました。また、ADHDを併存する患者においても大きな改善が認められましたが、これに関しては性差が影響している可能性があるともしています(ADHDは男性のほうが罹患率が高い)。

YGTSS-TSS以外のチックに対する評価(YGTSS-GSS、YGTSSサブスケール、ATQの総スコアと運動サブスケール、MRVS、GTS-QOL)でも、サティベックス群で統計的に有意ではない改善が認められました。

一方、チックの前駆衝動(PUTS)、心身の健康関連QOL(SF-12)、ADHD(CAARS)、強迫性障害(Y-BOCS)、うつ病(BDI-Ⅱ)、不安(BAI)、怒り発作(RAQ-GTS)、衝動性(I-8)、睡眠障害(PSQI)の評価では、サティベックスとプラセボ間で差がみられず。しかし、欠損データの影響を評価するために感度分析を実施した結果、うつ病(BDI-Ⅱ)においてのみサティベックスで傾向的な改善が見出されました。

プラセボ群はサティベックス群と比べ、1日の平均噴霧数が有意に多くなっていました(漸増期:プラセボ群7.38、サティベックス5.58 維持期:プラセボ群9.19、サティベックス群7.21)。このことは暗にサティベックスがプラセボよりも効果を示したことを意味している可能性があります。

少なくとも1つ以上の副作用を経験した患者の割合は、プラセボ群(78.8%)よりもサティベックス群(95.3%)で有意に多く、報告件数の合計はサティベックス群で315件、プラセボ群で116件。治療と関連があると判断された副作用もサティベックス群(90.6%)はプラセボ群(63.6%)よりも多くなりました。

具体的に認められた副作用はサティベックスの一般的な副作用(眠気、ふらつき、口渇など)と一致しており、重篤な副作用は認められませんでした。1名のみチックの一時的な悪化がみられましたが、これは治療とは無関係と判断されています。

これらの結果から研究者らは、「サティベックスがプラセボよりも優れていることを正式に証明することはできなかったが、治療に反応した患者数はサティベックスのほうがはるかに多かったと言える。チック症に対するサティベックスの有益な効果は、いくつかの副次評価項目の結果でも裏付けられた」と述べています。

また、サティベックスのチックに対する有効性は男性、ベースライン時においてチックの重症度が高かった患者、そしておそらくADHDを併発していた患者でより効果が高く、抑うつ症状やQOLの改善も示され、忍容性は良好であったとしています。

研究者らは今後さらなる臨床試験の実施を「強く望んでいる」と述べ、トゥレット症候群におけるエンドカンナビノイドシステムの役割をさらに探求する研究の必要性も訴えています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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