高THCの大麻がトゥレット症候群に有効である可能性

高THCの大麻が、トゥレット症候群に有効である可能性

2022年3月9日、THCを多く含む大麻がトゥレット症候群に有効である可能性を示した論文が、イスラエルの医師らにより発表されました。

トゥレット症候群は、音声チックと運動チックが合併した状態が1年以上続く疾患です。子どもの頃から発症し、症状の増悪と寛解を慢性的に繰り返します。

チックとは本人の意思とは関係なく、突発的に体の一部を素早く動かしたり、発声したりすることをいいます。トゥレット症候群では他人の話したことを真似して繰り返したり、罵倒するような言葉を繰り返したりするなど、特有の音声チックがみられます。

またトゥレット症候群は、ADHD(注意欠如・多動性障害)や強迫性障害、うつ病や不安、睡眠障害などとの関連性も認められています。

今回イスラエルの医師らは、トゥレット症候群患者18名を対象とした、オープンラベルの臨床試験を行いました。

参加者はTHCCBD=10:2を含有した大麻を喫煙なら1吸い、オイルであれば1滴から服用し、徐々に使用量を増やしていくよう指示されました。使用開始から4週間後と12週間後に治療効果・忍容性・副作用が評価されました。

治療効果の評価は、YGTSS(チックの重症度スケール)やPUTS(チックの前駆衝動のスケール)による客観的評価と、治療結果やQOLの変化を参加者に7段階評価してもらうことによる主観的評価により行われました。

参加者の年齢の中央値は30.5歳(20〜50歳)でした。併発疾患・障害はADHDが14名、強迫性障害が12名、うつ病の既往が7名、不安症が10名でした。

参加者18名のうち3名が試験を中断したため、治療評価は残りの参加者15名に対し行われました。なお、中断した人のうち1名のみが、大麻の加療により強迫性障害の症状増悪を認めました。

医療用大麻の使用開始から4週間で各々のスケールで改善が認められ、12週間後にはさらなる改善が認められました(YGTSSで約38%、PUTSで約20%の改善)。これは臨床的に、重症度が中程度のチックが軽度〜中程度にまで改善したことを意味します。

主観的な評価(7段階評価。7に近いほど満足度が高い)においても、12週間の大麻の使用により治療効果が5.5、QOLの改善が5.7と高い満足度が示されました。

大麻の摂取方法は個人の好みにより選択が可能でしたが、喫煙が圧倒的に多く(14名、93%)、このうち1名だけがオイルと喫煙を併用しており、オイルのみでの摂取は1名のみでした。

平均使用量は、はじめの4週間は16.8g/月であり、12週間後には18g/月にまで増量していました。THC:CBD比は試験開始時の10:2から、12週間後には12.3:3.6となっていました。これらのことは、トゥレット症候群にはTHCの割合が高い大麻が有効である可能性を示しています。

また、併存する疾患や生活習慣への影響についても評価されました。気分の改善が40%(6名)に、睡眠の改善が87%(13名)に、不安感の改善が67%(10名)に認められました。47%(7名)が性機能や性欲も改善されたといいます。ですがADHDや強迫性障害の改善(それぞれ1名、2名)はごく一部にしか報告されませんでした。

副作用として多かったのは口渇(10名、67%)で、次いで疲労感(8名、53%)、鎮静・めまい(7名、47%)でした。使用開始時に1名にのみパニック発作が認められましたが、指定した用量より多く使用していたことが判明し、THCの摂取量を減らすことにより改善がみられました。これにより一時はトゥレット症候群に対する治療効果も認められなくなりましたが、12週間後もTHC量を徐々に増やしながら使用していったところ、副作用が出ることなく症状が改善したと報告しています。

これらの結果から医師らは、引き続き大麻の摂取量を徐々に増やしていくことで、参加者の症状がさらに改善していくだろうと述べています。また、トゥレット症候群に対する医療用大麻の有効性をさらに評価していくためには、対照試験が必要であることを強調しています。

トゥレット症候群に対する医療用大麻の臨床試験はこれまでにもいくつか行われており、有効性が報告されています。ですが今回のような小規模なオープン試験や症例報告が大半であり、まだエビデンスとして確立するには十分ではありません。

AAN(米国神経学会)によるトゥレット症候群の治療ガイドラインでは、大麻による治療はエビデンスが限られているとしつつも、法律が許す限り、治療抵抗性の場合や、すでに自己治療として大麻を使用し症状コントロールが良好であると判断された場合において、医療用大麻の処方を考慮することが認められています(ただし妊婦や授乳中の女性、未成年、精神病を有する人は避けるべきと記されています)。

イスラエルでは2013年から保健省により、治療抵抗性のトゥレット症候群に対し医療用大麻を処方することが認められています。

トゥレット症候群の治療の第一選択は、心理教育や行動療法、環境調節といった非薬物療法です。それでも改善が見られない場合、ドーパミン受容体を遮断する薬(主に統合失調症の治療で用いられる薬)が用いられます。ですがこれも全員に有効ではなく、しばしば副作用も認められます。

治療の選択肢が増えることは、現状ではどうにもならない暗闇の中にいる人たちにとって、希望の光となり得るのではないでしょうか。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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