大麻成分を含有した製剤が運動後の筋肉痛を和らげ、生活機能を改善

大麻成分を含有した製剤が運動後の筋肉痛を和らげ、生活機能を改善

- アメリカの臨床試験

大麻成分CBDCBG、βカリオフィレンを含んだ製剤が運動後の筋肉痛を緩和し、生活機能を改善したことがアメリカの研究者らにより報告されました。論文は「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に掲載されています。

近年アスリートの間で大麻やカンナビノイドに対する関心が高まっています。実際、2020年に発表されたメタ分析では、アスリート4万6,202名のうち約23.4%が過去12ヶ月以内に大麻を使用していたことが明らかにされました。

このような中、バスケットボールの最高峰であるNBA、大谷翔平選手も活躍するメジャーリーグ(MLB)は大麻を禁止物質リストから除外。最近では全米大学体育協会(NCAA)でも同様の勧告がなされています

プロアメリカンフットボールリーグ(NFL)に関しては、大麻検査で陽性反応が出てもいきなり選手を試合出場停止処分にしないだけでなく、カンナビノイドの研究にも積極的に出資するようになっています

アスリートの間で特に注目を集めている大麻成分が「CBD」。最近公開されたレビューによれば、CBDは休息・睡眠の補助、ストレスの軽減、気分の改善、炎症や酸化ストレスの軽減、痛みの緩和、神経保護作用など、アスリートに有益な効果をもたらす可能性が示されています。

CBGに関してはまだあまり研究が進んでいませんが、CBG優位の大麻使用者を対象としたアメリカの調査では、その使用目的として不安、慢性疼痛、うつ病、睡眠障害の緩和が挙げられ、回答者の大多数がこれらの症状を改善していました。

なお、市場調査企業「Fact.MR」によれば、CBGの世界市場規模は2033年末までに600億ドル(約8兆7,000億円)を超える見込みです

βカリオフィレンは大麻に含まれるテルペンの一種であり、CB2受容体に作用することで抗炎症作用をもたらすなど、運動後の回復に寄与する可能性が示されています。

大麻成分を含む製剤が運動後の筋肉痛に有効なのかを検証

著名な大麻・CBD企業である「キャノピーグロース(Canopy Growth)社」と「シャーロッツ・ウェブ(Charlotte’s Web)社」は、運動により筋肉痛を誘発させた成人において、大麻成分とサプリメントを組み合わせた製剤の安全性と有効性を検証。

研究の対象となったのは、健康状態が良好であり、過去1年間に週3回以上1回あたり30分以上の運動を行っていた18〜65歳の成人40名(平均年齢27.4歳、女性48%)。参加者は試験日の4週間前あるいは試験期間中に大麻やカンナビノイドを摂取してはならず、試験直前の大麻検査で陰性である必要がありました。

参加者は治療群とプラセボ(偽薬)群に20名ずつランダムに振り分けられました。できる限り正当に評価を行うため、参加者と評価者はそれぞれ何を服用しているのか分からないようにされました(二重盲検ランダム化比較試験)。

使用された製剤は1回7gの粉末で、CBD35mg、CBG50mg、βカリオフィレン25mg、BCAA(分岐鎖アミノ酸)3.8g、クエン酸マグネシウム420mgを含有。参加者はこれを水で溶かし、経口摂取するよう指示されました。

通常CBDとCBGは脂溶性ですが、この製剤ではナノテクノロジーを活用した水溶性CBD・CBGを使用。これにより水に溶けるようになるだけでなく、カンナビノイド特有の匂いと味が和らげられました。

試験当日、参加者はそれぞれ割り当てられた製剤を服用。その1時間後、利き手と反対側の上腕で負荷の高いダンベル運動が行われました(1RM法)。

以降、参加者は8時と20時に1回分ずつ試薬を服用。安全性と有効性を評価するため、試験開始から24時間後、48時間後、72時間後にフォローアップがなされました。

フォローアップ時、参加者は痛みや不快感、筋肉のこわばりを0(通常)〜10(最悪)で評価。自宅や職場での日常生活動作や身体活動における痛み、不快感、こわばりの干渉の強さに関しても同様に11段階で評価されました。

これ以外にも、筋肉に圧力をかけた際に痛みが生じる強さ(圧力閾値)、リラックスした時の肘の角度、腕の可動域、睡眠(11段階評価)、気分(POMS-2)において評価が行われました。

安全性に関して目立った懸念はなし

製剤摂取から2日後、治療群の1名で下痢の副作用が認められましたが、3日目に消失。

治療群及びプラセボ群において1名ずつ脱落者が出ましたが、いずれも製剤によるものとは無関係でした(1名は交通事故、もう1名はスケジュールの都合)。

筋肉痛を緩和し、生活機能を改善

3.5日間に渡る研究の結果、治療群ではプラセボ群と比較して、72時間後に主観的な痛みや不快感の緩やかな改善が認められました。

治療群では48時間後において、自宅や職場での日常生活動作や身体活動における痛み、不快感、こわばりの干渉の強さが改善し、プラセボとの間で臨床的に意義のある重要な差が示されました。効果が小さくなったものの、72時間後でも臨床的に意義のある改善が認められました。

その他の客観的指標、気分、睡眠においては特に改善が認められませんでした。ただし、気分や睡眠に関しては、ベースライン時に障害を報告した人では「異なるパターンが現れる可能性がある」と研究者らは考察しています。

これらの結果から、研究者らは「本製剤はDOMS(運動後の筋肉痛)から72時間後に自己報告された平均的な痛み・不快感の減少に対して緩やかな効果を示すシグナルを認め、CBDの回復効果に関するこれまでの支持的知見を補完した」「本製剤は回復の客観的指標には有意な効果を示さなかったが、DOMS後48時間の時点では、自己報告された痛み・不快感が、参加者の職場や家庭での日常生活や身体活動を行う能力に及ぼす影響を軽減した」と述べています。

また、論文によれば、この研究は人において運動に関するCBGの有効性を検証した初の臨床試験であり、「今回報告された実験結果は、(CBGを)1回50mgで1日2回、製剤に含まれる他の成分とともに投与した場合、安全性と忍容性が良好であり、筋肉の痛み・不快感の緩和を助け、日常活動のパフォーマンスに対する筋肉の痛み・不快感の干渉を軽減する役割を果たす可能性があることを示している」と書かれています。

ただし、この研究はサンプルサイズが小さいこと、普段運動をしていない人では同様の効果が得られない可能性があることなどの制限があり、「効果に関するこれらの見解は予備的なものであり、慎重に解釈されるべきである」と述べられています。

そのため、今回の製剤の有効性を明らかにするためには、今後もより多くの研究が必要となります。

CBDや大麻が運動において有益となる可能性は、他の研究においても報告されています。

プロラグビー選手517名を対象とした調査では、回答者の26%がCBDを使用したことがある、または現在も使用していると回答。CBDを使用する主な理由は回復や痛み(80%)、睡眠の改善(78%)であり、68%の選手が有益性を感じていました。

2021年のアメリカの研究では、激しい運動の直後にCBD16.67mgを服用した結果、運動から24時間後、48時間後、72時間後、96時間後において、プラセボと比較して有意に筋肉痛が緩和されたことが報告されています。

アメリカの研究チームは2023年3月、3ヶ月以上慢性疼痛を抱えるプロアスリート20名にCBDを主成分としたクリームを6週間使用してもらった結果、痛みや日常生活機能の改善が認められたことを報告

2022年に公開されたアメリカの調査では、大麻と運動を組み合わせている人々の大多数が満足感、集中力、生産性といった面においてポジティブな効果を実感していると回答。他にも運動と大麻を組み合わせる理由として、集中力を高めるため(67%)、運動を楽しむため(66%)、心と身体のつながりを強めるため(65%)、ゾーンに入るため(62%)、身体への意識を高めるため(53%)といったことが挙げられました。

インディアナ大学の研究チームはヘディング後のサッカー選手において、大麻使用者では非使用者よりも脳へのダメージが少ないことを明らかにし、大麻がコンタクトスポーツにおいて有益となる可能性を報告

米国のケント州立大学とグランド・バレー州立大学の研究者らは、定期的に有酸素運動や筋トレをしている大麻使用者111名を調査した結果、回答者の93%が運動後の回復に大麻が役立つと実感していたことを報告しています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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