回答者の8割以上が医療用大麻の保険適用を支持

回答者の8割以上が医療用大麻の保険適用を支持

- イギリスの観察研究

7月4日、イギリス国内の調査データを分析した結果、医療用大麻の合法化が嗜好用大麻の使用状況に影響を与えていなかったことが明らかになるとともに、回答者の大多数が医療用大麻の保険適用を支持するなど、大麻改革に好意的であったことが同国の研究者らにより報告されました。論文は「Drug Science, Policy and Law」に掲載されています。

イギリスは2018年に医療用大麻を合法化。これにより特定の病状を持つ患者は様々な形態の大麻製品を使用できるようになりましたが、国民健康保険(NHS)の適用となる病状は非常に限られており、この枠で処方される製品もほとんどが大麻由来医薬品(エピディオレックスサティベックスナビロン)に限定されています。

今年3月に公開されたデータでは、2021年から2022年にかけて大麻由来医薬品の処方数が45%増加していたことが明らかにされましたが、これらの医薬品を除く未承認の医療用大麻製品に関しては、これまで数名しか国民健康保険の適用が認められていません。

一方、イギリスで嗜好用大麻は違法であり、最近では大麻農場を対象とした「ミル作戦(Operation Mille)」が警察により実施され、イギリス全土で1,000人以上が逮捕され、1億3,000万ポンド(約236億円)相当の大麻草が押収されたことが報じられています

医療大麻法が嗜好大麻使用に与える影響を分析

様々な国や地域で医療用大麻が合法化されていますが、この法改正が嗜好用大麻の使用状況に与える影響についてはまだあまり知られていません。

医療用大麻の合法化により大麻に対するリスク認知が低下したことを示すデータもあり、このことから医療用大麻の合法化が嗜好用大麻の使用増加に結びつく可能性があるとも考えられています。

2018年に公開されたアメリカのメタ分析では、医療用大麻の合法化により、青少年の嗜好用大麻の使用が増加するというエビデンスは得られなかったと結論づけられています。一方で、アメリカの州における医療用大麻合法化が、26歳以上の成人における嗜好用大麻の使用増加と関連していたとする報告もあります

このような中、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは、イギリスにおける医療用大麻の合法化が嗜好用大麻の使用状況やリスク認知にどのような影響を与えているのかを調べるため、既存の調査データを分析する研究を実施。

研究に用いられたのは、夜のクラブイベントやパーティーに6回以上参加したことがある18〜34歳の人を対象としたヨーロッパの調査データ(EMSS:Electronic Music Scene Survey)。 この集団は薬物使用率が高いことで知られていることから、大麻の使用状況を調べる上で最も適切な調査対象と判断されました。

EMSSでは2017年、2018年、2020年と同じ人を対象に調査が実施されています(縦断的サンプル)。今回の研究ではこれに加え、別の人々に同じ内容の調査を実施した2020年の横断的サンプルデータ(EMSS-UK)も用いられています。

大多数が大麻改革を支持

EMSSの回答者414名(回答率57.3%)、EMSS-UKの回答者2001名の合計2415名のデータが解析対象となりました。回答者の基礎データや薬物使用状況は両データで差はなく、男性が51%を占め、平均年齢は24.5歳。回答者の71.6%が過去12ヶ月以内の大麻使用を報告していました。

回答者の88.3%が大麻は効果的で安全な薬であると認識しており、92.4%が医療用大麻の合法化を支持し、80.8%が医療用大麻を国民健康保険の適用にすべきと回答。

また、82.5%が嗜好用大麻の合法化を支持し、76.9%が医療目的での嗜好用大麻の使用を容認し、88.4%がそのような人々が刑事罰を受けるべきではないと考えていました。

イギリス若年者の大麻に対する認識

大麻のリスク認知や使用状況はほとんど変化せず

イギリスで医療用大麻が合法化されていることを知っていたのは53.5%。

87.7%が医療用大麻の合法化は嗜好用大麻の使用に変化を及ぼさないと考える一方、10.9%が使用が増える可能性があると回答。これらの回答は、イギリスで医療用大麻が合法化されていることを知っている人と知らない人で差がありませんでした。

大麻に対するリスク認知はリスクなし(1点)、わずかなリスク(2点)、中程度のリスク(3点)、分からない(4点)のいずれかで回答してもらうことで採点。点数を集計する際、「分からない」と回答した人の点数は除外されました。

EMSSに回答した414名のうち、医療用大麻の合法化を認識していた人(243名)ではリスク認知の平均スコアが2017年で2.5点、2018年で2.6点であったのに対し、2020年では2.8点。医療用大麻の合法化を認識していなかった人(171名)でも2017年で2.8点、2018年で3点であったのに対し、2020年では3点となっており、両グループとも医療用大麻の合法化前後でリスク認知の低下が認められませんでした。

最後に、EMSSの回答者における大麻の使用率と使用頻度を分析。

過去12ヶ月以内の大麻使用を報告したのは、2017年で75.4%、2018年で66.9%、2020年で70.5%。2017年から2018年にかけての使用率減少は統計的に有意となっていましたが、2018年から2020年にかけての増加は統計的に有意とはなりませんでした。いずれにせよ、2020年の大麻使用率は2017年を下回っています。

大麻の使用頻度は、1年に3回以下(1点)、2〜3ヶ月に1回(2点)、毎月(3点)、2週間に1回(4点)、毎週(5点)、週に3回以上(6点)のいずれかで回答してもらい、合計点を集計。

その結果、使用頻度の平均スコアは2017年で3.2点、2018年で3.1点であったのに対し、2020年では2.9点とわずかな減少が観察されました。

医療用大麻の合法化を認識している人と認識していない人の間で比較しても、大麻の使用率に差はなく、使用頻度に関しても2018年から2020年にかけて0.2点の減少が認められるのみとなっていました。

医療用大麻合法化前後での大麻使用状況の変化(イギリス)

これらの結果から、研究者らは「全体として、サンプルの大多数は大麻が安全で効果的な薬であると信じ、その合法的提供に賛成し、NHSでの利用を拡大させることに同意していました。この医療用大麻に対する好意的な見方は、サンプルの大麻使用率が比較的高いことを考えれば当然かもしれませんが、2018年に医療用大麻の提供を認める政策変更が行われたことに対する認知度は50%強となっており、予想よりも低いことを示しています」

「これらの知見は、2018年にイギリスが特定の病状に対する大麻の合法的な提供を認めるよう政策を変更したことにより、医療目的での大麻の提供に好意的なサンプルにおいて、大麻のリスク認知の低下や、娯楽目的での使用増加とは関連していないことを示しています」と述べています。これについて研究者らは、イギリスの医療大麻法がアメリカの各州と比べて限定的であることが関連している可能性があるとも考察しています。

なお、今回の研究は特定の集団を対象とした調査データを活用しているため、同じことが一般集団に当てはまらない可能性や、新型コロナウイルスのパンデミックが結果に影響を与えている可能性など、いくつかの限界があるとされています。

前述の通り、イギリスにおいて医療用大麻の普及は現時点で限定的となっていますが、その拡大に向け様々な動きが見られています。

今年3月には、イギリス初のオンライン医療用大麻クリニック「トリートイット(Treat it)」が開設。このオンラインクリニックは慢性疼痛患者を対象としていますが、今後うつ病PTSDなどの精神疾患患者もサポートしていく予定となっています。

5月にはイギリスの国営病院が脳腫瘍患者を対象とし、大麻由来医薬品「サティベックス」を用いた大規模な治験プログラムを開始。この治験が成功すれば、今後脳腫瘍に対するサティベックスの処方が保険適用となる可能性があります。

NHSの委員会は最近、抗がん剤治療で悪心・嘔吐に苦しんでいた進行がん患者に対し、大麻の花の保険適用を承認

なお、イギリスの大麻企業「Releaf」は最新の調査で、イギリス国民の半数近く(45.6%)が医療用大麻により恩恵を受ける可能性があると指摘しています。

一方、イギリス北部を占めるスコットランドは最近、イギリス政府に違法薬物の非犯罪化を求めましたが、これに対しイギリスのリシ・スナク(Rishi Sunak)首相は「薬物に対する厳しい姿勢を変えるつもりはない」とし、否定的な構えを見せています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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