タイ国旗と医療カルテと大麻のイラスト

タイ、回答者の約8割が医療用大麻により病状が改善したと実感

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2022年1月11日、タイにおける医療用大麻の使用状況を調査した論文が、PeerJに掲載されました。

タイは2019年2月に医療用大麻を合法化しており、これは東南アジアでは初めてとなりました。現在約800件の医療機関が医療用大麻での治療を実施しています。

タイでは、保健省により医療用大麻の適応リストが作成されており、3つのグループに分類されています。

①エビデンスがほぼ確立されたもの(化学療法による嘔気・嘔吐、難治性てんかん、多発性硬化症、神経障害性疼痛)
②比較的エビデンスのあるもの(末期がん、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症、不安障害、その他の神経変性疾患)
③もう少しエビデンスがあれば有効と考えられるもの(一部のがんなど)

上記のグルーブに加えて、タイ伝統医療の16の養生法(主体的な健康管理・健康促進法)で承認されています。

今回の調査では、過去1年以内に医療目的として大麻あるいは大麻由来製品を使用した人を対象とし、インタビュー形式でデータ収集が行われました。

有効回答数は485名で、45〜65歳の人が最も多く(65.2%)、回答者の22%は医療目的以外で大麻を使用したことがあると報告しています。

医療用大麻を使用した疾患・症状として多かったのは、がん(23.3%)、神経精神疾患(22.8%)、筋・骨格系の疾患・症状(21.7%)でした。

その他の疾患(36.3%)も多く、具体的には糖尿病、脂質異常症、高血圧、喘息、エイズ、帯状疱疹、単純ヘルペスなどが挙げられました。

ほとんどの回答者(79.1%)が大麻の使用することにより、症状が改善されたと回答しています。

また、多数の回答者が適応リストの病状に対し大麻が有効であると感じており、特に睡眠障害の改善(99.1%)、がん治療(89.9%)、慢性疼痛の緩和(83.6%)、全般性不安障害の治療(82.6%)で有効性を感じる人が多くみられました。

なお、適応リストの病状に対し大麻を使用している人は約6割であり、残りの約4割はリスト以外の疾患・症状のために大麻を使用していることも明らかになりました。

大麻の有害現象は回答者の半数以下で報告され、多いものから順に、動悸(42.3%)、口渇(40.9%)、からだの自由がきかない(37.8%)でした。

医療用大麻の情報源としては、友人・親戚が最も多く(78.3%)、医療および政府機関から情報を得たという人は少数でした(15.4%)。

医療用大麻の購入は、依然として闇市場が最も多く(54.5%)、医師の処方により購入している人は回答者の26%となりました。この理由として、適応疾患が限られている、合法化以前から非正規ルートで購入していた人が多かった、非正規ルートのほうがコストが安いなどが考えられるとしています。

また、回答者に大麻が法律的にどう扱われるべきかを尋ねたところ、75%が「アルコールやたばこと同様の扱いであるべき」と回答していることも分かりました。

今回の調査結果から、適切に品質管理された合法の大麻製品へのアクセスを容易にすること、随時医療用大麻の適応リストを見直すこと、効果的な情報発信が、今後国民の健康を守っていく上での課題になると、著者は結論づけています。

2016年に医療用大麻を合法化したオーストラリアでも、医療用大麻の使用状況(2018年9月から2019年3月の間)を調査した結果が、2020年の論文で報告されています。

有効回答数は1387名(全問回答者は909名)で、大麻の使用理由として痛み(48%)、不安(44%)、睡眠障害(31.3%)が多く、症状が改善されたと回答した人が圧倒的に多い結果となりました。

大麻の入手方法の半数近くがアンダーグラウンドであり、医師から正規に処方してもらい入手したという人は、わずか2.4%でした。その理由として、処方してくれる医者を知らない(47.8%)、合法的に入手できることを知らなかった(32.0%)、合法的な大麻は高いから(21.2%)という回答が多くみられました。

医療用大麻に対する意見として、回答者の78.3%が「医療従事者の承認なしに購入・使用できるようにすべき」、92%が「日常的なヘルスケアの1つとすべき」、70.7%が「国が一部費用を助成すべき」と答えており、アクセスのしやすさを求める意見が多いことが分かりました。また、91.1%が「安全基準が満たされているべき」と回答しており、安全性を求める声も多く聞かれました。

これら2つの論文から、多くの人にとって医療用大麻が有益であることが分かります。しかし医療用大麻を合法化したとしても、情報不足やコストなどの問題により、実際に医師の処方を受けて大麻を使用することに困難さを感じる人が多いのが分かります。

大麻が様々な疾患・症状に対し有効であるというエビデンスは、数々の医学論文で示されており、近年では研究がより活発になっています。

よって現在違法となっている日本でも、今後医療用大麻が合法化される可能性があります。実際に、高濃度のCBDを含有したエピディオレックスという医薬品による治験が、今後難治性てんかん患者に対し行われようとしています。

しかし日本では”大麻=ダメ絶対”という教育が普及しており、多くの国民が”大麻=悪いもの”と認識していると考えられます。仮にこの状況のまま医療用大麻を合法化したら、どうなるでしょうか。

いくら大麻に医療効果があるという事実があっても、医師を中心とした多くの医療従事者はそれを受け入れようとせず、実際に大麻を処方してくれる医師はほんの一部に限られることが予測されます。

また、治療として大麻が奏功しうる疾患を持つ人も、有効性を信じることができず、仮に信じたとしても周囲の目が気になって使用できないというケースもあると思います。

これらの結果、合法になっているにもかかわらず、医療用大麻へのアクセスが困難になるのではないかと感じます。そうなると実際に使用する人が少なかったり、あるいはアンダーグラウンドで品質管理が不十分な大麻を使用する人が多くなることでしょう。

一方的に”大麻=悪”というマイナスイメージを先行させるような情報発信・教育は、大麻の使用を遠ざける効果としては絶大でしょう。ですが、同時に大麻の有効性を全て隠してしまい、議論する余地もなく、可能性ある未来を奪ってしまいます。

これを避けるためにも、大麻がどんな医療効果をもつのか、合法圏ではどのように使用されているのか、どのような利益・不利益があるのかというような”公平な”情報を発信していくことが、今後の日本においてたくさんの人を救うための礎となっていくはずです。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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