米国の州知事6名が年内に大麻の規制緩和を行うようバイデン大統領に要請

米国の州知事6名が年内に大麻の規制緩和を行うようバイデン大統領に要請

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12月5日、米国の州知事6名は保健福祉省(HHS)の勧告に基づき、大麻の規制緩和を年内に実施するようバイデン大統領に要請しました

現在アメリカでは、大麻は規制物質法においてスケジュールⅠ(乱用の危険があり、医療的価値が低い)の物質に分類されています。これは大麻がヘロインと同レベルで規制され、フェンタニルやメタンフェタミンよりも有害な物質であることを意味します。

2022年10月、バイデン大統領は保健福祉長官と司法長官に大麻の再スケジューリングを要請。科学的文献に基づいた包括的な見直しを行った結果、保健福祉省は今年8月、大麻を「スケジュールⅢ」の物質に再分類するよう麻薬取締局(DEA)に勧告しました

スケジュールⅢは「医療価値があり、乱用の可能性はスケジュールⅠやⅡの物質よりも低いが、乱用により低〜中等度の身体依存あるいは高度の精神依存を引き起こす可能性のある物質」と定義されています。

規制物質法の分類における最終的な決定権は麻薬取締局にあります。しかし、現時点で麻薬取締局がどれほど作業を完了しているのかは不明。専門家によれば、麻薬取締局が保健福祉局の勧告を拒否する可能性は低いとされています。

このような中、コロラド州のジャレッド・ポリス(Jared Polis)知事は民主党所属の州知事5名と共に、大麻の再スケジューリングを年内に完了することを求める書簡をバイデン大統領に送りました。

5名の州知事とは、ジョン・ベル・エドワーズ氏(ルイジアナ州)、キャシー・ホーチュル氏(ニューヨーク州)、ウェス・ムーア氏(メリーランド州)、フィル・マーフィー氏(ニュージャージー州)、J.B.プリツカー氏(イリノイ州)のこと。

現在アメリカでは38州が医療用大麻24州が嗜好用大麻を合法化ルイジアナ州では医療用大麻のみ、ニューヨーク州メリーランド州ニュージャージー州イリノイ州では医療及び嗜好用大麻が合法となっています。

書簡では、米国民のおよそ88%が医療及び嗜好用大麻の合法化に賛成していることから、大麻がスケジュールⅠの物質に分類されていることは「時代遅れ」と指摘。

米国人口の72%が何らかの形で大麻が合法な地域にいる状況において、大麻の規制を緩和することは経済面でも安全面でも有益であるとしています。

経済面に関しては、まず大麻事業者の税負担の軽減が可能とされています。大麻がスケジュールⅠの物質に分類されていることにより、現在大麻事業者はその他の事業者と同じような税金控除を受けることができません。

書簡によれば、大麻関連企業における現在の実効税率は最大で80%。大麻がスケジュールⅢの物質に再分類されれば、この税率は米国企業の標準的な税率である21%にまで下がり、年間18億ドル(約2,600億円)もの節税が可能になると試算されています。

米国における2022年の大麻産業の売上高は推定330億ドル(約4兆7,800億円)。2030年には710億ドル(約10兆2,900億円)を超えると推定されています。これらの売上から得られた税収はコミュニティセンター、教育、学校、道路の建設などに役立てられています

このような成長を続けている大麻産業は「フルタイム換算で41万7,000人以上の雇用」を支えており、再スケジュールによって税金控除が実現すれば、「何十万人もの雇用が守られ、利益を挙げられるようになる」と書簡では述べられています。

安全面に関しては、「州の合法的な大麻市場で販売されている製品は、オピオイドを含む無数の代替品よりもはるかに安全である」ことから、「より危険な薬物使用から米国民を守ることができる」と指摘。

アメリカにおいてオピオイド危機が深刻な社会問題となっている中、合法大麻市場の存在はオピオイドの使用や乱用の減少、オピオイド関連の入院・交通事故死・過剰摂取死の減少と関連。加えて、「オピオイドによる死者は昨年8万人を超えたが、大麻による死者はゼロだった」と述べられています。

また、大麻の規制緩和は違法大麻やヘンプ由来THC製品の使用減少にもつながると指摘。違法市場の大麻製品からはフェンタニル、高濃度の重金属、不要な汚染物質、非常に高レベルなTHCが検出されており、このような製品では負傷者や死亡者が出ていると書簡では述べられています。

アメリカでは2018年の農業法改正によりヘンプが合法となりましたが、これをきっかけにデルタ8THCのような精神活性作用のある製品が意図せず流行しました。

いくつかの州はこれらの製品に規制を設けていますが、まだ多くの州では規制が存在せず、コンビニやガソリンスタンドなどで気軽に購入することが可能となっています。

州知事らは、合法な大麻はオピオイド、違法市場の大麻製品、ヘンプ由来のTHC製品よりも安全であると主張。州が規制する大麻市場には「年齢確認、包装・表示基準、試験要件、警告記号や注意書きなど、数多くの保護」がなされており、種から販売までのトレーサビリティや子供への販売禁止規則も設けられていると説明しています。

また、大麻に対する多くの需要がある中で、「成人消費者にとって大麻をできる限り安全にし、なおかつ子どもたちを守ることは、当然のことであり賢明なことのように思える。州によって規制された市場はまさにそれを実現する」「もし州が規制する市場を存続させなければ、街角のいたるところで安全でない製品を目にすることになるだろう」と述べています。

書簡の最後の部分では、保健福祉省の勧告について”州の大麻規制が成功していることの証”と指摘し、このことから「明らかに、州が規制する大麻産業を支援することは理にかなっている」と述べられています。

他にも、大麻がスケジュールⅢの物質に再分類されれば、現時点で数々の制限が設けられている大麻の研究も行いやすくなります。また、現在審議中の「SAFER Banking Act」が可決される可能性も高まり、大麻企業による銀行サービスの利用が促進されるとも言われています。

現在大麻が違法な州においても、合法化や非犯罪化、罰則の軽減など、大麻政策に動きがみられる可能性があります。さらに言えば、アメリカにおける大麻の規制緩和は、世界各国の大麻規制にも影響を及ぼすかもしれません。

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Colorado Governor Jared Polis「Governor Polis, Governors From Across the Country Encourage Biden Administration & Federal Government to Reschedule Cannabis Rescheduling of Marijuana will Make Communities Safer」https://www.colorado.gov/governor/news/11126-governor-polis-governors-across-country-encourage-biden-administration-federal

Marijuana Moment「Six Governors Push Biden To Ensure Marijuana Is Rescheduled By The End Of This Year」https://www.marijuanamoment.net/six-governors-push-biden-to-ensure-marijuana-is-rescheduled-by-the-end-of-this-year/

MJBizDaily「Democratic governors ask Biden to reschedule marijuana before end of year」https://mjbizdaily.com/democratic-governors-ask-biden-to-reschedule-marijuana-before-end-of-year/

Marijuana Moment「Schumer Says Marijuana Banking Bill Needs More GOP Support, But Senate Is ‘Getting Close’ To Floor Vote」https://www.marijuanamoment.net/schumer-says-marijuana-banking-bill-needs-more-gop-support-but-senate-is-getting-close-to-floor-vote/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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