オレゴン州、ハードドラッグの少量所持を再び犯罪化

オレゴン州、ハードドラッグの少量所持を再び犯罪化

/

4月1日、米国オレゴン州のティナ・コテック(Tina Kotek)知事は、州内で非犯罪化されているハードドラッグの少量所持を再び犯罪化する法案に署名。同州では2024年9月1日より、コカイン、フェンタニル、メタンフェタミンなどの少量所持が軽犯罪として扱われます。

オレゴン州の有権者は2020年、住民投票にて違法薬物の少量所持を非犯罪化する法案(Measure 110)を承認。同法が2021年に施行されたことで、違法薬物の少量所持が発覚したオレゴン州民は現在、100ドルの罰金が科せられるのみとなっています。

同法は「ハームリダクション」の考えに基づいており、物質使用障害(薬物依存症)患者に刑罰を科すことなく、治療プログラムに誘導することを目的としています。

このために、同法は大麻から得られた税収のうち数億ドルを、物質使用障害の治療やハームリダクションプログラムに割り当てることを規定しています。

しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックの対応に追われた州内の保健当局は、物質使用障害の新たな治療プログラムの立ち上げに苦慮。さらに、同時期に全米でフェンタニルの過剰摂取が急増し、オレゴン州もこの危機に直面することになりました。

このような中、2023年8月の調査で、オレゴン州民の56%がMeasure 110に対し反対と回答。これを受け、オレゴン州の立法府は同法を撤回する法案「HB 4002」を提出しました。

この新法はコカイン、フェンタニル、メタンフェタミンなどのハードドラッグの少量所持を軽犯罪とし、最高6ヶ月の懲役を科すもの。これにより、警察は以前のように違法薬物を没収したり、街中で取り締まりを行うことが可能となります。

一方、違法薬物の所持が発覚した者は、物質使用障害やメンタルヘルスの治療プログラムに参加することで、刑事告発や懲役刑を避けることができます。このプログラムのために、新法はMeasure 110と同様、大麻の税収を治療プログラムに分配することを規定。

これまでのところ、オレゴン州36郡のうち23郡がこのようなプログラムの設立に同意しています。

なお、プログラムに参加した者は保護観察下に置かれますが、遵守事項に違反したり保護観察が取り消された場合は、刑務所に投獄されることになります

コテック知事は法案の署名にあたり、このアプローチは有色人種のコミュニティへの不釣り合いな影響を軽減し、封印が必要な裁判記録を減らすための「ひとつの戦略」であると説明し、以下のように述べました

「裁判所やその他の行政手続きを簡素化・標準化することで混乱を減らし、将来の犯罪記録の抹消に必要なプログラムを成功裏に完了することを支援する」「この政策の枠組みが成功するかどうかは、実施パートナーがあらゆるレベルで緊密な調整を行えるかどうかにかかっている」

「裁判所、オレゴン州警察、地元の法執行機関、弁護人、地方検事、地元の問題行動に関わる医療従事者はすべて、こうした話し合いに欠かせない存在であり、この法律のビジョンを達成するために必要なパートナーである」

違法薬物の犯罪化はより多くの弁護人を必要とすることになります。しかし、オレゴン州司法省によれば、同州ではすでに弁護人が不足しており、現時点で起訴された2,500人以上が公選弁護人を立てられていません

また、州独自の分析では、同法は有色人種を不当に刑務所に入れる可能性があると指摘されています

オレゴン州は違法薬物の非犯罪化政策を断念しましたが、世界ではこのアプローチへとシフトする動きが加速しつつあります。

国連麻薬委員会(CND)は3月22日、ハームリダクションに基づいた薬物政策を初めて承認。この決議では、刑罰による薬物政策を採用している日本も賛成票を入れています。

国連の人権機関である「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)」は2023年6月、違法薬物の非犯罪化を「緊急の課題」とした声明を発表

2023年9月には、違法薬物使用者に対する懲罰的なアプローチは薬物関連問題の解決策とはならず、逆に公衆衛生の悪化や人権侵害などさらなる害をもたらすと訴えた報告書も発表しました

薬物政策のパイオニアであるポルトガルは、すでに2001年に違法薬物の少量所持を非犯罪化。これらの政策により、薬物使用レベルや未成年による薬物使用の減少、薬物の過剰摂取や注射器を介したHIV感染の大幅な減少につながったことが報告されています。

カナダのブリティッシュコロンビア州は2023年1月31日から3年間、コカイン、ヘロイン、モルヒネ、フェンタニル、メタンフェタミン、MDMAの少量所持を非犯罪化するトライアルを実施中

スコットランド政府は2023年7月、ハームリダクションを基本原則とした「思いやりと人権に配慮した薬物政策」の実施をイギリス本国に求めました

オーストラリア首都特別地域(ACT)は2023年10月28日より、アンフェタミンやコカインなど9種類の違法薬物の少量所持を非犯罪化しています

アイルランドは2023年4月〜10月にかけて、政府から無作為に選ばれた99名の市民で構成された「薬物に関する市民会議(Citizens’ Assembly on drugs)」を開き、違法薬物による健康被害を減少させるための薬物政策について検討を行いました。

これにより導き出された最終報告書でも、刑罰による薬物政策から脱却し、違法薬物の非犯罪化による公衆衛生を中心としたアプローチが提案されています。

Marijuana Moment「Oregon Governor Signs Bill Overturning Voter-Approved Drug Decriminalization Law」https://www.marijuanamoment.net/oregon-governor-signs-bill-overturning-voter-approved-drug-decriminalization-law/

High Times「Oregon Recriminalizes Hard Drugs, Ending State’s Drug Experiment」https://hightimes.com/news/oregon-recriminalizes-hard-drugs-ending-states-drug-experiment/

Oregon Public Broadcasting – OPB「Oregon governor signs bill criminalizing drug possession」https://www.opb.org/article/2024/04/01/drug-possession-oregon-kotek-sign-bill/

Fox News「Oregon governor signs bill recriminalizing hard drugs, completing liberal experiment’s U-turn」https://www.foxnews.com/politics/oregon-governor-signs-bill-recriminalizing-hard-drugs-completing-liberal-experiments-u-turn

USA TODAY「Gov. Tina Kotek signs bill reintroducing criminal penalties for drug possession in Oregon」https://www.usatoday.com/story/news/politics/2024/04/01/oregon-reintroduces-criminal-penalties-drug-possession/73171053007/

Forbes「Oregon Legislators Pass Bill To Revert Drug Decriminalization Measures」https://www.forbes.com/sites/alonzomartinez/2024/03/04/oregon-legislators-pass-bill-to-revert-drug-decriminalization-measures/

Citizens’ Assembly「Launch of the Report of the Citizens’ Assembly on Drugs Use」https://citizensassembly.ie/launch-of-the-report-of-the-citizens-assembly-on-drugs-use/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

Recent Articles

ブラジル最高裁、大麻の少量所持を非犯罪化

現地時間6月27日、ブラジル最高裁は個人使用目的での大麻所持に対する刑事罰を撤廃する判決を下しました。 この判決は数日以内に発効され、ブラジル国民は今後少なくとも18ヶ月間、40g以下の大...

ポーランドで医療用大麻の処方が急増中

中央ヨーロッパの国ポーランドでは医療用大麻の処方が急増しており、その影響は大麻に対する国民の認識にも及んでいます。 2024年2月の世論調査によれば、ポーランド国民の73.4%が大麻の単純所...