6月16日、全米大学体育協会(NCAA)の「競技上の安全措置及びスポーツの医学的側面に関する委員会(CSMAS)」は、同協会の禁止物質リストから大麻を除外することを提案する意向を表明しました。
全米大学体育協会とは、アメリカの大学におけるスポーツ競技を統括する組織であり、約1,100校の大学が加盟。日本では全日本大学野球連盟、全日本バスケットボール連盟など各スポーツにおいてこのような組織がありますが、アメリカでは全米大学体育協会がバスケットボール、アメフト、野球など複数のスポーツ競技を統括し、競技大会の監督や、競技におけるルールの作成などを行っています。
全米大学体育協会では、同じような競技レベルの大学同士が競い合えるように、3つのディビジョン(部)が設けられています。これは、日本で言うところの「1部リーグ」「2部リーグ」みたいなもの。「ディビジョン1」はほぼ全ての有名大学が加盟している最も競技レベルの高いリーグ。「ディビジョン2」「ディビジョン3」と数字が増えるにつれ、知名度や競技レベルが低いリーグとなります。なお、日本とは異なり、ディビジョン間で「降格」や「昇格」はありません。
今回の「競技上の安全措置及びスポーツの医学的側面に関する委員会」の発表は、ディビジョン2、ディビジョン3から、全米大学体育協会における大麻政策と薬物検査を身体強化物質のみに限定すべきかということについて検討するよう求められたことがきっかけとなっています。
その結果、同委員会は全米大学体育協会の禁止物質リスト及び薬物検査の対象から大麻を除外することを支持。今年の夏に加盟校から意見を集め、秋に最終的な対応を決定する予定です。
同協会の禁止物質リストから大麻やカンナビノイドが除外されるためには、3つの各ディビジョンから承認を得る必要があります。
また、同委員会はこの新たな規制を検討している間、全米大学体育協会の競技大会で大麻検査を一時中止するよう、協会の理事会に求める予定です。
同委員会がこのような方針を決定した理由には、昨年12月に同協会で開催された「大学運動競技におけるカンナビノイドに関するサミット」で得られた情報が大きいとしています。この情報には、大麻はパフォーマンスを向上させる物質ではない(ドーピングには当たらない)こと、大麻に対するハームリダクションアプローチは学校レベルで実施するのが最善であるという総意が含まれています。
これら以外にも、同委員会が大麻を規制物質リストから除外する根拠について、以下のようなことが挙げられています。
・運動能力を向上させることで不当な利益をもたらす物質の検査に重点を置くため。
・アルコールと同様に、大麻の害を減らす視点(ハームリダクション)へとシフトするため。
・組織的な検査とその検査が問題のある大麻使用を特定するための学内の取り組みを支援・強化する方法に向けて、再調整を行うため。
・現代の大麻がもたらす健康上の脅威と使用方法について、学生アスリートに教育するため。
・合法的に大麻を摂取することを選択した学生アスリートに対して、関連する害の軽減・緩和戦略を特定し、説明するため。
2021年、WADAは大麻を禁止物質リストから外すための科学的検討を開始。しかし、翌年WADAは大麻の使用を「スポーツの精神に反する」と判断し、大麻を禁止物質リストに残すことを正式に決定しました。
そのような中、プロスポーツ界では大麻に関する規則が緩和されてきています。
メジャーリーグベースボール(MLB)は2019年に大麻を禁止物質リストから除外することを決定。2022年10月にはリーグ全体として、著名なCBD企業の1つである「シャーロット・ウェブ(Charlotte’s Web)」とスポンサー契約を締結。今年に入ってからは、シカゴ・カブスとカンザスシティ・ロイヤルズが球団単体としてCBD企業とスポンサー契約を結んでいます。
全米のプロスポーツで1番の人気を誇るプロアメリカンフットボールリーグ(NFL)の選手は2020年より、大麻に限らず全ての薬物で陽性反応が出ても、試合出場停止処分を受けることがなくなっています。
世界最強のファイターが集うアメリカの総合格闘技団体UFCは2021年、薬物検査で大麻の陽性反応が出たことを理由にファイターを罰しないことを発表。
今年5月には、バスケットボールの世界最高峰であるNBAが大麻を禁止物質リストから除外することを正式に発表しています。
なお、プロスポーツの中でも特にコンタクトスポーツにおいて、大麻が選手をサポートする可能性も明らかとなってきています。
今年3月にアメリカの研究チームは、3ヶ月以上慢性疼痛を抱えるプロアスリート20名にCBDを主成分としたクリームを6週間使用してもらった結果、痛みや日常生活機能の改善が認められたことを報告。
5月にはインディアナ大学の研究チームが、ヘディング後のサッカー選手において、大麻使用者では非使用者よりも脳へのダメージが少ないことを明らかにし、大麻がコンタクトスポーツにおいて有益となる可能性を報告しました。
National Collegiate Athletic Association「CSMAS signals its support for removing cannabis from banned drug list and drug-testing protocols」https://www.ncaa.org/news/2023/6/16/media-center-csmas-signals-its-support-for-removing-cannabis-from-banned-drug-list-and-drug-testing-protocols.aspx
National Collegiate Athletic Association「Summit addresses impact of cannabinoids on student-athlete health, safety and performance」https://www.ncaa.org/news/2022/12/20/media-center-summit-addresses-impact-of-cannabinoids-on-student-athlete-health-safety-and-performance.aspx
Marijuana Moment「NCAA Panel Recommends Removing Marijuana From Banned Substances List For College Athletes」https://www.marijuanamoment.net/ncaa-panel-recommends-removing-marijuana-from-banned-substances-list-for-college-athletes/
WADA「WADA Executive Committee approves 2023 Prohibited List」https://www.wada-ama.org/en/news/wada-executive-committee-approves-2023-prohibited-list
Marijuana Moment「MLB Officially Removes Marijuana From Banned Substances List For Baseball Players」https://www.marijuanamoment.net/mlb-officially-removes-marijuana-from-banned-substances-list-for-baseball-players/
The Official Site of Major League Baseball「MLB, CBD brand Charlotte’s Web form exclusive partnership」https://www.mlb.com/news/mlb-partners-with-cbd-company-charlotte-s-web
NBC Sports「New CBA removes all substance-abuse suspensions for positive drug tests」https://profootballtalk.nbcsports.com/2020/03/05/new-cba-removes-all-substance-abuse-suspensions-for-positive-drug-tests/
The Official Home of Ultimate Fighting Championship「UFC ANNOUNCES FORMAL CHANGES TO ANTI-DOPING POLICY RELATED TO CANNABIS」https://www.ufc.com/news/ufc-announces-formal-changes-anti-doping-policy-related-cannabis