脳性麻痺の子どもに医療用大麻を処方した経験のある医師を調査した結果、約7割がてんかん、痙縮、ジストニアなどの症状において医療用大麻が有効であると認識していたことがスイスの研究チームにより報告されました。論文は「Children」に掲載されています。
脳性麻痺とは、妊娠から生後4週間の間に発生した脳の損傷により、運動機能や姿勢を制御する能力に異常をきたした障害の総称を指します。
原因のほとんど(約70%)は出産時によるもので、早産、低酸素症、脳出血、核黄疸など。他にも、妊娠中における風疹やトキソプラズマ症などの感染症や遺伝子異常、出産後における脳炎や髄膜炎などの発症も原因として挙げられます。
脳性麻痺の運動・姿勢障害には様々な種類があります。最も発症頻度が高いのは、手足の硬直や筋肉のこわばりがみられる「痙直型」。自分の意思とは関係なく手足や体幹が勝手に動く「アテトーシス型」、体のバランスがうまくとれない「失調型」、これら2つ以上が組み合わさった「混合型」などもあります。
また、脳性麻痺ではこれらに加え、精神遅滞、てんかん、関節拘縮、視覚・聴覚障害、摂食・嚥下障害、睡眠障害などの合併症が認められることがあります。
脳性麻痺には根治治療がないため、主な治療はリハビリテーションとなります。また、保護者に療育を行うことで、子どもが障害と上手に付き合って生活できるようにサポートすることも重要です。認められている症状(筋肉の痙縮やてんかんなど)に応じて、薬物療法が行われる場合もあります。
脳性麻痺の子どもに医療用大麻を処方した医師を調査
①カンナビノイド治療を行った患者を担当したことがある
②その中に0〜18歳の子どもがいた
③その中に脳性麻痺と診断された子どもがいた
④これらの人とカンナビノイド製品の処方について話し合ったが、何らかの理由で処方しなかった経験がある
①〜④の全てに当てはまる人は「経験のある医師」、それ以外の人は「経験の少ない医師」と定義されました。
研究に参加した医師は70名(女性61%、年齢中央値48歳)で、ほとんどが小児科医(64%)。参加者の多く(39%)はスイスを除くヨーロッパ諸国の医師であり、次いでスイス(33%)、北米(26%)、オーストラリア(3%)の医師となっていました。
経験のある医師は47名、経験の少ない医師は23名となっていました。
経験のある医師の約7割が医療用大麻を有効と認識
医療用大麻の適応として最も多かったのはてんかん(69%)であり、次いで痙縮(64%)、疼痛(63%)、行動障害(17%)、睡眠障害(16%)、ジストニア(11%)。
多くの医師(40%)が医療用大麻を併用薬として処方。第2選択薬として処方した医師が最も多くなっていました(23%)。
処方された製品で多かったのは、合成THC製剤である「ドロナビノール」(23%)、CBD:THC=24:11の大麻オイル(16%)でしたが、自己治療として様々なカンナビノイド組成の大麻製品が使用されたことも多くの医師(19%)から報告されました。
医療用大麻の治療効果について、全体では59%の医師が効果的と回答(かなり効果がある:9%、中等度の効果がある:50%)。一方、経験のある医師では69%が効果的であると回答しました(かなり効果がある:9%、中等度の効果がある:60%)。
参加者の41%が医療用大麻の副作用について報告。多かったのはめまい(20%)、眠気(14%)、疲労感(9%)、下痢(9%)、吐き気(7%)、不安(6%)、混乱(6%)など。長期に渡る副作用は報告されませんでした。
なお、医療用大麻の知識について、参加者のほとんど(64%)が個人学習で学んだと回答。学会(24%)や教育(21%)と回答した人は少数となっており、医療用大麻に関する教育の必要性が強調されました。
今回の研究結果について、論文では「全体として、医師たちはカンナビノイドの有効性は中等度であり、長期的な副作用はないと認識していた」と述べられています。
ただし、医療用大麻を処方した医師に限定した調査によるバイアス(偏り)リスク、研究デザインによる限界から、「本研究の結果は慎重に解釈されるべきであり、一般化されるべきではなく、脳性麻痺の小児におけるカンナビノイドの安全性と有効性に関する結論を導き出すために使用されるべきではない」と書かれています。
脳性麻痺に関する医療用大麻やカンナビノイドのエビデンスは、現時点でかなり少数となっています。
カンナビノイドと脳性麻痺に関する最新のシステマティックレビューでも、解析対象に含まれた研究は3件のみ。これによれば、カンナビノイドによる痙縮の緩和、抗炎症作用、抗けいれん作用は脳性麻痺の子どもに有益となる可能性がありますが、まだ研究が不十分であると結論づけられています。
イギリスの研究チームは、既存の治療で効果が不十分な脳性麻痺あるいは外傷性中枢神経損傷の子ども72名を対象とし、THCとCBDを同比率で含有した大麻由来医薬品「サティベックス」を用いた臨床試験(ランダム化比較試験)を実施。しかし、プラセボと比較し、いかなる項目(痛み、痙縮、睡眠の質、健康関連QOL、抑うつなど)でも有意差が認められませんでした。
一方、複合性運動障害を有する子ども25名(このうち、脳性麻痺は19名)を対象としたイスラエルの臨床試験(パイロット試験)では、CBD:THC=20:1あるいはCBD:THC=6:1の大麻オイルの有効性を検証した結果、ジストニアと痙縮の重症度、運動機能、QOL、気分、食欲、便秘(CBD:THC=20:1のみ)、睡眠(CBD:THC=6:1のみ)において改善が認められたことが報告されています。
脳性麻痺を有する子どもの介護者119名を対象としたアメリカの調査では、回答者の16.8%がCBDの使用を支持。CBDは重症度の高い子どもにおいて有意に使用され、痛み、痙縮、感情面において効果的と認識されていました。最も一般的な副作用は疲労と食欲増進でしたが、60%の人では副作用がないと報告されました。
以上のように、脳性麻痺の子どもにおいて医療用大麻及びカンナビノイドが有益となる可能性はありますが、研究数が不十分であり、エビデンスに一貫性がないことから、今後もより多くの研究が必要と言えます。