スイスのベルンとジュネーブ、嗜好大麻試験販売プログラムを実施へ

スイスのベルンとジュネーブ、嗜好大麻試験販売プログラムを実施へ

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スイスでは、2023年1月30日にバーゼルで嗜好用大麻の試験販売プログラムが開始されて以降、チューリッヒローザンヌが年内に同様のプログラムを開始することを発表。そして今回、新たに複数の都市が仲間に加わることが明らかとなりました。

5月10日、スイス連邦公衆衛生局(FOPH)はスイスの首都ベルン市を含むベルン州の嗜好用大麻試験販売プログラム「SCRIPT」を承認。その翌日には、WHO(世界保健機構)など200近くの国際機関が集まる国際都市ジュネーブ市を有するジュネーヴ州のプログラム「Cannabinotheque」が承認されました。

ベルンのプログラム

ベルン大学ルツェルン大学と共同で、嗜好用大麻試験販売のランダム化比較試験「SCRIPT(The Safer Cannabis Research In Pharmacies randomised controlled Trial)」を実施します。同プログラムはベルン州のベルン市、ルツェルン市、ビール市の3ヶ所において、2023年10月から2026年4月にかけて行われる予定です。

プログラムに参加するのは大麻使用経験のある18歳以上の成人1091名で、募集はこれから行われます。このうち半数はプログラム開始直後から指定された販売店で大麻を購入することができ、残りの半数はプログラム開始6ヶ月後から購入が可能となります。

販売される大麻製品は、THC濃度最大20%までの大麻の花、オイル、リキッドなど。これらの製品にはスイス国内で有機栽培された大麻が用いられ、生産工程はスイス連邦公衆衛生局によってチェックされます。

プログラムの目的は、嗜好用大麻の販売を規制することで、健康や社会への影響を調査すること。また、トレーニングを受けた大麻販売店スタッフは、禁煙のカウンセリングやサポートを提供したり大麻使用による害を最小限に抑えるための方法などを伝えたりすることも可能となっています。

プログラムの責任者であるベルン大学のレト・アウアー(Reto Auer)氏は「私たちの研究は、自由市場で大麻を合法化することを目的としていません。大麻の禁止や闇市場によって引き起こされる問題に対処し、可能な害を減らすアプローチを検証し、大麻の需要と供給を厳密にコントロールすることを目的としています。また、この研究は、将来起こりうる嗜好用大麻の合法化に備え、公衆衛生や社会保障を改善するためのデータを提供するものです」

「調剤薬局で販売することで、より良い教育ができ、害を軽減する機会を得ることができます。ユーザーは、自分の持っている大麻に何が入っているのかを知らないことが多いです。違法な市場では、合成カンナビノイド、農薬、キノコなどが含まれた大麻があり、その中には非常に危険なものもあります」

「訓練を受けた医療従事者が大麻を販売することで、早期発見やカウンセリングを行うことができます。SCRIPTの枠組みの中で、参加者の精神医学的影響と精神科サービスの利点を検証する予定です」と述べています。

ジュネーブのプログラム

ジュネーブ大学はジュネーヴ州ヴェルニエ市(ジュネーブ市の西隣)において、嗜好用大麻販売プログラム「La Cannabinothèque」を実施します。

プログラムに参加する18歳以上の成人は、指定された店舗で、1ヶ月につきTHC含有量10gを越えない範囲で嗜好用大麻の購入が可能。参加者は約1,000名とされています。

ベルンと同様、販売される大麻製品には有機栽培された国内産の大麻が用いられます。規制されたプロセスの中で大麻製品を生産することで品質を保証し、販売時にはTHCやCBDの含有量を製品に明記することが求められます。

現時点で店舗の詳細や開始時期は明らかにされていませんが、始めの3年間は嗜好用大麻の試験販売を行いながらデータを収集し、その後1年間かけて最終レポートを提出する予定となっています。

プログラムの主な目的は、規制された嗜好用大麻の販売が薬物使用に関連する健康及び社会におけるリスクをどの程度軽減できるのかを評価すること。また、近隣の自治体に与える影響も評価される予定です。

なお、3月22日に公開された欧州薬物・薬物依存監視センター(EMCDDA)の廃水分析による調査では、スイスのジュネーブがオランダのアムステルダムを抜き、ヨーロッパで大麻の平均消費量が最も多かったことが報告されています(5位チューリッヒ、6位バーゼル)。

ヨーロッパではスイス以外にも、嗜好用大麻の合法化に向け、試験販売を実施しようとしている国があります。

経済大国ドイツは4月、待望となる嗜好用大麻合法化計画を発表。計画は2段階で構成され、第1段階では制限範囲内で大麻の所持・栽培を合法化し、非営利の大麻クラブの運営を開始。第2段階では、嗜好用大麻の試験販売プログラムが実施される予定です。

ヨーロッパで初めて嗜好用大麻の合法化計画を発表したルクセンブルクは、4月末に計画の詳細を発表。ドイツと似たような形で、第1段階では大麻の個人使用、所持、栽培を合法化し、第2段階では嗜好用大麻の試験販売プログラムを実施するとしています。

Newsweed「Berne vendra légalement du cannabis dès cet automne. Genève aussi autorisée」https://www.newsweed.fr/berne-vendra-legalement-cannabis-automne/

Universität Bern「Berner Studie zum regulierten Cannabisverkauf bewilligt」https://www.unibe.ch/aktuell/medien/media_relations/medienmitteilungen/2023/medienmitteilungen_2023/berner_studie_zum_regulierten_cannabisverkauf_bewilligt/index_ger.html

SCRIPT「SCRIPT erhält Bewilligung vom Bundesamt für Gesundheit」https://www.script-studie.ch/script-erhalt-bewilligung-vom-bundesamt-fur-gesundheit/

Federal Office of Public Health「The Safer Cannabis – Research In Pharmacies randomized controlled Trial (SCRIPT)」https://www.bag.admin.ch/bag/en/home/gesund-leben/sucht-und-gesundheit/cannabis/pilotprojekte/bewilligte-pilotversuche/script.html

Le Cannabiste「Légalisation: Une Cannabinothèque va ouvrir a Genève」https://lecannabiste.com/legalisation-une-cannabinotheque-va-ouvrir-a-geneve/

Federal Office of Public Health「La Cannabinothèque : un essai pilote de vente réglementée de cannabis dans le canton de Genève」https://www.bag.admin.ch/bag/fr/home/gesund-leben/sucht-und-gesundheit/cannabis/pilotprojekte/bewilligte-pilotversuche/cannabinotheque-change.html

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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