大麻に含まれる成分CBDの認知度は、日本でも徐々に広まってきており、使用者の多くがメンタルケアのためにCBDを活用していることが明らかとなっています。
CBDは人だけでなく、犬・猫を中心としたペットにおいても使用が広まってきており、不安や痛みの軽減などに活用されています。そしてそれは、馬においても例外ではなくなるかもしれません。
2月7日、CBD使用により馬の行動異常が改善した初めての症例が報告されました。この論文は「Veterinary and Animal Science」に掲載される予定です。
この馬が抱えていた行動異常は「さく癖(グイッポ)」というもの。さく癖とは、柵など固定された物体を前歯でくわえ、それを支点にして首を曲げ、空気を飲み込む動作のことを指します。
さく癖はより詳細に、クリブバイティング(Crib-biting)とウインドサッキング(wind-sucking)に分けられます。クリブバイティングは物体を咥え空気を飲み込む動作であるのに対し、ウインドサッキングは物体を咥えずに空気を飲み込む動作です。
さく癖は飼育環境によるストレスとの関連が指摘されており、実際に飼育環境にある馬のうち4〜6%でさく癖を認めますが、野生馬ではほとんどみられません。
さく癖は馬の悪癖として知られており、前歯の異常な摩耗をもたらすだけでなく、疝痛(腹痛)、胃潰瘍などの発症リスクや体重減少とも関連しています。
今回報告された22歳の高齢馬では、クリブバイティングとウインドサッキングの両方のさく癖が認められていました。元々競走馬で、10歳で引退していましたが、さく癖がみられるようになったのは7歳から。これまで、頚椎カラー、食事内容の変更、環境調整、薬物療法など様々なケアが施されましたが、どれも改善には至っていませんでした。
CBDによる治療前、馬の筋力は著しく低下した状態であり、毛並みも悪く、うつむきがちで活気がみられませんでした。厩舎(馬小屋)・パドックの両方においてさく癖が観察され、前歯はひどく摩耗していました。
CBDの投与はオイルにて、12時間おきに0.5mg/kgの用量で経口的に行われました。
CBD投与から1時間後、エサを探す行動が増加し、食欲が増進した様子が観察されました。1〜2週目には、さく癖を認める時間が有意に減少し、食欲も着実に増加しました。
30日後には、BCS(ボディコンディションスコア:馬の体格を評価するスケール)は5段階中2(やや痩せ)だったものが、4(ふくよか)にまで改善。体重は52kg増加し(400kg→452kg)、毛質にも改善が認められました。うつむきがちだった姿勢も、明るさや警戒心を示す活気ある姿勢へと変化しました。
さく癖は、治療開始前には1日に15時間みられていましたが、CBD使用後、その時間は1時間以下にまで減少し、ほとんどみられなくなりました。
30日間に渡る治療の中で、疝痛、無気力、食欲不振、高体温、下痢、唾液分泌過多、心臓や肺の障害、運動失調といった有害現象は観察されませんでした。
30日以降もCBDによる治療は継続され、経過は良好だったとのこと。しかしその後、外傷により指の関節を骨折したため、安楽死させたそうです。
CBDはエンドカンナビノイドシステム(ECS)に作用し、間接的あるいは直接的にセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の放出を調節すると言われています。また、ECSはストレス反応と密接な関係にあり、これらのことから、CBDは不安障害などストレス性疾患の治療手段として期待が寄せられています。
ECSは哺乳類を始め、全ての脊椎動物に存在すると考えられています。当然、馬も例外ではなく、大腸、関節滑膜、神経節などにおいて、カンナビノイド受容体の存在が確認されています。
これらを考慮すると、ストレスと関連するさく癖が改善したという今回の報告は、不思議なことではないと考えられます。
2022年7月に公開された研究では、健康な馬がCBD150mgを含んだサプリメントを56日間経口摂取しても、健康状態に影響はみられず、安全であったことが報告されています。
コロラド州大学の研究者らは2019年、アロディニア(異痛症)を患い、他の治療で改善がみられなかった4歳の馬に対し、CBD250mgを1日2回投与したところ、2日後に症状の改善が認められたことを報告しています。
2023年始めには、CBD2mg/kgを90日間経口摂取し続けた馬は、そうではない馬と比べ、インフルエンザワクチン接種後においてIFN-γやIL-6といった炎症性サイトカインが有意に減少していたことが報告されています。
また、米国獣医師会(AVMA)の記事では、大麻草そのものの使用により、著しい状態改善を認めた馬の話が取り上げられています。
フェニックスと名付けられた20歳の馬は、靭帯の変性による障害を患っていました。様々な治療を施しても改善がみられず、次第に横たわって過ごし、食べることも飲むこともできない状態となっていきました。
飼い主であったベッキー・フラワーズ氏は、変形性脊椎症、関節炎、手首の手術に伴う痛みに対し大麻を使用した経験があり、処方薬よりも高い鎮痛効果を実感していました。その経験からフラワーズ氏は、フェニックスを安楽死させる前に、最後の手段として少量の大麻を食べさせてみることにしました。
フラワーズ氏によれば、すぐにフェニックスの状態は見違えるほど改善したといいます。大麻を食べてから1時間以内に、フェニックスは歩き、食事をし、水分を取れるようになったそうです。
それ以降フラワーズ氏は、大麻を茹で、そこから抽出したものでバターを作り、1日に1回フェニックスに与え続けたそうです。