多発性硬化症患者、大麻医薬品の使用で痙縮や関連症状を改善

多発性硬化症患者、大麻医薬品の使用で痙縮や関連症状を改善

- ドイツのケースシリーズ

多発性硬化症患者が大麻由来医薬品「サティベックス」の服用により痙縮だけに留まらず、痛み、歩行、睡眠障害、排尿障害を改善させていたことがドイツの研究チームにより報告されました。論文は「Drugs in Context」に掲載されています。

多発性硬化症は中枢神経に炎症を起こす自己免疫疾患で、日本では指定難病とされています。痙縮、運動障害、視力障害、感覚障害、排尿障害などの多様な症状がみられ、症状の増悪と寛解を繰り返しながら、全体的に病状が徐々に悪化していく病気です。

サティベックスは、大麻成分THCCBDをほぼ同比率で含有した口腔粘膜スプレーです。サティベックスはドイツにおいて、既存の治療で有効性が認められない多発性硬化症の痙縮に対し、標準治療薬と併用する形で処方されています。

これまでの研究により、サティベックスは多発性硬化症の痙縮だけでなく、痛み、睡眠障害、歩行障害、排尿障害においても有効性が示されています

サティベックスの多様な効果を評価

ドイツの研究チームは、サティベックスが痙縮とそれに関連した諸症状にもたらす有益性を検証するために、サティベックスの処方を受けた多発性硬化症患者12名の臨床経過を評価。

参加者は中〜重度の痙縮を有している18歳以上の成人(女性9名、26〜75歳、痙縮の病歴:3〜32年)で、筋弛緩薬(バクロフェン、チザニジン、トルペリゾン、ダントロレン)、ステロイド(トリアムシノロンアセトニド)の髄腔内投与、ボツリヌス療法といった治療を受けていました。

具体的に評価された項目は多発性硬化症の全体的な病状(EDSS)、筋けいれん、痛み、排尿障害、歩行、睡眠障害など。

全体的な病状と歩行を除き(臨床医が評価)、参加者はそれぞれの重症度について「軽度・中等度・重度」のいずれかで評価し、さらに0〜10点(スコアが高いほど重症度が高い)でスコアをつけるよう求められました(※全体的な病状は0.5点ずつで評価、筋けいれんは点数による評価はなし)。

他にも、サティベックスの副作用や他の治療薬の服用状況、主観的なQOLの変化などについて評価が行われました。

痙縮だけでなく関連症状も改善

治療開始前における参加者の病状は、以下の通り。

痙縮:軽度1名、中等度2名、重度9名(計12名)

筋けいれん:中等度3名、重度4名(計7名)

痛み:中等度3名、中〜重度5名、重度4名(計12名)

排尿障害:中等度3名、中〜重度2名、重度2名(計7名)

歩行障害:軽度1名、中等度1名、重度10名(計12名)

睡眠障害:中等度4名、重度7名(計11名)

全体的な病状:4.0〜8.0点(中〜重度)

サティベックスの治療期間は2ヵ月〜9年。投与量の平均は7回/日(2〜12回/日の範囲)でした。

サティベックスの投与により、多発性硬化症の全体的な病状(EDSS)は7名で改善(0.5〜1.5点)。痙縮は11名において改善が認められ、8名で30%以上の改善が報告されました。

また、筋けいれん、痛み、排尿障害、歩行障害、睡眠障害といった諸症状においても、それぞれスコアや重症度の改善が報告されました。

筋けいれん:7名全員でスコアが改善

痛み:12名中11名でスコアが改善

排尿障害:7名中6名でスコアが改善

歩行障害:12名中8名で歩行距離が増加

睡眠障害:11名中8名でスコアが改善(3名が症状消失)

これらの改善に伴い、9名が筋弛緩薬を減薬(チザニジン5名、バクロフェン4名)、9名が1種類以上の筋弛緩薬の服用を中止しました(バクロフェン3名、チザニジン3名、トルペリゾン3名)。

主観的なQOLは8名で改善し、1名が「良好」と報告。一方、1名はめまい、悪夢、無気力といった持続的な副作用により、QOLの悪化を報告しました。

以上の結果から、研究者らは「8名の患者において痙縮の重症度が臨床的に重要な改善を示したことに加え、ナビキシモルス(サティベックス)の追加投与はほとんどの患者において筋けいれんの頻度と重症度、疼痛、睡眠障害、膀胱機能、歩行距離の改善と関連していた」

「NRS(0〜10点での評価)による痙縮の重症度の改善率が20%以上であるか30%以上であるかに関わらず、(関連した)症状の有意な改善が認められた」「特筆すべきは、全ての患者(ナビキシモルス非反応例を除く)において疼痛の重症度が軽減したことであり、これは多発性硬化症関連疼痛におけるナビキシモルスの他の報告でも支持されている」と述べています。

ただし、この研究には治療の比較対象が存在しないこと、サンプルサイズが小さいこと、プラセボ効果の可能性、評価者のバイアスリスクなどの限界があります。

とはいえ、少なくとも個人レベルにおいて、サティベックスが痙縮だけでなく関連した症状にも有益性を示したことから、研究者らは「ナビキシモルスは多発性硬化症及び痙縮関連症状を有する患者において、痙縮に限らず幅広い用途に使用できる可能性がある」と結論づけています。

個々の症例

以下、研究参加者12名の各症例をより具体的に紹介。

各症例の最後には、サティベックスにより変化した項目を記載しています。

症例1(75歳女性)

多発性硬化症の診断:39年前
痙縮の有病歴:22年
サティベックス使用歴:6年
サティベックスの使用頻度:10回/日

高悪性の痙性対麻痺(両足の筋肉がつっぱって動かせない状態)に苦しみ、歩行状態は徐々に悪化。痙縮と関連症状、特に痛みを伴う夜間の筋けいれんは、睡眠とQOLに重大な障害をもたらした。

バクロフェン(最大50mg)の内服では十分な効果が得られず、低用量で治療を継続したものの、強い疲労感がもたらされた。痙縮に関しては、トリアムシノロンアセトニドの髄腔内投与を繰り返すことで中等度にまで改善した。

2016年にサティベックスによる治療を開始。筋けいれんの重症度が低下し、痛みと睡眠障害が劇的に改善。これに伴い、主観的なQOLも著しく改善した。

痙縮:8→7点
筋けいれん:重度→軽度
痛み:8→2点、重度→軽度
排尿障害:5→3点
睡眠障害:8→2点、重度→軽度
治療薬:バクロフェン減薬/トリアムシノロンアセトニド中止
主観的QOL:著しく改善

症例2(57歳女性)

多発性硬化症の診断:13年前
痙縮の有病歴:7年
サティベックス使用歴:10ヶ月
サティベックスの使用頻度:4回/日

複数回の再発により、手足の神経障害性疼痛と歩行障害を患った。ナタリズマブ(多発性硬化症治療薬)の投与後に再燃はみられなくなったが、頸部脊柱管狭窄症を合併。バクロフェンとチザニジンも服用したが、めまいや疲労といった副作用のため、治療に耐えることができなかった。

サティベックスの服用により痛みが改善したため、トラマドール(弱オピオイド)の服用量を半減。歩行距離は500mから1kmへと徐々に延長した。全体的な病状と睡眠障害もやや改善し、QOLは「良好」と評価された。

全体的な病状:4.0→3.0点
痙縮:4→2点、中等度→軽度
痛み:5→3点、中等度→軽度
歩行:〜500m→〜1km、中等度→軽度
睡眠障害:4→3点、中等度→軽度
治療薬:トラマドール減薬
主観的QOL:良好

症例3(48歳男性)

多発性硬化症の診断:17年前
痙縮の有病歴:12年
サティベックス使用歴:4年
サティベックスの使用頻度:4回/日

2005年に診断された後、歩行障害を伴う再発を何度も経験。筋緊張と痛みを伴う夜間の下肢けいれん、夜間尿失禁、尿意切迫感にも悩まされていた。

過去にセルフメディケーションで大麻を喫煙したところ、症状の改善を実感。サティベックスによる治療を開始したことで、夜間の筋けいれんは消失。痙縮、疼痛、排尿障害、睡眠障害も改善したことで、全体的な病状と主観的なQOLの改善も報告された。

全体的な病状:5.0→4.0点
痙縮:3→1点
筋けいれん:中等度→消失
痛み:4→1点、中等度→軽度
排尿障害:4→1点、中等度→軽度
歩行:〜500m→501m以上
睡眠障害:4→1点、中等度→軽度
治療薬:バクロフェン中止
主観的QOL:改善

症例4(52歳女性)

多発性硬化症の診断:6年前
痙縮の有病歴:3年
サティベックス使用歴:6ヶ月
サティベックスの使用頻度:5回/日

2004年に複視(1つの物が2つに見えること)が出現した後、2016年に対麻痺と不安定な歩行の再発を経験した。2018年、増悪する対麻痺と歩行能力の低下を伴う二次進行型の多発性硬化症(再発を繰り返した後、持続的に障害が進行する型)と診断。膝の損傷による膝関節の疼痛慢性腰痛も併発していた。

痙縮に対してはバクロフェン15mg/日を内服。鎮痛薬に関しては慢性的な服用による副作用が懸念されたため、不適切と考えられた。

サティベックスは特に膝と腰の痛みを軽減し、痙縮や睡眠障害も改善。歩行器使用にて歩行していたが、サティベックスの服用により歩行距離は200mから500mにまで延長した。

全体的な病状:6.5→6.0点
痙縮:7→4点
痛み:5→3点、中等度→軽度
歩行:(歩行器使用で)〜200m→〜500m、重度→中等度
睡眠障害:5→3点(中等度→軽度)

症例5(59歳女性)

多発性硬化症の診断:38年前
痙縮の有病歴:32年
サティベックス使用歴:4年
サティベックスの使用頻度:4〜7回/日

チザニジンとバクロフェンを併用し、年に数回トリアムシノロンアセトニドの髄腔内投与を行っていたが、痙縮と関連症状の重症度は中〜重度で経過していた。

サティベックス開始時にめまいと疲労感を経験したものの、筋けいれんの頻度(100回以上/日→10回未満/日)と重症度、疼痛、痙縮、睡眠障害(日中の眠気)が改善したため、そのまま服用を継続した。

サティベックスの副作用は6週間後に最小となり、23週間後に消失。排尿障害と主観的なQOLも大幅に改善し、歩行距離もやや延長した。

全体的な病状:6.0→5.0〜5.5点
痙縮:8〜10点→4〜6点、重度→軽〜中等度
筋けいれん:中等度→軽度
痛み:5〜8点→2〜4点、中〜重度→軽度
排尿障害:5〜8点→2〜3点、中〜重度→軽度
歩行:2〜8m→10〜25m、重度→中等度
睡眠障害:8〜10点→0点、重度→消失
治療薬:トリアムシノロンアセトニド、チザニジン減薬/バクロフェン中止
主観的QOL:著しく改善

症例6(48歳女性)

多発性硬化症の診断:35年前
痙縮の有病歴:21年
サティベックス使用歴:9年
サティベックスの使用頻度:2〜7回/日

バクロフェン、トルペリゾン、チザニジンを併用して服用していたが、下肢の痙縮とそれに関連した痛みが続いていた。

サティベックスによる治療で手足の痙縮は軽減し、トルペリゾンの服用を中止。他にも、全体的な病状、痛み、歩行、睡眠障害が改善したことで、主観的なQOLも著しく改善した。

全体的な病状:7.0→5.5点
痙縮:8〜10点(足)2〜4点(手)→2〜5点、重度→軽度
痛み:7〜10点→2〜3点、中〜重度→軽度
歩行:2〜5m→15〜35m、重度→中等度
睡眠障害:5〜6点→0点、中等度→消失
治療薬:バクロフェン、チザニジン減薬/トルペリゾン中止
主観的QOL:著しく改善

症例7(40歳女性)

多発性硬化症の診断:13年前
痙縮の有病歴:10〜11年
サティベックス使用歴:3年
サティベックスの使用頻度:4〜8回/日

2017年からバクロフェンとチザニジンを併用。さらに、年に数回トリアムシノロンアセトニドの髄腔内投与を受けていた。痙縮とそれに関連した睡眠障害の重症度はともに重度であった。

サティベックスの使用により、8週間で足の痙縮が顕著に改善した。3年間の治療を通して、1日に100回みられていた筋けいれんと睡眠障害は消失。疼痛と排尿障害も改善し、歩行距離は増加した。

バクロフェンとトリアムシノロンアセトニドによる治療も中止し、主観的QOLも改善した。

全体的な病状:6.5〜7.0点→6.5点
痙縮:8〜10点→4〜6点、重度→軽〜中等度
筋けいれん:中等度→消失
痛み:5〜8点→0〜2点、中〜重度→軽度
排尿障害:5〜8点→2〜3点、中〜重度→軽度
歩行:(歩行器使用で)5〜25m→25m以上、重度→中等度
睡眠障害:8〜10点→0点、重度→消失
治療薬:チザニジン減薬/バクロフェン、トリアムシノロンアセトニド、ガバペンチン、トリミプラミン(抗うつ薬)中止
主観的QOL:著しく改善

症例8(60歳男性)

多発性硬化症の診断:17年前
痙縮の有病歴:15年
サティベックス使用歴:8ヶ月
サティベックスの使用頻度:8〜12回/日

バクロフェン、トルペリゾン、チザニジンを併用し、トリアムシノロンアセトニドの髄腔内投与も受けていたが、痙縮とそれに関連した症状は重度であった。

サティベックスによる治療を開始したが、効果は限定的。痙縮、痛み、睡眠障害はわずかに改善したが、それ以外は変化がなかった。投与時間や投与量を変更してもあまり効果がなかったが、患者の希望により治療を継続した。

しかし、サティベックスの服用によりめまい、無気力、悪夢を経験。病状の改善もあまり認められなかったため、6ヶ月後に服用を自己中断した。

サティベックスによる副作用は、治療中止から約2ヵ月後に消失した。

痙縮:9〜10点→7〜8点、重度→中等度
痛み:5〜10点→4〜7点、中〜重度→軽〜中等度
排尿障害:重度→軽度
睡眠障害:8〜10点→7〜9点、重度→中〜重度
主観的QOL:副作用により悪化

症例9(32歳女性)

多発性硬化症の診断:5年前
痙縮の有病歴:3年
サティベックス使用歴:10ヶ月
サティベックスの使用頻度:7回/日

バクロフェンとチザニジンを服用していたが、痙縮とそれに伴う疼痛、運動障害、睡眠障害は重度であった。

サティベックスの服用から10ヵ月後、痙縮、筋けいれん、疼痛、排尿障害、歩行距離、睡眠障害が大幅に改善。

チザニジンの服用も中止し、主観的な全身状態の改善も報告された。

痙縮:9→4点、重度→軽度
筋けいれん:重度→軽度
痛み:8→3〜4点、重度→軽度
排尿障害:5→3点、中等度→軽度
歩行:〜500m→801m以上、重度→中等度
睡眠障害:8→2点、重度→軽度
治療薬:バクロフェン減薬/チザニジン中止
主観的QOL:改善

症例10(63歳男性)

多発性硬化症の診断:36年前
痙縮の有病歴:28年
サティベックス使用歴:5年
サティベックスの使用頻度:11回/日

バクロフェン、トルペリゾン、チザニジンを併用し、トリアムシノロンアセトニドの髄腔内投与も受けていた。排尿障害はなかったものの、それ以外の症状は全て重度であった。

サティベックスの服用により、痙縮、疼痛、睡眠障害が大きく改善。これに伴い、トルペリゾンとチザニジンの服用も中止した。

立ち上がりの能力も改善し、歩行器での歩行や車椅子への移乗能力も向上した。

全体的な病状:7.0〜8.0点→6.0〜7.0点
痙縮:8〜10点→5〜7点、重度→中等度
筋けいれん:重度→軽〜中等度
痛み:8〜10点→3〜5点、中等度→軽度
歩行:数歩→歩行器使用で10〜25m、重度→中〜重度
睡眠障害:8→2点、重度→軽度
治療薬:バクロフェン減薬/トルペリゾン、チザニジン中止
主観的QOL:改善

症例11(26歳女性)

多発性硬化症の診断:5年前
痙縮の有病歴:3年
サティベックス使用歴:2ヶ月
サティベックスの使用頻度:12回/日

バクロフェンとチザニジンを服用していたが、重度な痙縮と著しい運動障害に苦しみ、歩行距離も介助つきで5〜10m程度であった。

サティベックスによる治療も開始されたが、最大用量である12回/日を2ヶ月間投与しても効果がなかった。

その後、患者は転倒したが、サティベックスの副作用によるものと考えられたため、服用は中止された。

症例12(48歳女性)

多発性硬化症の診断:10年前
痙縮の有病歴:6年
サティベックス使用歴:1年8ヶ月
サティベックスの使用頻度:7回/日

バクロフェンとチザニジンの服用、トリアムシノロンアセトニドの髄腔内投与に加え、ガバペンチン(神経障害性疼痛治療薬)も内服していた。症状は全て重度であり、歩行距離も数歩程度であった。

サティベックスを20ヶ月間服用したところ、痙縮はほとんど改善しなかったものの、疼痛、排尿障害、睡眠障害は大幅に改善した。

筋けいれん:重度→中等度
痛み:8〜10点→2点、重度→軽度
排尿障害:8→0点、重度→消失
睡眠障害:8〜10点→1点、重度→軽度
治療薬:ガバペンチン減薬/メタミゾール(解熱鎮痛薬)、トラマドール、チザニジン中止

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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