米運送業者の7割以上が大麻に関する規則の緩和を求めている

米運送業者の7割以上が大麻に関する規則の緩和を求めている

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6月5日、米国運送研究所(ATRI)は大麻の合法化がトラック運送業界に与える影響を評価した報告書を発表。これによれば、トラックドライバー(以下、ドライバー)の7割以上が大麻に関する規則の緩和を求め、6割以上が全米での大麻合法化を望んでいます。

アメリカでは州レベルで大麻の合法化が進んでいますが、連邦法は現在、ドライバーに対して大麻の禁止を義務付けています。そのため、ドライバーは入社前だけでなく、入社以降も抜き打ちで薬物検査を受けなければなりません。大麻の陽性反応が認められた場合、ドライバーは運転を禁じられ、復職するためのプロセスを経て、再度薬物検査を受ける必要があります。

アメリカ国内では現在約6万5,000人のドライバーが不足していると推定されています。このような中、連邦自動車運輸安全局(FMCSA)は今年始め、薬物検査により昨年だけで約4万1,000人のドライバーから大麻の陽性反応が認められ、そのほとんどが復職プロセスに参加していなかったことを明らかにしています

大麻使用のスクリーニングは、主に尿中のTHC代謝産物(THC_COOH)の有無により判断されていますが、この不活性の代謝産物は数週間から数ヶ月検出されます。つまり、数日間大麻を使用しておらず運転に全く支障が出ていなかったとしても、1ヶ月前に大麻を使用していたために、陽性反応が検出される可能性があるということです。そのため、大麻合法州に住むドライバーは、休日であっても大麻を使用できない状況となっています。

このような背景の中、米国運送研究所はドライバーの大麻検査に関する規則について分析を行うため、ドライバーを対象とした調査を実施。このレポートの中では、連邦政府による大麻の禁止が「ドライバーが業界に留まるための潜在的な阻害要因として注目されており、大麻の使用制限を緩めることで、業界がより魅力的になり、潜在的な労働力を広げることができると主張されている」と述べられています。

実際に調査を行った結果、ドライバーの72.4%が大麻に関する規則や検査方針を緩めることを支持。さらに、66.5%が「大麻は連邦政府によって合法化されるべき」と考えていることが明らかとなりました。

また、65.4%が現在の大麻検査を変更し、運転の障害を測定する方法に置き換えるべきだと回答。

これに対し、米国運送研究所は「現在の(尿検査による)大麻検査は、障害を持ちながら運転する可能性のあるドライバーを排除する効果があると思われるが、以前に薬物を使用したものの、障害を持ちながらトラックを運転しないドライバーまで排除してしまう可能性がある」と述べています。

一方、回答者の50.2%が大麻関連の規則違反を理由に業界を去るのは一般的と考えていました。

運送業界における薬物検査の主な目的は「高速道路の安全性」にあります。レポートによれば、現在の薬物検査は安全への取り組みをサポートしているものの、一方で安全上問題がないドライバーも業界から排除してしまう可能性があるとしています。

これに関連して、豊富な経験を持つドライバーの55.4%が、嗜好用大麻の合法化により高速道路の安全性にマイナスな影響が生じているとは思わないと回答しています。

報告書では、今後の連邦政府の大麻政策に伴い、運送業界には2つの道があると述べられています。1つは大麻が連邦法で違法のまま維持されることで、ドライバーが大麻検査のない職業に奪われ続ける道。もう1つは、連邦政府が大麻を規制物質法のスケジュールⅠ(乱用の危険があり、医療的価値が低い物質)から除外することで、ドライバー不足を解消するための様々な課題に対応していく必要性が生じる道です。

米国運送研究所は、大麻の使用が運転や高速道路の安全に与える影響に関する研究は数多くあるものの、結果に一貫性がないため、新たな大麻検査規則を作るには複雑な状況になっていると指摘しています。

いずれにせよ、州レベルで大麻の合法化が進むアメリカにおいて、大麻をめぐる法律が運送業界の人手不足に大きな影響を及ぼしていることは明らかと言えるでしょう。

このような状況に対し、米国運輸省(DOT)は最近、尿検査の代替となる選択肢として、唾液による大麻検査を可能にする方針を決定し、6月1日より発効しています。大麻の使用頻度により異なる場合もありますが、唾液におけるTHC陽性反応は、一般的に大麻使用後1時間から24時間後に検出されると米国運輸省は説明しています。

なお、米国立標準技術研究所(NIST)とコロラド大学ボルダー校の研究チームは、呼気からTHCを検出する機器の実用性を評価する研究を行いましたが、検出されたTHC濃度に一貫性がなく、血液検査よりも信憑性が欠ける結果となりました。

個人差はあるものの、大麻は一時的に運動や判断能力の低下をもたらすリスクがあるため、大麻の影響下で運転することは一般的に許容されるべきではありません。しかし、現行の大麻検査では大麻の影響下にない状態でも運転に支障があると判断されてしまうため、このことは特に医療用大麻患者にとって大きな懸念事項となっています。

これに関連して6月8日、イギリスの大麻産業協議会(CIC)は新たなレポートを発表。レポートの中でCICは、2018年に医療用大麻が合法化されたイギリスにおいて、現行の運転規則は適合しておらず、医療用大麻患者に対し差別的なものとなっている可能性があると指摘しています。

イギリスでは、ベンゾジアゼピンやオピオイドなどの処方薬において、医療従事者の助言に従って服用し、運転に支障がみられていない限りは、これらの薬物の血中濃度が高かったとしても違法とはならないとされています。一方、大麻に関しては、医療用大麻が合法になった現在でも、ゼロトレランス・ポリシーが継続されています。

CICは、血液、尿、唾液による大麻検査において、これらの陽性反応は運転者の障害を示す一貫性のある証拠とはならないと指摘。CICはこれらの代替として、運転の障害に焦点を当てた既存の「フィールド減損テスト(Field Impairment Test)」の継続を求めています。フィールド減損テストとは、トレーニングを受けた警察官が薬物やアルコールなどの影響が疑われる運転手に対し、運動、認知能力、視覚などをテストすることで、運転能力の障害の有無を評価するものです。

今年2月にシドニー大学の研究者らによって公開されたシステマティックレビューでは、大麻使用が翌日のパフォーマンスに悪影響を与えるとするエビデンスは非常に限られており、アルコールと比べてもその可能性は低いと報告されています。

研究者らは「今回のシステマティックレビューでは、大麻の使用が翌日のパフォーマンスを低下させるという主張を裏付ける質の高いエビデンスは、ほとんど見出だせなかった」「ドライバーや安全が重視される職に就く人々の間でも、一般的にアルコールの二日酔いは許容されているが、THCの”二日酔い”はアルコールのそれよりも障害となる可能性が低いことを示している」と述べています。

American Transportation Research Institute「ATRI Releases New Research that Evaluates the Impacts of Marijuana Legalization on the Trucking Industry and its Workforce」https://truckingresearch.org/2023/06/atri-releases-new-research-that-evaluates-the-impacts-of-marijuana-legalization-on-the-trucking-industry-and-its-workforce/

Marijuana Moment「Majority Of Truckers Support Marijuana Legalization And Testing Reform Amid Labor Shortage, Industry Report Finds」https://www.marijuanamoment.net/majority-of-truckers-support-marijuana-legalization-and-testing-reform-amid-labor-shortage-industry-report-finds/

Marijuana Moment「Federal Transportation Agency Finalizes New Marijuana Testing Policies To Reduce False Positives」https://www.marijuanamoment.net/federal-transportation-agency-finalizes-new-marijuana-testing-policies-to-reduce-false-positives/

Federal Register「Procedures for Transportation Workplace Drug and Alcohol Testing Programs: Addition of Oral Fluid Specimen Testing for Drugs」https://www.federalregister.gov/documents/2023/05/02/2023-08041/procedures-for-transportation-workplace-drug-and-alcohol-testing-programs-addition-of-oral-fluid

Cannabis Industry Council「CIC calls for overhaul of ‘discriminatory’ cannabis driving laws」https://www.cicouncil.org.uk/cic-calls-for-overhaul-of-discriminatory-cannabis-driving-laws/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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