嗜好用大麻の合法化は、他薬物使用に移行せず ゲートウェイドラッグには繋がらない研究結果

嗜好用大麻の合法化は他の薬物使用に移行せず ゲートウェイドラッグには繋がらない研究結果

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1月5日、嗜好用大麻の合法化が他の薬物の使用に影響を与えていなかったことなどを報告した論文が、Psychological Medicineに掲載されました

大麻合法化に反対する人々がその理由の1つとしてよく挙げるのが、「大麻=ゲートウェイドラッグ」という仮説。この仮説は、大麻自体は依存性の低い「ソフトドラッグ」でも、その使用は他の依存性の高い「ハードドラッグ」使用のきっかけ(Gateway:入り口)になるというものです。

今回の研究は、米ミネソタ大学とコロラド大学の研究者らによって行われたもの。数年間に渡るデータを分析することで、嗜好用大麻の合法化が、他の物質使用や物質使用障害、心理社会的機能に及ぼす影響について調べられました(縦断的研究)。

特に今回の研究が特徴的なのは、「双子研究」という点。双子間で比較し検証を行うというものですが、これにより遺伝的な要因をあまり考えず、環境的要因(嗜好用大麻の合法化)に的を絞って因果関係を評価することが可能となります。

大麻使用により先天的に統合失調症を発症しやすい人がいるといった報告があるように、遺伝的に大麻に影響を受けやすい人がいることを考慮に入れると、この手法は有効であると言えます。

今回研究の対象となったのは、Corolado Center for Antisocial Drug DependenceMinnesota Center for Twin Family Researchが管理するデータの中から選ばれた、4,043名の双子(24〜49歳、女性57.5%、一卵性双生児53%)。

評価は2018〜2021年の間で実施。なお、この集団は、2009〜2013年の間においてもアルコール、たばこ、大麻の使用頻度に関する調査を受けており、これらのデータは今回の研究にも活用されています。

研究対象者のうち40%が、嗜好用大麻が合法である州に居住。嗜好用大麻が合法でない州の居住者のうち、80%が医療用大麻が合法である州に住んでいました。ほとんどの双子は共に同じ地域に住んでいましたが、一部(240組)はそれぞれ嗜好用大麻が合法である州と合法でない州に分かれて住んでいました。

嗜好用大麻の合法化による影響が調べられた具体的項目は、大麻・たばこ・アルコールの使用頻度、他の違法薬物の使用、物質使用障害の症状、精神病など心理面への影響、収入や雇用など社会面への影響など。

まず、個人レベルで分析を実施した結果、嗜好用大麻の合法化は大麻とたばこの使用頻度の増加や経済的苦痛と関連する一方、アルコール使用障害の症状の減少と関連していました。

双子間における分析では、嗜好用大麻の合法化は、大麻の使用頻度の増加とアルコール使用障害の症状の減少に関連。

続いて、アルコールに焦点を当てて分析を実施。個人レベルでは、嗜好用大麻の合法化は全体的な平均飲酒量に影響を与えていなかったものの、24時間以内における最大飲酒量の減少とは有意に関連。ですが、この相関関係は双子間では弱くなっていました。

また、嗜好用大麻が非合法な州よりも合法な州のほうが、個人間でも双子間でも「身体的に危険な飲酒」を認めた割合が少なかったことも明らかとなりました。

これらのことは、嗜好用大麻の合法化により平均の飲酒量は変わらなかったものの、危険なお酒の飲み方をする人の割合が減ったことを示しています。

嗜好用大麻の合法化により認められた有意な影響は、これで全てとなります。つまり、それ以外に有意な影響は認められておらず、そのことがエビデンスとなっています。

まず1つ目の大きな事実は、嗜好用大麻の合法化により大麻の使用が増えていたにも関わらず、他の違法薬物の使用状況には変化が認められていなかったということ。このことは、大麻がゲートウェイドラッグになるという仮説を否定するものになります。

他にも、嗜好用大麻の合法化は、大麻使用障害や精神病の有病率にも有意な影響を与えていませんでした。つまり、大麻を合法化したからといって、大麻に依存する人や、いわゆる「大麻精神病」の人が増えるというような事実も認められていなかったことになります。

研究者らは、論文の結論部分で「嗜好用大麻の合法化により、大麻の平均使用頻度が増加し、合法州においてアルコール使用障害の症状が少なくなっていた。大まかに言えば、これらのこと以外、嗜好用大麻の合法化が精神医学的・心理社会的側面に与える影響は最小であることを示している。我々は他の物質使用、物質依存、人格の乱れ、社交性、法的問題、合意の関係性、職場行動、市民活動、認知機能など、幅広いアウトカムを評価したが、これらのほとんどの領域において、有害性も保護効果も見出だせなかった」と述べています。

ただし、これらの結果は「大麻の使用そのものにリスクがないということを意味するものではない」とも述べられており、今後の研究では、摂取方法や摂取パターン、THC濃度などによっても評価することが望ましいとしています。

2022年4月に公開された論文では、2016年に嗜好用大麻を合法化したカリフォルニア州において、その後アルコールや大麻以外の薬物の使用率に有意な変化が認めらなかったことが報告されています

2022年末にカナダのブロック大学で公開された論文では、医療用大麻の合法化後にアルコールの年間売上高が1.8%減少していたことが明らかとなり、医療用大麻が1ドル分売れるごとに、アルコールの売上が推定0.74〜0.84ドル減少していたことが報告されています

サンディエゴ州立大学とベントレー大学の研究者らは2022年末、嗜好用大麻の合法化が雇用や収入に悪影響を及ぼしていなかったことを報告しています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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