ゲノム編集ヘンプの安全性を米農務省が確認

ゲノム編集ヘンプの安全性を米農務省が確認

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米国農務省(USDA)の動植物検疫局(APHIS)は、THCCBCを極めて低濃度に維持するよう改良されたヘンプ(産業用大麻)について、米国内で安全に栽培・育成できる可能性があると発表しました

アメリカは2018年の農業法でヘンプを合法化。同法において、ヘンプは「THC0.3%以下の大麻」と定義されました。

しかし、ヘンプに含まれるカンナビノイドは熱によって影響を受けやすい特徴があるため、この制限値を遵守することは容易ではありません。アメリカでは2018〜2020年の間、栽培されたヘンプの10%近くが「THCの上限超え」を理由に破棄されたと推定されています。当然ながら、ヘンプ農家はこの分損害を被ることになっています。

このような中、アメリカのバイオテクノロジー企業「Growing Together Research(GTR)社」は今年始め、大麻のTHC発現をコードする遺伝子(デルタ9ダイヤル)を操作することに成功。これにより、安定的にTHCとCBCをなくし(あるいはほぼ含めず)、CBDの発現を高めるゲノム編集を可能にしました。

米国農務省の動植物検疫局は今回、THCとCBCを含まず、さらに除草剤「ビアラホス」に対する抵抗性を高めたGTR社の”遺伝子編集ヘンプ”の安全性を審査。通常のヘンプと比べ、この遺伝子編集ヘンプが害虫の被害に合うリスクを増大させるかを評価しました(病害虫リスク分析)。

この結果について、動植物検疫局は「この改良ヘンプは他の栽培されたヘンプと比較して、病害虫リスクを増大させる可能性が低いことを発見しました。そのため、これは7 CFR part 340(バイオテクノロジー規制の1つ)による規制の対象とはなりません。病害虫リスクの観点からは、このヘンプは米国内で安全に栽培・育成される可能性があります」と述べました。

GTR社によれば、改良ヘンプの遺伝子は植物、細菌、ウイルス、そして少なくとも1つ以上の人工配列を含む、複数のドナーに由来しています。また、農薬に対する耐性は大麻の代謝、生理、発育に重大な変化をもたらさないと説明しています。

なお、GTR社は今年6月より、THC濃度を高める品種改良にも着手しています

日本では今月20日に召集される臨時国会で、大麻取締法の改正法案が提出される見込みです

この改正法案は世界の流れとは逆行する「大麻使用罪」を新設する一方、大麻の規制を「部位によるもの(大麻の種子・茎のみ合法)」から「成分によるもの(THCが一定量以下であれば全部位合法)」へと変更する可能性が高いとされています。

現時点でTHCの制限値は不明ですが、米国で認められたような”遺伝子組み換えヘンプ”が日本でも将来登場するかもしれません。

今年に入り、米国農務省はヘンプ関連で様々な活動に取り組んでいます。

6月には同省が運営する「たばこ・綿花・落花生農業技術諮問委員会」を「たばこ・綿花・落花生・ヘンプ農業諮問委員会」へと改名し、ヘンプを価値のある農作物として認識していることを示しました。さらに8月には、この諮問委員会の人員を倍増しています

また、米国農務省は大麻の花粉を1分間で最大10g集められる新装置の使用をヘンプ農家に推奨。集めた花粉をヘンプの育種家や研究者に提供することを望んでいます。

9月には、ヘンプの各品種について深く掘り下げたハンドブックの最新版を発表。このハンドブックは研究者がヘンプの品種をよりよく区別することを可能にするだけでなく、品種ごとの形態、収量、カンナビノイド含有量、オイルの生産量、種子の生存率、繊維の品質、病原体抵抗性など、詳細な説明が記載されています。

他にも同省は最近、カンナビノイドの生合成を制御する研究のために、バージニア工科大学(Virginia Tech)に対し60万ドル(約8,900万円)の助成金を授与

なお、ヘンプの規定を含む2018年の農業法は9月30日で期限切れとなっており、米国連邦議会は数ヶ月以内に新たな農業法を制定しなければならない状態となっています。

このような中、各州の大麻規制当局のグループはヘンプの定義を「食用、繊維用、飼料用」と「カンナビノイドの抽出を含むその他の目的」に分類することを要求。2018年の農業法により不本意ながら流通した「デルタ8THC」などのヘンプ由来の酩酊成分を規制することを望んでいます。

USDA APHIS「APHIS Issues Regulatory Status Review Response: Growing Together Inc. Hemp」https://www.aphis.usda.gov/aphis/newsroom/stakeholder-info/sa_by_date/sa-2023/hemp-rsr

CISION PRWeb「GTR Unlocks The Secrets Of Delta-9 THC Modulation In Cannabis And Hemp」https://www.prweb.com/releases/gtr-unlocks-the-secrets-of-delta-9-thc-modulation-in-cannabis-and-hemp-875833251.html

Marijuana Moment「USDA Says Genetically Modified Hemp Plant ‘May Be Safely Grown And Bred’ In The United States」https://www.marijuanamoment.net/usda-says-genetically-modified-hemp-plant-may-be-safely-grown-and-bred-in-the-united-states/

Ganjapreneur「USDA Awards $600K Grant to Study How Hemp Genetics Affect Cannabinoid Production」https://www.ganjapreneur.com/virginia-tech-awarded-600k-usda-grant-to-increase-understanding-of-industrial-hemp/

Marijuana Moment「State Cannabis Regulators Urge Congress To Change Hemp And Cannabinoid Rules Through 2023 Farm Bill」https://www.marijuanamoment.net/state-cannabis-regulators-urge-congress-to-change-hemp-and-cannabinoid-rules-through-2023-farm-bill/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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