大麻使用者は他者の感情に寄り添う能力に優れている

大麻使用者は他者の感情に寄り添う能力に優れている

- メキシコの研究

大麻使用者は非使用者と比べ、他者の感情を理解する”共感性”が高い可能性がメキシコの研究チームにより報告されました。論文は「Journal of Neuroscience Research」に掲載されています。

大麻は「エンドカンナビノイドシステム(ECS)」と呼ばれる神経系に作用することで知られています。エンドカンナビノイドシステムの構成要素の1つである「CB1受容体」は脳を中心に存在し、この受容体の活性化及び抑制は痛み記憶認知気分睡眠食欲などに変化をもたらします。

脳(大脳皮質)には前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の4つの領域があり、このうち前頭葉には思考、感情の制御、社会性などを司る脳領域である「前帯状皮質」という部位が存在します。

これまでの研究により、CB1受容体は前帯状皮質でも発現していることが明らかにされていることから、大麻の使用は情動や社会性にも影響を及ぼす可能性があります。

大麻使用者の共感能力を評価

ラテンアメリカで最も高名な大学であるメキシコ国立自治大学(UNAM)の研究チームは、大麻使用者と非使用者を対象に心理検査と画像検査を実施することで、大麻の使用が共感能力に与える影響を評価。

用いられた心理検査は「認知的・感情的共感テスト(Cognitive and Affective Empathy Test)。参加者は33項目の質問に回答することで、認知的共感(他者の感情を識別し理解する能力)と感情的共感(他者の感情、感覚、気持ちを感じ、それとつながる能力)について評価されました。

画像検査ではfMRI(磁気共鳴機能画像法)を通して、共感能力に関する脳領域の機能や活動が観察されました。

大麻使用者は共感能力が有意に高い

認知的・感情的共感テストは、日常的な大麻使用者85名(男性63名、平均年齢27.8歳)と非使用者51名(男性26名、平均年齢24.9歳)に対し実施されました。その結果、大麻使用者では非使用者と比べて、「感情的理解」の項目で有意にスコアが高いことが明らかに。

感情的理解とは、他者の感情、印象、意図を認識し理解する能力のこと。2つのグループ間における平均値の差を示す指標「Cohen’s D」は0.74であり、大麻が感情的理解に与える影響は「中等度」と評価されました。

fMRIは、日常的な大麻使用者46名(男性33名、平均年齢26.8歳)と非使用者34名(男性19名、平均年齢24.1歳)において実施。大麻使用者では非使用者と比べ、前帯状皮質と中心前回(運動を司る部位)・中心後回(感覚を処理する部位)との間において、大きな機能的結合が示されました。

また、大麻使用者では非使用者よりも、前帯状皮質と左前島皮質(感情、モラル、共感性などに関わる部位)との間の機能的結合が有意に大きく、ネットワークの強度が大きいことも明らかにされました。

論文によれば、中心前回・後回の機能的活性化は「私たち自身の感情的関与に対する注意の高まり」や「他者の行動や感情のシミュレーション」と関連します。この領域と前帯状皮質との機能的結合が高まれば、「他者の感情の表現に体性感覚的な側面が加わり、ひいてはそれが大麻使用者が示す感情的理解のスコアの高さと関連する可能性が示唆される」と説明されています。

加えて、「この示唆はECN(共感コアネットワーク)において、大麻使用者は対照群と比較して、前帯状皮質と左前島皮質との間の結合とECNの強度がより強いという違いが示されたことからも、支持され得る」と述べられています。

つまり、今回の研究結果では、大麻使用者は非使用者よりも他者の気持ちを理解する能力が高く、そのことは脳の画像検査で観察された所見からも証明されたということになります。

研究者らは、前帯状皮質にはCB1受容体が多く存在し、この領域が他者の感情と大きく関与していることから、「大麻常用者の感情的理解のスコアと脳の機能的結合の違いは、大麻の使用と関連している可能性があると考えられる」と考察しています。

ただし、大麻使用前からこのような違いがあった可能性もあり、心理検査が主観的報告に基づいていたことからも、因果関係を結論づけることはできないと述べています。

他にもこの研究では、メキシコで消費される大麻はアメリカの大麻と比較してTHC含有量が少ないこと(論文では約2〜10%と説明されている)、男性が多かったことなど、いくつかの限界があるとされています。

今回の研究では大麻使用者においてポジティブな結果が報告されましたが、情動に関する大麻の研究にはネガティブな報告もあり、一貫性がありません。

大麻と情動処理に関するレビューでは、大麻の使用は感情処理の障害と関連し、前頭葉の反応低下とも関連している可能性が示されています。

メキシコ国立自治大学の別の研究者のレビューによれば、エンドカンナビノイドシステムは攻撃性の制御においても重要な役割を果たしている可能性があります。現時点では、カンナビノイドの急性投与によりいくつかの動物モデルで攻撃性が低下することが示されている一方、カンナビノイドの慢性投与では一貫性のない結果が報告されていることから、今後もさらなる研究が必要とされています。

このような中、2018年に嗜好用大麻を合法化したカナダでは、大麻関連犯罪が減少したことに加え、窃盗や暴力犯罪件数に有意な変化がもたらされなかったことが報告されています

また、ニューメキシコ大学の研究チームは今回の研究結果と同様、大麻使用者で「向社会性」と「共感性」が有意に高かったことを報告。この結果から研究者らは、行為障害(凶悪犯罪を犯すような精神状態などを指す)の補助的な治療に大麻が役立つ可能性があると述べています。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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