日本がTHC上限値を発表 世界各国の上限値と比較

2023年12月、日本は約70年ぶりに大麻取締法を改正し、「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」を公布しました。同法は大麻の産業利用を拡大し、医療用途での活用を可能にすることを主な目的としています。

この法律の大きなポイントの1つは、違法とされる大麻の定義が「茎・種以外の部位」から「THCを一定量以上含んだ大麻草やその製品」とされたことです。このことは国内においてCBDの生産を可能にし、CBD産業の拡大に寄与します。しかし、THCの具体的な上限値については、現時点でまだ決定されていません。

厚生労働省は現在、大麻規制に関するパブリックコメントを募集しています。この中では、産業目的で栽培される大麻(産業用大麻:ヘンプ)のTHC上限値について「0.3%」にすることが提案されています。

一方、流通可能なCBD製品については、製品の形態ごとに”限りなくゼロに近い値”が提案されています。それぞれの具体的なTHC上限値は、以下の通り。

オイル製品:10ppm(0.001%)
飲料製品:0.1ppm(0.00001%)
それ以外の製品:1ppm(0.0001%)

これについて、規制案では「CBDを含有した製品に係る安全性の確保や健全な市場育成の推進する仕組みを構築し、国民の保健衛生上の危害が防止でき、かつ、当該物質により発生する事件、健康被害等を抑制することが可能となる」と説明されています。

しかし、政府が示すCBD製品のTHC上限値は、CBD製品の流通が認められている他の国々と比べるとかなり厳しい数値となっているため、大麻支持者やCBD事業者の一部からは批判の声が上がっています。

この記事では、ヘンプ及びCBD製品のTHC上限値についての洞察を深めるため、世界における規制状況についてご紹介していきます。

世界におけるヘンプのTHC上限値

日本政府はヘンプのTHC上限値を「0.3%」にすることを提案しています。グローバル化が当たり前となっている現代において、この数値の妥当性を検討するためには、世界各国の上限値を参考にすることが大切になります。

世界各国が定めるTHC上限値は、主に「0.2%」、「0.3%」、「1.0%」となっています。

<THC上限値=0.2%の国>

イギリス
フランス
南アフリカ
イスラエル

など

<THC上限値=0.3%の国>

カナダ
アメリカ
EU
中国
インド
日本(予定)

など

<THC上限値=1.0%の国>

オーストラリア
コロンビア
チェコ
レバノン
メキシコ
マラウイ
ペルー
スイス
タイ
ウルグアイ
ジンバブエ

など

<その他のTHC上限値>

ウクライナ:0.08%
ロシア:0.1%
ニュージーランド:0.35-0.5%
イタリア:0.2-0.6%
パラグアイ:0.5%

THC上限値を引き上げた国々

いくつかの国は状況に応じて、ヘンプのTHC上限値をかつての数値よりも引き上げています。

例えば、EUはヘンプのTHC上限値をこれまで0.2%としていましたが、2023年以降は0.3%に引き上げ。また、EU加盟国であるチェコは、0.3%から1.0%へと引き上げています

THC上限値を0.08%に設定しているウクライナも、2024年8月16日から2027年2月17日までの間は0.2%、それ以降は0.3%にまで緩和する予定です

アフリカ大陸では昨年、ジンバブエが0.3%から1.0%へ引き上げました

アメリカでは今年中に農業法が改正される見込みですが、全米各州・準州の農業関係者を代表する団体「National Association of State Departments of Agriculture (NASDA)」はこれにあたり、THC上限値を1.0%にまで引き上げることを求めています

では、なぜ上記の国々では、ヘンプのTHC上限値が引き上げられたのでしょうか?

その理由は、主に以下の通りです。

CBD製品のTHC上限値

日本政府が提案している規制案では、ヘンプのTHC上限値が0.3%とされる一方、CBD製品のTHC上限値についてはほとんど0とも言える値が提案されています。これについても、他国の状況を参考にしていきましょう。

日本政府の規制案とは異なり、アメリカやEUなど多くの国では、CBD製品のTHC上限値についてヘンプと同様の値が採用されています。

しかし、日本よりも厳しい規制を採用している国もいくつか存在します。例えば、中国は世界有数のヘンプ生産国として知られていますが、CBD製品は違法とされています。これに合わせるように、香港でもCBDが危険ドラッグに分類されるようになりました

ロシアでも同様に、CBD製品は違法とされています。また、イタリアではCBDオイルが麻薬に指定される動きもみられました

一方、ニュージーランドでは、18歳以上の成人が処方箋なしで薬剤師からTHC含有量2.0%以上のCBD製品を購入することが可能。この数値はヘンプのTHC上限値(0.35%)よりも高くなっています。

THC上限値にまだ正解はない

ヘンプやCBD製品のTHC上限値に関する国際的な基準は存在しません。そのため、THC上限値は国によって様々であり、かつ流動的となっています。

このような中、世界で最も影響力のあるアメリカでは、ヘンプのTHC上限値が0.3%に規定されています。では、この「0.3%」という数値は、一体どのように導き出されたのでしょうか?

これについてアメリカの国立司法省研究所(NIJ)の物理学者であるフランシス・スコット(Frances Scott)氏は、この数値は1950年代のある記事に書かれた仮定から採用されており、科学的な根拠は存在しないと述べています

また、別の記事では、1979年に発行された「The Species Problem in Cannabis: Science & Semantics」という文献の中で初めて「0.3%」という数値が提案されたと説明されています。記事によれば、この文献の著者であるアーネスト・スモール(Ernest Small)氏は、0.3%という数値について”恣意的なもの”であることを認めています。

つまり、そもそも「0.3%」という数値ですら、正解かどうか分からないということです。ここでいう正解とは、厚生労働省が述べているように、「乱用や公衆衛生上のリスクをもたらさないTHC上限値」のことを指します。

なお、国立司法省研究所のスコット氏は以前、アメリカで販売されている53種類のヘンプ製品を検査した結果、大多数の製品で0.3%を超えるTHCが検出されたことを明らかにしました。これらの製品の中には、0.35%や0.4%といったように、THC含有量が僅差で上限値を超えていたものも存在していました。

このことについて、スコット氏は以下のように語っています。

「彼らは違法なマリファナを栽培し、あなたをハイにさせようとはしていない。なぜなら、率直に言って、0.35パーセント(の大麻)でハイになるためには、電柱サイズのジョイントを吸わなければならないからだ」

U.S. International Trade Commission「Keeping the High out of Hemp: Global THC Standard」https://www.usitc.gov/publications/332/executive_briefings/ebot_decarlo_weaver_keeping_the_high_out_of_hemp.pdf

CMS Law Tax「CANNABIS LAW AND LEGISLATION IN UKRAINE」https://cms.law/en/int/expert-guides/cms-expert-guide-to-a-legal-roadmap-to-cannabis/ukraine

Library of Congress「Regulation of Hemp」https://tile.loc.gov/storage-services/service/ll/llglrd/2022666115/2022666115.pdf

Hemp Benchmarks「The Latin American Hemp Market: A Work in Progress with Great Potential」https://www.hempbenchmarks.com/hemp-market-insider/the-latin-american-hemp-market/

Marijuana Moment「State Agriculture Departments Across U.S. Push Congress To Triple The THC Limit For Hemp As 2024 Priority」https://www.marijuanamoment.net/state-agriculture-departments-across-u-s-push-congress-to-triple-the-thc-limit-for-hemp-as-2024-priority/

Canna Health Amsterdam「Hemp in the history of Ukraine and Russia」https://cannahealthamsterdam.com/hemp-in-the-history-of-ukraine-and-russia/

COSlaw.eu「Ingredients in the spotlight: Cannabidiol (CBD)」https://coslaw.eu/cosmetic-cbd-cannabidiol/

Healthline「Hemp vs. Marijuana: What’s the Difference?」https://www.healthline.com/health/hemp-vs-marijuana

Marijuana Moment「Justice Department Researcher Questions 0.3% THC Limit For Hemp, Saying Federal Law Based On 1950s Anecdote」https://www.marijuanamoment.net/justice-department-researcher-questions-0-3-thc-limit-for-hemp-saying-federal-law-based-on-1950s-anecdote/

National Institute of Justice「Study Reveals Inaccurate Labeling of Marijuana as Hemp」https://nij.ojp.gov/topics/articles/study-reveals-inaccurate-labeling-marijuana-hemp

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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