大麻由来の建材が温室効果ガスの排出を大幅に削減する可能性

大麻由来の建材が温室効果ガスの排出を大幅に削減する可能性

- カナダにおける研究

Sustainability」に掲載された論文によれば、カナダで現在用いられている断熱材を大麻由来の断熱材へと変えることで、温室効果ガスの排出量を101%削減できる可能性があります。

温室効果ガスとは、大気中に含まれる二酸化炭素やメタンなどのガスの総称のこと。名前の通り、温室効果ガスには地表を暖める働きがあります。もし温室効果ガスがなければ、地球の表面温度は-19度になるとも言われており、生命にとってはなくてはならない存在となっています。

自然界において温室効果ガスは少量しか発生しません。しかし、産業革命以降、石油や石炭などの化学燃料の燃焼による”人為的な”温室効果ガスが急増。人為的な温室効果ガスで最も多いのは二酸化炭素(76%)であり、この排出は地球温暖化の主な原因として知られています。

このため、世界は温室効果ガスの排出を減らすための取り組みを開始。2016年には「京都議定書」の後継となる「パリ協定」が発効され、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という長期目標が掲げられました。

これにより、日本やカナダを含む多くの国は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しています。

建築分野は温室効果ガス排出の主な原因の1つ

建築分野は温室効果ガスの排出を削減する上で注目されている分野の1つとなっています。

2018年のデータによれば、世界における温室効果ガス総排出量のうち、建築部門の直接・間接的な排出量は17.1%。

別のデータでは、カナダにおける2020年の温室効果ガスの総排出量(672MtCO2eq)のうち、建築分野が13%を占め、第3位の排出源となっていました。

建築においては、主に以下の2つにより温室効果ガス(二酸化炭素)が排出されます。

①住宅の建築・改修・解体
②住居内での生活(水道、冷暖房、給湯など)

ここで重要となるのが「断熱材」。生活でのエネルギー使用量を低下させる優れた断熱材は、地球温暖化を防ぐ上で要となります。

現在世界で最も使用されている断熱材は「繊維系」と「発泡プラスチック系」の断熱材。繊維系にはグラスウール、ロックウールなどがあり、発泡プラスチック系にはポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォームなどがあります。

しかし、これらは羊毛などを活用した天然素材の断熱材と比べ、高レベルの二酸化炭素をもたらすことを特徴としています。

大麻由来の断熱材

サステナブルな断熱材が熱望されている中、高い注目を集めているのが「麻(ヘンプ)由来の断熱材」です。

まず、植物である麻は栽培過程において二酸化炭素を吸収します。特に麻はこの能力に優れており、1ヘクタール当たり9トンから15トンもの二酸化炭素を吸収するとも言われています

麻は農耕に適さない不良土でも育つため、環境に有害な人工的な肥料や農薬をほとんど使用する必要がありません。それどころか、麻は土壌に蓄積した重金属、農薬、毒素などを浄化することで知られており、土壌改善(ファイトレメディエーション)においても有望視されています

成長した麻の茎には繊維の部分と木質の部分(オガラ)があり、これらは断熱材や軽量コンクリート(ヘンプクリート)として利用することが可能。実際、長野県大町市美麻の重要文化財「旧中村家住宅」(1698年建築)の茅葺屋根の最下層には、オガラが用いられています。

旧中村家住宅
旧中村家住宅(画像元:大町市公式サイト)

麻由来の断熱材は熱伝導率が低いだけでなく、多孔質であることから調湿効果にも優れています。このことは無駄な冷暖房の使用を抑制し、エネルギー効率を高めることを意味します。

これ以外にも、麻由来の断熱材には以下のような特徴があります。

・通気性が高い
・耐久性が高い
・虫害やカビに強い
・不燃性である
・防音性が高い
・空気を浄化(二酸化炭素を吸収)

大麻由来の断熱材が温室効果ガスの排出を101%削減

カナダでは現在、繊維系と発泡プラスチック系の断熱材が市場の80%以上を占めています。

今回の研究では、これらの断熱材を麻由来のもの(麻繊維5%、ヘンプクリート95%)に置き換えた場合、温室効果ガスがどの程度削減されるのかが予測されました。

研究によれば、麻由来の断熱材は既存の住宅床面積のうち81%に適用することが可能。

従来の断熱材を使用した場合、2025年から2050年に排出される温室効果ガスの量は142.42MtCO2eq。麻由来の断熱材を使用した場合、この数値は-1.43MtCO2eqとなり、101%の削減が可能であると試算されました

2020年、カナダは建築分野において温室効果ガスを88MtCO2eq排出。2050年までにカーボンニュートラルを達成するためには、「年間の温室効果ガスの排出量を年平均成長率−13.9%で削減する必要がある」と論文では述べられています。

そのような中、麻由来の断熱材への完全置換は「目標排出量の7.38%の削減に寄与することができる」と試算されています

これらのことから、論文の結論部分では「麻ベースの断熱材は主流の断熱材と同等の熱特性を持ち、はるかに優れた環境性能を有している」と述べられています。

なお、既存の研究では、木、竹、わら粘土が従来の断熱材に匹敵する熱特性を持ち、温室効果ガスを大幅に削減する可能性が示されています。しかし、今回の結果は麻由来の断熱材がこれらよりも「温室効果ガスを削減できることを示している」と研究者らは述べています。

ただし、短期的に麻の栽培を増やすことの困難さ、品種・設備・技術・専門知識の不足、市場が小さく競争力がないなど、麻由来の断熱材に移行するためにはいくつかの問題に対処する必要があると研究者らは指摘しています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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