2022年2月、円形脱毛症の人の大麻の使用状況について調査した論文を、マサチューセッツ州ボストン市にあるブリガムアンドウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)の皮膚科医らが発表しました。
この調査は全米円形脱毛症財団(the National Alopecia Areata Foundation)を通じて、オンラインで行われています。
有効回答者数は1045名で、回答者の8割以上(870名)が女性でした。平均年齢は約47歳(±15歳)で、円形脱毛症の罹患期間の平均は約19年(±16年)でした。このうち大麻を使用した経験のある人は689名(65.9%)でした。
30日以内に大麻を使用したと回答した人は357名(大麻経験者の51.8%)で、170名(47.8%)が毎日あるいはほぼ毎日、91名(25.5%)が週に1回程度大麻を使用していました。また144名(40.3%)が、円形脱毛症と診断されてから大麻を使用し始めたと報告しています。
その理由として多かったのは、円形脱毛症に関連する症状(199人、55.7%)、嗜好目的(197人、55.2%)でした。このうち医療従事者から大麻の使用を薦められたのは5.6%(11人)で、医療用大麻として処方されたのはわずか1名でした。
大麻の使用により、ストレスの軽減(261名、73.1%)、不安・うつ・悲しみの改善(234名、65.6%)を実感していると回答する人が多くみられました。一方、主な症状である脱毛に対しては、ほとんどの人(287名、80.4%)があまり効果がなかったと回答しています。
つまりこの調査から、円形脱毛症の人にとって大麻は、主に精神的・社会的負担を軽減するために使用されているのが分かります。
円形脱毛症は頭皮の毛髪が円形に脱毛する症状をいいます。円形に脱毛するだけでなく、生え際の毛が帯状に抜けたり、頭部全体・あるいは全身に至るまで脱毛するケースもあります。
円形脱毛症は男女ともに発症し、発症者の約4分の1が15歳以下で症状が見られ始めるといいます。
発症の原因はストレスだと考えられがちですが、それは原因の一部であり、現在は自己免疫疾患の可能性も指摘されてきています。またアトピー性皮膚炎を持つ人や産後ホルモンバランスが変化した女性にみられることもあります。
※自己免疫疾患とは
本来は細菌やウイルスなどの異物を攻撃するはずの免疫細胞が、正常な細胞を攻撃してしまう病気の総称。
大麻はカンナビノイド受容体を中心に作用し、免疫を調節する働きがあると考えれており、実際に潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患に有効性が認められてきています。ですが今回の調査では、円形脱毛症に対しては有効性が認めらなかったようです。
円形脱毛症は見た目に変化を伴うため、周囲の目を気にするようになり、多大なるストレスを感じます。その結果、うつ病を発症するケースも少なくありません。
大麻がメンタル面をサポートすることは広く知られており、うつ病に対する有効性も示されてきています。
今回の調査からも分かるように、円形脱毛症の人にとって大麻は、精神的苦痛から解放し、QOLを維持するものであると言えそうです。ですが、医療用大麻として処方を受けたのは1名のみであり、医療用として処方される難しさも感じられます。
円形脱毛症だけでなく、ボディイメージの変化をもたらす疾患は数多くあります。これらの疾患により、周囲の目が刺さるように感じ、精神的に苦しむ人は大勢います。
こういった人たちにとって、大麻は救世主となりうるでしょう。
ですが本来このような人たちが精神的苦痛を味わずにすむような社会を作っていくのは、大麻ではなく、私たち一人ひとりではないでしょうか。