大麻オイルが犬・猫の諸症状を改善 獣医師らが報告

大麻オイルが犬・猫の諸症状を改善 獣医師らが報告

- アルゼンチンの観察研究

アルゼンチンの獣医師らを調査した結果、様々な病状を抱える犬・猫において大麻オイルが改善をもたらしていたことが明らかにされました。論文は「Journal of Cannabis Research」に掲載されています。

近年、世界では医療用大麻を合法化する国や地域が増えてきています。日本でも2023年末に法改正が行われ、医療用大麻製剤を活用する道が切り開かれました

このような中、動物においても医療用大麻の活用に期待が高まってきています。日本では「アニマルCBD研究会」が大麻成分CBDを用いた症例研究に取り組んでおり、Webページでは様々な症例が紹介されています。

なお、アニマルCBD研究会の茂木氏を中心とした研究チームは2022年、CBDが犬のアトピー性皮膚炎のかゆみの発生を減少させた症例を報告しています

アルゼンチンの獣医師を対象とした実態調査

アルゼンチンの研究チームは、国内でカンナビノイドを用いた治療に取り組む獣医師のコミュニティを対象に、医療用大麻に関する実態調査を実施。

解析対象には、カンナビノイド含有量が明確な大麻オイルが使用され、少なくとも15日間観察が行われた犬と猫が含まれました。

なお、アルゼンチンは2017年に医療用大麻を合法化。2023年には、医療及び産業用大麻産業を強化するための新たな連邦政府機関が発足され、新たな規制枠組みも定められました

痛み・行動障害・てんかんなどに活用

89匹の犬、24匹の猫が解析対象に含まれました。

犬種として多かったのはジャーマン・シェパード、ラブラドール、ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、ビーグル、コッカー、雑種など。猫種ではヨーロピアン・ショートヘアー、ペルシャ、シャムが多くなっていました。

犬では0.4〜19歳で医療用大麻が使用されていました。中でも割合が高かったのは9〜14歳(47匹)で、治療された症状として多かったのは関節痛などによる痛み(31匹)、行動障害(12匹)、てんかん(11匹)など。全年齢では他にも、犬ジステンバー感染症の後遺症、がん、老年性認知機能障害、皮膚疾患などに医療用大麻が用いられていました。

猫でも幅広い年齢層(2〜18歳)で、行動障害(3匹)、痛み(3匹)、がん(3匹)などに医療用大麻が使用されていました。

症状に応じて様々な大麻オイルを活用

THCとCBDの比率が異なる3種類のフルスペクトラム大麻オイルが活用されており(THC優位、THC=CBD、CBD優位)、投与経路は全て経口投与。これら3種類の大麻オイルは、症状に応じてそれぞれ使用される割合が異なっていました。

例えば、犬における疼痛、行動障害、てんかんでは以下の通りとなっていました。

【疼痛(31匹)】

THC=CBD(16匹)、THC優位(14匹)、CBD優位(1匹)

【行動障害(12匹)】

CBD優位(7匹)、THC優位(4匹)、THC=CBD(1匹)

【てんかん(11匹)】

CBD優位(6匹)、THC=CBD(3匹)、THC優位(2匹)

痛みではTHCがしっかり含まれたオイルが多く使用され、行動障害とてんかんではCBD優位のオイルが使用される頻度が高かったことが分かります。

犬における治療開始時のTHCとCBDの1日平均投与量については、主に以下の通り。

【疼痛】

THC優位:THC0.083mg/kg、CBD0.025mg/kg
THC=CBD:0.016mg/kg

【行動障害】

CBD優位:THC0.007mg/kg、CBD0.046mg/kg

【てんかん】

CBD優位:THC0.012mg/kg、CBD0.048mg/kg

猫に関してはサンプルサイズが小さく、結果はバラバラとなっていましたが、行動障害(2匹)と皮膚疾患(2匹)ではCBD優位のオイルが優先的に使用されていました。

猫における治療開始時のTHCとCBDの1日平均投与量は、以下の通り。

THC優位:THC0.165mg/kg、CBD0.036mg/kg

THC=CBD:THC0.036mg/kg、CBD0.040mg/kg

CBD優位:THC0.061mg/kg、CBD0.383mg/kg

痛み、行動障害、てんかんなどが改善

調査時点で15日、30日、60日間治療を受けていた犬・猫において、獣医師による診察と飼い主の報告に基づき、医療用大麻がどの程度改善をもたらしたのかを評価。報告された内容は症状や製品の種類に応じて、「変化なし」「軽度」「中等度」「顕著」のいずれかに分類されました。

その結果、犬では痛み、行動障害、てんかんなどの症状において、多くの改善が報告されました。主な結果は以下の通り。

【痛み】

THC優位
15日後(11匹):顕著(4匹)、中等度(3匹)
30日後(8匹):顕著(2匹)、中等度(4匹)
60日後(5匹):顕著(4匹)

THC=CBD
15日後(12匹):顕著(9匹)、中等度(3匹)
30日後(5匹):顕著(3匹)、中等度(2匹)

【てんかん】

CBD優位
15日後(3匹):顕著(1匹)、中等度(1匹)

【行動障害】

CBD優位
15日後(4匹):中等度(3匹)
30日後(5匹):顕著(2匹)、中等度(2匹)
60日後(3匹):顕著(1匹)、中等度(2匹)

猫では、THC優位とTHC=CBDのオイルが行動障害、疼痛、がんなどに使用されており、CBD優位のオイルではこれらの病状に加え、皮膚疾患にも用いられていました。

各オイル別の主な結果は以下の通り(症例が少ないため、疾患別の記載はなし)。

THC優位

15日後(7匹):顕著(5匹)、中等度(2匹)
30日後(3匹):顕著(2匹)、中等度(1匹)

THC=CBD

15日後(7匹):顕著(3匹)、中等度(1匹)
30日後(4匹):顕著(1匹)、中等度(2匹)
60日後(3匹):顕著(1匹)、中等度(2匹)

CBD優位

15日後(6匹):顕著(2匹)、中等度(2匹)
30日後(3匹):顕著(2匹)、中等度(1匹)

なお、大麻オイルのみで治療を受けていたのは、犬では89匹中28匹(疼痛:31匹中10匹、行動障害:11匹中8匹)、猫では24匹中10匹。

大麻オイルのみの治療でも、以下のように多くの犬・猫で改善が報告されました。

【犬】

15日後(20匹):顕著(6匹)、中等度(6匹)、軽度(7匹)
30日後(17匹):顕著(6匹)、中等度(8匹)、軽度(2匹)
60日後(10匹):顕著(6匹)、中等度(3匹)、軽度(1匹)

【猫】

15日後(9匹):顕著(6匹)、中等度(2匹)、軽度(1匹)
30日後(3匹):顕著(2匹)、中等度(1匹)

大麻オイル単剤群と多剤併用+大麻オイル群で改善の割合が比較されましたが、統計的に有意差は認められませんでした。また、食事内容(生食、調理食、加工食など)との関連性も分析されましたが、特に有意差は認められませんでした。

なお、大麻オイルの副作用は犬において2件報告されました(CBD優位の製品で鎮静、THC優位の製品で妄想状態)。いずれの副作用もTHC:CBDの比率を変えずに別の製品に変更したことで、回復が認められました。

これらの結果から、犬と猫に対する医療用大麻の使用は有望であり、比較的安全性は高いと考えられます。ただし、この研究は探索的なものであり、有効性や安全性を明らかにするためには質の高い臨床試験が必要となります。

今回と似たような調査結果は他にも報告されています。例えば、スロベニアの調査では、回答者の42.2%が犬や猫にCBDを使用した経験があり、これによりペットの健康状態が改善されたことを報告しています

このような調査だけでなく、犬や猫では実用に向けた研究も進められています。

イギリスの研究チームは、健康な犬にCBD(カプセル)を4mg/kgの用量で6ヵ月間投与しても、忍容性が良好であったことを報告

2023年末にアメリカの研究チームは、健康な犬にCBDを1日に5mg/kgまたは10mg/kgの用量で36週間投与した結果、CBD5mg/kgの用量のほうが副作用が少なかったものの、どちらの用量でも血液データで肝機能の異常が疑われる所見が認められたため、定期的なモニタリングを行うことを推奨しました

いくつかの研究によれば、犬に対する医療用大麻やカンナビノイドの使用はてんかん変形性関節症強迫性障害などにおいて有効性が示されています。病気以外でも、留守番や車での移動によるストレスの緩和にも有望な可能性が報告されています

健康な猫では、CBD(オイル)を1日に4mg/kgの用量で6ヶ月間食事とともに与えても、忍容性が良好であったことが明らかにされています

単回投与に関しては、コロラド州立大学の研究チームが、健康な猫においてCBD(オイル)を80mg/kgの用量で投与しても忍容性が良好であったことを報告。また、人間と同様に、猫も食後にCBDを摂取すると吸収率が高かったことも報告されています

猫に対する医療用大麻・カンナビノイドの使用は、歯肉口内炎痛みなどにおいて有効性が示されています。

なお、馬においても医療用大麻やカンナビノイドが有効な可能性があり、近年研究報告が増えつつあります。例えば、2023年には、馬の行動異常の1つである「さく癖(グイッポ)」がCBDの使用により改善した症例が初報告されています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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