バーモント州、過剰摂取防止センターの開設を認める全米第3の州に

現地時間6月17日、バーモント州は医療従事者の監視下で違法薬物を安全に使用できる「過剰摂取防止センター」の試験的な開設を認める全米3番目の州となりました。

日本を含むほとんどの国は、薬物の使用を犯罪としています。しかし、刑罰による薬物政策の効果は乏しく、薬物使用者は年々増加傾向にあります。また、近年アメリカではフェンタニルを中心としたオピオイドの過剰摂取による死亡者数が急増し、社会問題となっています。

実際に、今回過剰摂取防止センターの開設を承認したバーモント州では、過去5年間で致死的な過剰摂取が500%増加。2023年に記録された過剰摂取による死亡のうち、95%がフェンタニルに関与したものとなっています。

このような中、新たな薬物政策のアプローチとして注目されているのが「ハームリダクション」です。ハームリダクションは違法薬物の使用をなくすことではなく、薬物使用による害を減らすことに重点を置いた考え方です。

過剰摂取防止センターはまさにこれを実現するものとなります。ここでは違法薬物に異物の混入がないかを検査し、清潔な注射器具を提供することで、予期せぬ健康被害や感染を予防することができます。また、万が一過剰摂取が起きたとしても、すぐに医療処置を行うことも可能です。

アメリカでは、2021年に初めてニューヨーク州が過剰摂取防止センターを開設しました。同年にロードアイランド州は、過剰摂取防止センターの試験運営を認める法案を承認。その後、2023年にはミネソタ州が過剰摂取防止センターの開設を支援する法案を成立させました。

これに続く形で、バーモント州の議員らは過剰摂取防止センターの試験的な開設を認める法案「H.72」を可決。フィル・スコット（Phil Scott）知事は同法案に拒否権を発動しましたが、両院の議員らは再度採決をとり、3分の2以上の賛成にてこれを覆しました。

H.72はバーモント州最大の都市であるバーリントンを拠点として、過剰摂取防止センターの開設を認めるものです。この資金は、オピオイド危機の一因となった製薬会社から得た110万ドル（約1億7,000万円）の和解金から賄われます。

上院議長代理であるフィル・バールト（Phil Baruth）氏は、声明にて「本日、上院の超党派の多数決により、スコット知事による過剰摂取防止センター法案への誤った拒否権が無効となり、バーモント州のオピオイド危機への取り組みに対する我々の揺るぎないコミットメントが示された」

「データは明らかだ。過剰摂取防止センターは命を救い、人々を治療に導き、救急治療室や救急医療サービスへの負担を軽減し、地域社会における一般市民の薬物消費と廃棄物資を減らす。スコット知事がこの法案に拒否権を発動したことは非常に残念であったが、バーモント州におけるオピオイド危機の終息を加速させるために全力を尽くすという私たちの公約をバーモント州上院が実現したことを誇りに思う」とコメント。

下院議長であるジル・クロウィンスキー（Jill Krowinski）氏は「過剰摂取防止センター法案H.72は、依存症と闘うバーモント州民を支援するための新たなリソースを与えてくれる。過剰摂取によるバーモント州民の喪失で多くの家族や地域社会が経験した痛みや喪失感を取り除くことは不可能だ」

「我々は何年も薬物使用プログラムとリソースに投資してきたが、多くのバーモント州民が苦しんでいるのを目の当たりにし続けている。過剰摂取による死はどれも容認できない。今日、拒否権を無効とする投票が行われたことを誇りに思うと同時に、バーモント州民の誰もが適切な治療を受けられる新たな道が提供されることを願っている」と述べました。

国連麻薬委員会（CND）は今年3月、ハームリダクションに基づいた薬物政策の有効性を初めて認め、加盟国にこれを奨励する決議案を採択。これには世界の麻薬戦争に多額の資金を提供してきた日本も賛成票を投じています。