5月18日、連邦政府機関である米国疾病予防管理センター(CDC)のデータを分析した結果、大麻使用者は非使用者と比べ、脂肪肝の有病率が低かったことが中国の研究者らにより報告されました。論文は「PLOS ONE」に掲載されています。
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が過剰に蓄積された状態のこと。この病気は主に飲み過ぎ、食べ過ぎ(特に炭水化物と脂質)、運動不足といった生活習慣の乱れに起因します。
脂肪肝は大きく、アルコールの飲み過ぎによる「アルコール性脂肪肝」と、それ以外の「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」に分類されます。非アルコール性脂肪性肝疾患はさらに「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、その重症例である「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分けられます。
脂肪肝は症状が出にくく放置されやすい疾患ですが、そのままにしておくと肝臓の障害や線維化が進行し、肝硬変や肝細胞がんを発症することで知られています。また、非アルコール性脂肪性肝疾患では高確率でメタボリックシンドロームや動脈硬化を併発しているため、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管及び脳血管疾患の発症リスクが高くなります。
そのため、脂肪肝が疑われた際は、早期に治療や生活改善を行うことが望まれます。
今回中国の研究チームは、大麻の使用と脂肪肝及び肝硬変の関係性について調べるために、米国疾病予防管理センターの下部組織「国立衛生統計センター(NCHS)」による米国全国国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを活用。このうち、2017〜2018年のデータから、大麻の使用状況について回答し、「フィブロスキャン」と呼ばれる肝臓の検査を受けた人々のデータが用いられました。
フィブロスキャンは超音波検査の1つで、振動と超音波の伝わり方から肝臓の硬さや脂肪量を測定します。この研究では、数値によって以下のように重症度が分類されました。
肝脂肪量検査(CAP)
軽度脂肪化(S1):274dB/m以上
中等度脂肪化(S2):290dB/m以上
高度脂肪化(S3):302dB/m以上
肝硬度測定(VCTE)
中等度の線維化(F2):8.2kPa以上
高度線維化(F3):9.7〜13.6kPa
大麻使用者は、脂肪肝の有病率が低い
解析対象となったのは、2,622名(男性1,287名、平均年齢40歳)のデータ。このうち19.1%が現在の大麻使用(過去30日間に1日以上)、35%が過去の大麻使用(過去30日間を除き、生涯に1回以上経験)、45.9%が大麻の未経験を報告しました。
2,622名のうち41.4%が脂肪肝に罹患。男性、高齢者、メキシコ系アメリカ人、BMI高値の人で多い傾向にあり、既婚者や恋愛パートナーのいる人、高血圧、糖尿病、心血管疾患を有する人でより有病率が高くなっていました。このような中、大麻未経験者では有病率が50.3%であったのに対し、過去の大麻使用者では35%、現在の大麻使用者では14.7%という結果に。
肝硬変は2,622名のうち7.5%で認められ、特に男性、高齢、BMI高値、高血圧、糖尿病、C型肝炎において多くなっていました。肝硬変に関しては、大麻使用の有無で有意な差は認められませんでした。
大麻使用者は、脂肪肝の重症度が低い
続いて、大麻使用の有無でフィブロスキャンの結果を比較。
全体として、大麻使用はCAP(肝脂肪量)の減少と関連。過去の大麻使用者のCAPの平均は263.1dB/m、未経験者では264.8dB/mとなっていましたが、現在の大麻使用者は246.6dB/mでより低値となっていました。
全体でS3(高度)の脂肪肝患者は26.5%。大麻の使用状況別では、大麻未経験者のうち28.3%、過去の大麻使用者のうち27.9%がS3の脂肪肝を罹患していたのに対し、現在の大麻使用者ではその割合が19.8%と最も少なかったことが明らかとなりました。
一方、VCTE(肝硬度)に関しては大麻使用の有無で有意差が認められませんでした。
最後に、年齢、性別、人種、教育レベル、経済状況、アルコールや喫煙、その他既往歴などの共変量を調整した上で分析を実施。それでも、現在の大麻使用は脂肪肝の有病率の低さと有意に関連していたことが明らかとなりました。
ただし、観察研究という性質上、因果関係を明確にできないこと、バイアス(偏り)が生じやすいこと、またこの研究では食事や身体活動状況のデータがないこと、使用された大麻の種類が不明であるなどの限界があるとされています。
論文の結論部分で、研究者らは「結論として、現在の大麻使用は脂肪肝(の有病率)と逆相関することが分かりました。これらの結果を縦断的に確認するためにさらなる研究が必要であり、大麻化合物とその生物学的効果に関する調査は、脂肪肝の治療と予防のために有望と言えます」と述べています。
このような結果が報告されたのは、今回が初めてではありません。
マサチューセッツ大学の研究チームは、全米で最も包括的な入院患者データベースにある約600万名のデータを分析した結果、大麻使用者は非使用者と比べ、非アルコール性脂肪性肝疾患の有病率が低かったことを報告。さらに、大麻使用者の中でも、時々の使用者では有病率が15%低かったのに対し、常用者では52%低かったことが判明しています。
別の研究では、米国全国国民健康・栄養調査を用いて、肝機能障害の指標の1つとなっている血液検査データALP(アルカリフォスファターゼ)をベースとした分析を実施。その結果、大麻使用者では非アルコール性脂肪性肝疾患の有病率が有意に低かったことが明らかとなりました。
過度の飲酒が肝臓に悪いことは周知の事実ですが、全米の患者データベースにあるアルコール乱用経験者約32万名のデータを分析した研究では、大麻使用者においてアルコール性脂肪肝、脂肪肝炎、肝硬変、肝細胞がんの発症率が有意に低かったことが報告されています。
C型肝炎ウイルス感染者約19万名のデータを分析したアメリカの研究でも、大麻使用者は非使用者と比べ、肝硬変の有病率や医療費が有意に少なかったことが報告されています。ただし、肝がんの発症率、死亡率、入院期間については、大麻使用の有無で有意差が認められませんでした。
2019年に公開されたメタ分析では、C型肝炎ウイルス感染者及びC型肝炎ウイルスとHIVの重複感染者において、大麻使用は肝硬変の有病率の増加とは関連せず、むしろ脂肪肝の有病率の低さと関連していたことが報告されています。
なお、アメリカの研究者らは昨年、1億人を超える大規模なデータベースを分析することで、大麻使用者は非使用者と比べ、肝細胞がんになる可能性が55%低かったことを明らかにしています。
大麻は主にエンドカンナビノイドシステムに作用することで医療効果をもたらすと考えられており、実際に大麻の主な成分の1つであるTHCはCB1、CB2受容体に部分的に作用することで知られています。これらの受容体は肝細胞でも存在が確認されており、この場所におけるCB1受容体の活性化はマイナス、CB2受容体の活性化はプラスに働くと考えられています。そのため、大麻で上記のようなポジティブな結果が報告されているのはあまり辻褄が合っていません。
この理由はまだ明らかにされていませんが、THCの慢性使用によるCB1受容体での耐性出現や、CBDやTHCVなど、CB1受容体の働きを弱め、CB2受容体を活性化する成分に伴うアントラージュ効果などの関連が推測されています。
なお、代謝性疾患においては、かつてCB1受容体の逆作動薬「リモナバント」に期待が寄せられました。しかしながら、リモナバントは脳のCB1受容体に働きかけることで重篤な精神的副作用をもたらしたため、現在では市場から撤退。そのため、近年では脳に移行せず、末梢のCB1受容体にのみ作用する薬の開発、研究が進められています。