CBDメインの大麻エキス、新型コロナウイルス感染による重症化を早期から抑制か

CBDが新型コロナ重症化を早期から抑制か

イスラエルの基礎研究

2022年5月16日、CBD(カンナビジオール)を主成分とした大麻抽出物「CBD-X(詳しくは後述)」が新型コロナウイルス感染による重症化を早期から抑制する可能性を示した論文がイスラエルの研究者らにより公開されました。

サイトカインは免疫細胞から産生されるタンパク質であり免疫機能の調節を行っています。サイトカインは作用により炎症をもたらす炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-α、IFN-γなど)、炎症を抑制する抗炎症性サイトカイン(IL-10、TGF-βなど)、白血球を遊走させるケモカイン(MCP-1など)に分けられます。

通常の免疫反応ではこれらのサイトカインのバランスが保たれますが、重度の感染・炎症によりこのバランスが損なわれると、炎症性サイトカインやケモカインの放出が過剰となり、過度な炎症を引き起こします。これをサイトカインストームと呼び、多臓器不全や血液凝固障害など、生命を危険にさらす重篤な状態をもたらします。

新型コロナウイルスの重症化は、サイトカインストームによるものであることが知られています。つまり、サイトカインストームを抑制することは新型コロナウイルスの重症化を抑制することにつながります。

今回の研究では、まずTHC(テトラヒドロカンナビノール)を主成分とした大麻抽出物3種類と、CBDを主成分とした大麻抽出物3種類の、計6種類における抗炎症作用が検証されました(以下、参照)。これらの大麻抽出物は、Raphael Pharmaceutical社により提供されたものです。

THC-A:THC 71.7%、CBD 0%、CBN 0%、CBG 0%
THC-B:THC 53%、CBD 0.1%、CBN 0.4%、CBG 0.4%
THC-C:THC 59%、CBD 0.1%、CBN 0.2%、CBG 1%
CBD-X:CBD 35%、THC 0.3%、CBN 0%、CBG 0.3%
CBD-Y:CBD 62%、THC 8.5%、CBN 0.1%、CBG 0%
CBD-Z:CBD 75%、THC 3.6%、CBN 0%、CBG 0%

(※都合上A、B、Cなどで名前を振り分けたもので、このような名前の大麻抽出物ではありません。論文に準じて表記しています)

マウスのマクロファージ細胞株を上記の抽出物でそれぞれ処理し、炎症性サイトカインIL-6の放出量を測定しました。なお、血中のIL-6の増加は新型コロナウイルス感染による死亡率の上昇と関連していることが指摘されています。

測定の結果、CBD-XのみがIL-6の放出を50%減少させ、統計的に有意となりました。その他の抽出物もわずかにIL-6を減少させましたが、統計的に有意ではありませんでした。この結果から、これ以後の研究は全てCBD-Xで行われました。

次はヒト由来の細胞にてCBD-Xによる抗炎症作用が検証されました。リポポリサッカライド(LPS)で炎症を引き起こしたヒト由来の好中球細胞をCBD-Xにて処理した結果、対照の細胞と比べ炎症性サイトカイン(IL-6、TNF−α)の放出が有意に抑制されました。

さらにCBD-Xは活性化したヒト由来のT細胞(免疫細胞)からの炎症性サイトカイン(TNF-α、IFN-γ)の放出を有意に抑制しました。この抑制作用はT細胞が活性化し免疫反応を開始する段階から認められ、このことからCBD-Xが炎症の初期段階から抗炎症作用をもたらすことが示されました。

加えてCBD-Xによる処理はT細胞の遊走を阻害することも示されました。新型コロナウイルスの重症例ではT細胞の肺への遊走が認められ、これを阻害することは重症化を妨げることに寄与することが指摘されています。

続いてこの研究では、マウスにおける研究も行っています。

LPSによる全身性炎症モデルのラットに対しCBD-Xを投与したところ、腹膜や血中における炎症性サイトカイン(TNF−α、IL-1β)が減少し、さらに抗炎症性サイトカイン(IL-10)の有意な増加が認められました。これはCBD-Xが免疫を調節し、全身の炎症反応を抑制する可能性を示しています。

最後に、肺炎モデルのマウスにおいてもCBD-Xの抗炎症作用が検証されました。その結果、CBD-Xの投与は炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)やケモカイン(MCP-1)の放出を有意に抑制しました。対照の肺炎モデルのマウスの肺組織では白血球マーカーやIL-6の増加が認められましたが、CBD-Xを投与した肺炎モデルのマウスでは、それらはともにほぼ健常なレベルにまで減少していました。

これらの結果から、CBD-Xは感染早期の段階から新型コロナウイルス感染による重症化を予防・改善する可能性があることが示されました。一方で、CBDを主成分とした大麻抽出物が必ずしも有効ではないことも分かりました。CBD-Xのような一部の大麻抽出物は、新型コロナウイルスの重症化だけでなく、サイトカインの異常を伴う様々な感染症や炎症性疾患に対しても有効である可能性が高いと、研究者らは述べています。

今後、研究者らは新型コロナウイルスに感染した人の血液サンプルを使用し、CBD-Xの有効性を検証する予定です。

同年4月のカナダの研究では、LPSによって炎症を起こしたヒト気管支上皮細胞において、CBDもTHCも炎症性サイトカイン・酸化ストレスを有意に抑制し、サイトカインストームを軽減させることが示されました。

さらに同年5月11日のカナダの研究では、新型コロナウイルス感染による肺炎の発症に対し、CBDが予防的に作用する可能性があることが示されました。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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