2022年2月9日、大麻が心筋梗塞の発症リスクを減らす可能性を示した論文が、Cureusに掲載されました。
※心筋梗塞とは
冠動脈(心臓に流れる動脈)が閉塞することにより、心臓を動かす筋肉が壊死し、心臓の機能が著しく低下する病気。日本ではがんに次ぐ死因の第2位(心疾患)となっている。発症すると強い胸痛を感じるが、発症後早期(世界的な目標では90分以内)に対応することが予後に大きくかかわってくる。
この論文はニューヨークのマウントサイナイ医科大学の研究者らが、イギリスのバイオバンク(病気の予防や治療を目的とした、健康に関する約50万人の情報資源)にある心筋梗塞の全患者のデータをもとに分析したものになります。
大麻の使用歴(使用歴なし、1,2回の使用、3〜10回の使用、11〜100回の使用、100回以上の使用)と心筋梗塞の患者数を比較し分析した結果、大麻の使用により心筋梗塞の発症率が減少することが示されました。
この論文では心筋梗塞と赤ワインの関連性についても分析されています。赤ワインに含まれるポリフェノールは動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞のリスクを減少させると言われています。
ヨーロッパでは脂質の多い食事により心筋梗塞の発症率が高くなっていますが、フランスではなぜか発症率が低くなっています。この現象は”フレンチパラドックス”と呼ばれていますが、この要因の1つにフランス人が赤ワインを好むことが挙げられています。
今回の論文では、大麻の心筋梗塞の発症リスクを減らす効果は赤ワインに匹敵すると示されています。
ですが大麻の喫煙は、血圧変動や心拍数増加など心臓に負荷をかける変化をもたらすため、心臓にとって決していいと言えるものではありません。
よってこの論文では、大麻のストレスを軽減する作用が、心筋梗塞の発症率を減少させたのではないかと結論づけています。
ストレスは心筋梗塞を引き起こすリスクファクターとして知られていますが、一番のリスクは不健康な生活習慣による動脈硬化です。その生活習慣の1つとして、欧米食のような脂質の多い食生活が挙げられます。
過剰な油は体内で酸化されることにより過酸化脂質となり、動脈硬化の原因となります。
大麻には強い抗酸化作用があるため、欧米食によって体内で生じる有害な酸化物質から、血管を守ってくれるのかもしれません。
一方2018年の研究では、若年(50歳以下)の心筋梗塞の発症に大麻の使用が関与している可能性が指摘され、2001年の研究でも大麻の使用は、まれではあるが心筋梗塞の原因となりうることを示しています。
大麻と心筋梗塞の関係ついては研究が少なくはっきりしたことは言えませんが、すでに心臓の病気を発症したことのある人では、心臓に負荷をもたらす大麻の使用は推奨されないと考えられます。
また大麻の頻回摂取や、高濃度のTHC(テトラヒドロカンナビノール)を含有した大麻の使用も、心臓にとっていいとは言えないでしょう。
一方、欧米食中心の生活やストレス社会においては、適度な大麻の使用は心筋梗塞を予防する可能性があるかもしれません。今後の研究に大きな期待を持てると言えそうです。
ですが一番の予防法は、バランスのとれた食事、適度な運動、禁煙といった動脈硬化を防ぐ生活習慣であることを忘れてはいけません。