K2やスパイスなどで知られる「合成カンナビノイド」。大麻草に含まれる植物性カンナビノイドとは異なり、合成カンナビノイドは化学的に合成された成分です。
合成カンナビノイドは、かつて日本でも「脱法ハーブ」として市場で流通してしました。その後行政から規制されるようになるも、それをかいくぐるために”形”を変えて再度流通するという「いたちごっこ」が繰り返され、どんどん製品は粗悪で危険性を持つものとなっていきました。
大麻がもたらす精神活性作用はTHC(テトラヒドロカンナビノール)がCB1受容体を活性化することにより生じると考えられていますが、その活性作用は「部分的」なものです。また、大麻にはTHC以外にも様々な成分が含まれており、そのうちの1つであるCBD(カンナビジオール)にはTHCの負の作用を打ち消す作用があるとされています。
過剰摂取は別として、大麻はこのようにして「いい感じに」作用することで、人々のQOL(生活の質)に寄与しています。
それに対し、合成カンナビノイドはCB1受容体を「完全に」活性化するように作られているため、大麻のような「いい感じさ」はありません。このことから、合成カンナビノイドは自然由来の大麻では起こらないであろう健康被害をもたらす危険性があるとされています。
そもそも、なぜ合成カンナビノイドが使用されるのでしょうか?「コストが安い」「薬物検査に引っかからない」などといった理由もありますが、例えば日本で脱法ハーブが流行したのは「逮捕されないから」という部分が最も大きかったのではないでしょうか?
つまり逆を言えば「大麻で逮捕されることがなくなれば、合成カンナビノイドの需要が減少する」という仮説が生まれます。そしてまさにこれを裏付けるように2022年8月8日、嗜好用大麻が合法となった州では合成カンナビノイドの使用が有意に減少していたことがアメリカの研究者らにより報告されました。
研究者らは全米55ヶ所にある毒物管理センターを代表する機関AAPCC(American Association of Poison Control Center)が管理している毒物データベースNPDS(National Poison Data System)の2016〜2019年の合成カンナビノイド使用に関するデータ7600件をもとに、大麻の合法化が合成カンナビノイドの使用に与える影響について分析を行いました。
分析の結果、全米において2016年から2019年の間で合成カンナビノイドの使用は減少(2016年:2633件、2019年:1117件)。使用のほとんど(56%)が大麻が違法である州の人々において報告され、医療用大麻が合法である州では39%、嗜好用大麻が合法である州では5%となっていました。
嗜好用大麻が合法である州は違法である州よりも合成カンナビノイドの使用が37%少なくなっており、この関連性は統計的に有意となりました。なお、医療用大麻が合法である州は違法である州よりも13%少なくなっていましたが、統計的に有意とはなりませんでした。
さらに「医療用大麻のみ合法である州」「成人の大麻所持・使用が合法である州」「小売店での大麻の販売が許可されている州(最も大麻に寛容な州)」の3グループに分類し、これら3つの大麻政策と合成カンナビノイドの使用との関連性についても分析が行われました。
その結果、小売店での大麻販売が許可されている州では医療用大麻のみ合法である州と比べ、合成カンナビノイドの使用が36%少ないことが明らかとなりました。
つまりこれらの結果は、大麻に対する容認度が高い州ほど合成カンナビノイドの使用が少なくなっていたことを示しています。
なお、合成カンナビノイドの使用データ7600件のうち、64.8%(4921件)では治療が必要となり、61名が死亡していたことも報告されました。
「違法ではない」ことは、健康被害や安全性といった大切な部分を覆い隠してしまうリスクをはらんでいます。とはいえ、「違法である」大麻により逮捕されてしまうと、人生に多大な悪影響がもたらされてしまうのも事実です。
だからこそ、今一度考えて欲しいです。
「大麻で逮捕することに、果たして妥当性があるのか」ということを。