2022年5月17日、CBDA(カンナビジオール酸)が肥満症に対し有効性を示した論文が、イスラエルの研究者らにより公開されました。
近年、世界的に欧米食中心の食生活が広まり、加えて技術進歩に伴い座位中心のライフスタイルとなり、肥満や脂質異常症がより身近な問題となってきています。
肥満はライフスタイルだけでなく、遺伝により発症することもあり、その代表的なものとしてプラダーウィリー症候群(PSW)という指定難病があります。PSWでは肥満、過食、発達遅滞、筋緊張低下など多様な症状が認められます。治療は食事療法やホルモン療法などにより行われますが、これらは根治治療ではなく、効果も部分的であることが多いとされています。
エンドカンナビノイドシステムは肥満の治療標的としても注目され、2020年の論文ではCBD(カンナビジオール)を中心としたカンナビノイドにおいて、肥満症治療への有効性が論じられています。
今回の研究では、食事誘発性および遺伝性肥満モデルマウスに対するCBDAの有効性が検証されました。CBDAを生体内で安定させるため、この研究ではCBDA誘導体(EPM301。以前の名称はHU-580)が使用されました。
食事誘発性肥満モデルマウスにEPM301を投与した結果、脂肪量、体重、レプチンの血中濃度が減少し、糖代謝の改善も認められました。
※レプチンとは
脂肪細胞から分泌されるホルモン。食事を摂取することで放出され、満腹中枢を刺激することにより食欲を抑え、代謝を促進する。意外にも肥満の人ではレプチンの過剰分泌が認められるが、レプチンそのものの作用は減弱している(レプチン抵抗性)。
続いて遺伝性肥満モデルマウスに対しEPM301を投与した結果、有意な体重減少が認められ、食欲を抑制する可能性も示されました。この効果は健常マウスでも認められましたが、遺伝性肥満モデルマウスではより低用量で作用が認められ、EPM301に高い感受性があることが示されました。
肥満は脂肪肝や慢性腎臓病を発症させるリスクがあることで知られています。そのため、ヒト肝癌由来細胞株とヒト腎臓細胞株をEPM301で処理し、肝臓や腎臓に対する保護能力の検証も行われました。その結果、EPM301はこれらの臓器における脂質の蓄積を抑制し、保護することが示されました。実際に食事誘発性肥満モデルのマウスでは、クレアチニンクリアランス低下などの腎障害を示す所見が認められましたが、EPM301の投与により改善が認められました。
食事誘発性・遺伝性肥満モデルマウスに対しEPM301が高い有効性を示した今回の研究結果は、今後臨床試験実施に向けた根拠になると、研究者らは述べています。
なお、肥満はうつ病と関連することが指摘されており、今回の研究でも食事誘発性肥満モデルマウスにおいて抑うつ症状が認められました。ですがこの症状も、EPM301投与により改善することが示されました。
2018年のイスラエルの研究では、うつ病モデルマウスにEPM301(当時はHU-580)を投与することにより、抑うつ効果が認められています。
これらのことから、CBDAは肥満症の改善だけでなく、うつ病を改善する可能性もあると考えられます。
なお今年1月、CBDAには新型コロナウイルスの感染を予防する可能性があることも、アメリカの研究者らにより報告されています。