7月31日、勤務後や休日に大麻を使用する人は非使用者と比べても労働中に怪我をするリスクに変わりはなく、労働規則においてプライベートでの”ハイ“まで全面的に禁止するのは過度である可能性がカナダの研究で示されました。論文は「Canadian Journal of Public Health」に掲載されています。
大麻を使用すると一時的に運動や認知機能の低下が認められることがあり、このことから大麻が合法な国や州であっても、その影響下で車を運転することはアルコールと同様に禁止されています。また、トラックの運転手、重機を扱う仕事、高所での作業など、安全に配慮が必要な仕事に関しても、プライベートで大麻の使用が禁止される場合が多くなっています。
大麻の使用と労災リスクの関連を検討した研究はいくつかありますが、研究によって結果が異なり、一貫性がありません。
カナダの労働者を3年間調査した研究
カナダのトロント大学や米国ニューヨーク州のバッファロー大学などの研究者らは、上記のような一貫性のない報告について、研究方法が原因となっている可能性を指摘。
具体的に、ほとんどの研究が横断的研究(ある一時点の調査データを分析)であること、職種を区別して関連性を調べていないこと、一口に大麻使用と言っても、どのタイミングで大麻を使用しているのかが明らかになっていないことを挙げました。
これらを踏まえ、研究者らはカナダの18歳以上の労働者を対象とした縦断的研究(長期間に渡って複数行った調査データを分析)を実施。2018〜2020年の間で3回調査を行い、大麻の使用状況や労災についてのデータを収集しました。
調査では仕事に関する特徴に加え、過去1年以内に大麻を使用したと回答した人に関しては、使用のタイミング(勤務開始2時間以内や勤務中、それ以外の時)についても質問。
集められたデータから、大麻の使用が労災のリスク上昇に関連するのか、勤務前・中とそれ以外の大麻使用、あるいは職種によってリスクに差があるのかが分析されました。
勤務外の大麻使用は労災リスクと関連せず
解析対象に含まれたのは2,745名(男性58.5%、平均年齢46.2歳)で、37%が安全に配慮が必要な職場に従事。全体の11.3%が労災を経験しており、その割合は安全に配慮が必要な労働者では22%、それ以外の労働者では4.9%となっていました。
65.5%が過去1年以内に大麻を使用せず(非使用者)、27.4%が過去1年以内に仕事後や休日に大麻を使用し(勤務外の大麻使用者)、7%が過去1年以内に勤務開始2時間以内や勤務中に大麻を使用(勤務中の大麻使用者)していました。
全回答者において、労災の発生は非使用者で10.2%、勤務外の大麻使用者で11.1%、勤務中の大麻使用者で20.1%。勤務中の大麻使用者は非使用者と比べ労災の発生が約2倍高くなっていましたが、勤務外の大麻使用者と非使用者の間では統計的に有意な差が認められませんでした。
安全に配慮が必要な労働者においても、非使用者(20.1%)と勤務外の大麻使用者(23.3%)で有意差が認められず。しかし、勤務中の大麻使用者では31.2%と他の2群よりも高い結果に。
それ以外の労働者でも、非使用者(4.3%)と勤務外の大麻使用者(4.2%)で差はなく、勤務中の大麻使用者(12.3%)では労災のリスクが高くなっていました。
勤務外の大麻使用まで禁止するのは「過度」
今回の研究では、勤務外の大麻使用者と非使用者との間で労災リスクに差が認められなかった一方、勤務中の大麻使用者ではそのリスクが高くなり、このような結果は職種に限らず同様であったことが示されました。
研究者らはこれらの結果について、労働者の大麻使用が安全面に与える影響を検討する際、最後にいつ大麻を使用したのかを考慮することが重要であることを示しているとしています。
また、「この調査結果は、職場の障害に関する雇用者の正当な懸念を弱めるものではない」としつつも、「職場外での使用も含めて大麻の使用を全面的に禁止するゼロトレランス・ポリシーは、過度に範囲が広すぎる可能性があり、本研究の結果とは一致しません」と述べています。
代わりに研究者らは、大麻の合法化が進む中で正当化されるアプローチの1つとして、大麻使用後の待機時間を設けることを挙げ、ある研究では安全に配慮が必要な業務を行う際、大麻を吸ってから6〜12時間期間を空けることが推奨されていると紹介しています。
なお、この研究では大麻の摂取方法やカンナビノイドの比率、労災の重症度などが考慮されていないことや、自己申告による調査のためバイアス(偏り)が生じやすいリスクがあるなどの限界があるとされています。
「大麻は労働力を低下させるのではないか?」という懸念があるかもしれませんが、これまでの研究では「単純にそう考えるべきではない」ことが明らかにされています。
全米経済研究所(NBER)は2022年末、嗜好用大麻の合法化が雇用や収入の低下と関連せず、むしろ部分的にこれらを増加させていたことを報告。
シドニー大学の研究者らによって公開されたシステマティックレビューでは、大麻使用が翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼすとするエビデンスは非常に限られており、アルコールと比べてもその可能性が低いことが報告されています。
大麻の使用は意欲ややる気を損なわせる「無動機症候群」を引き起こす可能性があるという指摘もありますが、ロンドン大学とケンブリッジ大学の研究チームは、週4日程度の大麻使用が無動機症候群の発症と関連しなかったことを報告。
なお、州レベルで大麻の合法化が進むアメリカでは、雇用において大麻使用者を保護する動きが活発化しており、最近ではミシガン州が公務員に対する雇用前の大麻検査を廃止しています。