自閉症スペクトラム(ASD)とは、こだわりが強く、コミュニケーションが苦手といった特徴を持つ発達障害の1つです。重症度は異なるものの、今では100人に1人がASDであるとも言われています。
2021年11月にはASDをテーマにした邦画「梅切らぬバカ」が公開されました。塚地武雄、加賀まりこが親子役で共演しています。老いた母が自分亡き後を考え、ASDの息子を自立させるための道を模索していくお話となっています。
ASDは”病気や障害”ではなく、”個性”としてとらえるべきだと考えられています。ですがその特性上、社会生活に適応するのが難しく、二次障害を抱えてしまうことが多いです。
そんなASDに対し、海外ではCBDや医療大麻が有効である可能性が指摘されています。
この記事ではASDについての基礎知識、ASDとCBD・医療大麻についてお話していきます。
目次
自閉症スペクトラム(ASD)とは?
ASDは神経発達障害の1つで、
①興味関心の限定
②対人コミュニケーションが苦手
③繰り返し行動
といった特徴がみられます。他にも抽象的なことを理解するのが難しいという特徴や、人によっては聴覚や触覚が過敏だったりするケースもあります。
合併しやすい病気として、てんかんや注意欠如・多動性障害(ADHD)があります。
ASDの原因
はっきりとした原因は不明です。遺伝的要因が明らかになってきてはいますが、他にも高齢出産、妊娠糖尿病、出生時の低酸素、さらには腸内細菌や免疫系といった環境要因も関係していると言われています。
現在ではこれらの相互作用が最も有力だと考えられています。
育て方は全く関係ありません。
ASDの診断
生後18ヶ月よりM-CHATでスクリーニングが可能となっているため、早ければ1歳半健診でASDの可能性が指摘されます。
確定診断に重要なのは、親や関係者の観察情報(特に幼少期)です。現時点ではMRIやCTによる画像、脳波、心理検査だけでは診断できません。ただしこれらの検査は、脳の病気を診断から除外するためには必要となります。
ASDの子どもの特徴
ASDはライフステージによって、様々な特徴がみられます。
乳幼児期(6歳まで)
・目が合わない
・名前を呼んでも振り向かない
・他者のマネをしない
・他の子どもに関心がない
・言語発達の遅れ
・オウム返しが多い
・同じ言葉・行動を繰り返す
・いつもと違う場所に物を置くと、強い不快感を示す
小学生(6〜12歳)
・あいまいな指示が分からない
・暗黙の了解が苦手
・たとえ話を理解するのが難しい
・他の人とうまく距離をとれない(孤立したり、密着しすぎるなど)
・言葉の表現が不自然に細かく、かたい
・突然の変更に対応できない(時間割変更など)
・熱中していることを中断されると異常に怒る
・手先の細かい動きや、協調運動が苦手(逆上がりや自転車など)
中学生以降もこだわりが強かったり、対人関係が苦手なのは変わりません。大人に近づくにつれ社会性を求められていくことから、どんどん生きづらさを感じるようになり、二次障害を抱えることが多くなります。
ASDによる二次障害
ASDの人は周囲の人とうまく付き合うことができず、いじめられることも少なくありません。多大なストレスを抱え、生きづらさを感じやすいです。
これらが原因となり、様々な身体・精神症状がみられることがあります。
身体症状:頭痛、腹痛、食欲低下、チックなど
精神症状:激しいかんしゃく、落ち着かない、不登校・登園しぶり、ケンカが絶えない、不眠、不安、強迫症状、暴力・自傷行為、抑うつなど
ASDの治療
根本的な治療はなく、二次障害を起こさないことが焦点となります。そのために大事なのが療育です。
療育とは、ライフステージごとに一人ひとりの特徴によって生じた問題を解決したり、自立や社会参加を目指して教育的にサポートをすることです。子どもだけでなく、ご家族の支援も実施されます。
児童発達支援センターや児童発達支援事業所といった公的施設だけでなく、病院やクリニック、民間施設でも受けることができます。
療育は早期から行うことで、ASDの二次障害を予防できると言われています。
もし二次障害が生じた場合や合併している病気がある場合には、状況に応じて薬物治療が行われます。
・気分安定剤(双極性障害)
・抗うつ薬(うつ病・強迫性障害)
・抗不安薬(不安障害)
・非定型抗精神病薬(興奮しやすさ、攻撃性、パニックなど)
・睡眠薬(不眠、睡眠障害)
・抗てんかん薬(てんかん合併)
・ADHD治療薬(ADHD合併)
1番大切なのは、私たち一人ひとりがASDについて理解することです。
ASDの特徴を理解していれば、あいまいな表現をさけたり、無理に作業を中断させたりしないですよね。接し方が大きく変わってくるはずです。そうすればASDの人もストレスが少なくなりますよね。
またASDの人は「自分は他の人とは違う」と思ってしまい、自信がなくなっていく傾向にあります。そのため親を中心とした周りの人たちは、ASDの人に対して肯定的に関わることが重要です。ぜひ、積極的に褒めるようにしてみて下さい。
ASDとCBD
CBD(カンナビジオール)はASDを根治するものではありません。CBDに期待されるのは、主に二次的症状の緩和や予防です。
CBDがASDに対し治療効果があることは示唆されていますが、まだまだ研究が少なくエビデンスは不十分です。
ただ一方で、NORMLの記事で興味深い調査結果が報告されています。
アメリカ国民約16万人を対象にメールで調査を行ったところ、回答者のうち22%(約3万人)がASDの子どもにCBDを使用していることが分かりました。その目的は「攻撃性の軽減」「頭痛や腹痛の緩和」「睡眠の改善」が多かったようです。
しかもそのうち83%(約2万5千人)が、ASDの子どもへのCBDの利用をおすすめすると回答しています。つまりそれだけ効果が高いということでしょう。
このようにCBDがおすすめされる背景には、CBDはTHC(テトラヒドロカンナビノール)とは異なり、精神活性作用がないことがあります。他にも、未成年のTHC摂取による有害現象が指摘されていることも関係しているでしょう。
要は「CBDなら安全だろう」という考えですね。
ASDに対するCBDの治療効果のエビデンスは少ないですが、ないわけではありません。
2018年の研究においては、ASDの人の血液中のアナンダミドの量が少ないことが明らかになっています。このことから、ASDの特性や二次障害とアナンダミドとの間にはなんらかの因果関係があるという仮説が成り立ちます。
アナンダミドはエンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)と呼ばれる神経伝達物質の1つで、ホメオスタシスを維持するために働いています。
ホメオスタシスとは?
外部の環境に左右されることなく、体内環境を一定に保つ自動調節機能。免疫・ホルモン・自律神経などのバランスを調整し、生命を維持する働きをもつ。
アナンダミドは生成されても酵素により数秒で分解されてしまいますが、CBDにはこれを阻害する作用があります。つまり分解されずそのまま体内に残ってくれるため、アナンダミドの量が増えるということになります。
そのため、CBDがASDに有効であるというのは理論上成り立つと言えるでしょう。
ASDの二次的症状は、生きづらさを感じたり、ストレスが蓄積することで生じます。頭痛や腹痛などの身体症状を伴っていたとしても、心因性によるものがほとんどです。
これまでの研究によると、アナンダミドはCB1受容体と結合することで、抗不安作用をもたらすと言われています。さらにCBDはセロトニン受容体を活性化させ、抗うつ・抗不安作用を発揮すると報告されています。
セロトニンとは?
神経伝達物質の1つであり、精神を安定させる働きを持つ。幸せホルモンとも呼ばれる。うつ病の人では脳内のセロトニン量が少なくなっていることが明らかになっている。
この作用により精神的に安定するのを助けてくれるので、二次障害を防ぐことができると考えられます。
有効性もさることながら、気になるのがCBDの安全性だと思います。
欧米では、難治性のてんかんに対しエピディオレックスという高濃度CBD製剤(100mg/ml)が使用されています。これはFDA(アメリカ食品医薬品局)から正式に承認されています。適応年齢は2歳以上となっています。
エピディオレックスの添付文書によると、副作用の出現率は10%以下で、具体的なものとして体重や食欲の変化、下痢、疲労感などがありますが、特に重篤なものは報告されていません。
ただしアレルギー症状がでることや、摂取量が多いとまれに肝臓に問題が生じることもあります。このあたりは他の薬と同様になります。
ASDと医療大麻
ASDに対するCBDの医療効果についてお話してきましたが、実は海外の研究では、そのほとんどがCBD単体ではなく、THC(テトラヒドロカンナビノール)も少量含むオイルを使用しています。
日本では大麻は違法となっており、THCも量に関係なく現時点では取り締まりの対象になりうるものとなっています。
つまりこれから話す内容は、ASDに対し医療効果がある可能性はありますが、日本では違法ということになります。
2018年のイスラエルの研究では、重度な問題行動を抱えるASDの子ども60人を対象にCBDを多く含む大麻(CBD・THCの比率は不明)を治療として使用したところ、61%(約35人)で問題行動が改善されたと報告されています。
副作用は睡眠障害(9%)、イライラ(9%)、食欲不振(9%)でした。1名だけ高濃度のTHCを含有した大麻を使用した少女が、一過性に精神症状が悪化し、抗精神病薬による治療が必要となっています。
2018年の別のイスラエルの研究では、ASDの子ども53名に対しCBD:THC=20:1のオイルを使用し、以下のように報告しています。
・自傷行為や興奮のある人(34名)のうち67.6%で改善し、8.8%で悪化。
・多動性のある人(38名)のうち68.4%で改善、28.9%で変化なし、2.6%で悪化。
・睡眠障害のある人(21名)のうち71.4%で改善し、4.7%で悪化。
・不安のある人(17名)のうち47.1%で改善し、23.5%で悪化。
副作用としては主に傾眠と食欲の変化が認められています。
2019年のイスラエルの研究では、2015〜2017年の間に医療大麻(ほとんどがCBD:THC=30:1のオイル)で治療を受けたASD患者188名からデータを収集しました。
積極的に治療を継続したのは82.4%(155人)で、このうち60%(93人)を評価したところ、30.1%(28人)で大幅な改善、53.7%(50人)で中等度の改善、6.4%(6人)が軽度の改善、8.6%(8人)で変化なしと報告されています。
つまり程度は異なるにせよ、約9割の人で医療効果がみられたということになります。
副作用は25.2%(23人)で1つ以上認められ、1番多かったのは落ち着きのなさ(6.6%)でした。
2021年12月に報告されたトルコの論文では、平均年齢7.7±5.5歳のASDの子ども33名に対し、CBD(平均0.7mg/kg/日)に3%未満のTHCを含有したオイルを2年間使用した結果が報告されています。
子どもの両親から状況を確認したところ、6名では変化がありませんでしたが、10名で問題行動の減少、7名で表現言語の増加、4名で認知能力の改善、3名で社交性の改善、1名でこだわりの減少が認められました。
このうち1名の軽度のASDの子どもだけ、抗精神病薬の使用を中止することができたと報告しています。
では、なぜ日本では違法とされるTHCが少量だけ使用されたのかを考えてみましょう。
CBDやTHCはともに大麻草に含まれるカンナビノイドです。カンナビノイドとは大麻草にのみ存在する医療効果のある成分であり、100種類以上あることが分かっています。カンナビノイドにはお互いの効力をより高め合うという作用があります(これをアントラージュ効果といいます)。
つまりCBD単体よりも、THCも含まれていたほうが医療効果が高まるということです。
またTHCはCBDと作用機序が異なり、直接カンナビノイド受容体に作用するという特徴があります。よってダイレクトにCB1受容体を活性化することにより、CBDと同等か、それ以上の効果が期待できます。
ただしTHCはその効果の強さから、問題視もされています。特に未成年でTHCを頻繁に摂取すると、脳の発達に影響がでる、精神疾患になりやすい、依存症になりやすいといった可能性も指摘されています。それゆえTHCの量には細心の注意を払う必要があるため、少量であったと考えられます。
ASDに対する高用量のTHCの効果に関してはエビデンスがなく、現時点では何とも言えません。
まとめ
ASD、ASDに対するCBDと医療大麻の医療効果についてみてきました。
・ASDの人はこだわりが強く、対人関係が苦手といった特徴を持つ。
・生きづらさやストレスを感じやすく、しばしば二次障害が問題となる。
・根本治療はなく、周囲の理解や療育が大切となる。二次障害や合併症に対しては薬を使うことがある。
・ASDに対するCBDや医療大麻の効果に関する研究は不十分ではあるが、有効である可能性は指摘されている。
・口コミ的には、CBDはASDに対し有効であるという声が多い。
・CBD単体よりも、少量のTHCも含まれていたほうがASDに対して医療効果が高い可能性がある。
1番大事なのはCBDでも医療大麻でもありません。私たち一人ひとりがASDについて理解し、受け入れていく姿勢を持つことです。ASDの人が生きづらさを感じないようにすれば、二次症状の発症を防ぐことができるからです。あくまでCBDはそれをサポートする立ち位置です。
ASDの人は興味が限定されている分、その分野において高い能力を発揮することがあります。例えばシンガーソングライターの米津玄師や、世界長者番付で1位となったイーロン・マスクはASDであることを公表しています。ASDを”病気や障害”ではなく”個性”ととらえるべき理由は、こういうところからも分かります。
つまり、周囲の人の関わり方次第でASDの子どもの未来は大きく変わってくるとも言えるでしょう。