「患者のリアルな声」は大麻に対する否定的感情を変化させる

「患者のリアルな声」は大麻に対する否定的感情を変化させる

- アメリカの調査研究

州レベルで大麻の合法化が進んでいるアメリカですが、全米(連邦法)では依然として違法となっています。

法律で禁止されているものは、どうしても「悪いもの」という認識を生んでしまいます。そういった「スティグマ」は、大麻を使用することで医療的恩恵を受け得る人にとって大きな障壁となることがあります。

不思議なことに、物事に対する人の認識はふとした瞬間に変わることがあります。それは親しい友人や恋人との何気ない会話の中であったり、映画を観ることによっても起こりうるでしょう。おそらくこれらにみられる「疑似体験」のような感覚や感情移入が、自分にとって身近ではなかったことに対する認識に大きく影響を与えるように思えます。

つまり大麻においても、実際に大麻で医療的恩恵を受けている人のエピソードを聞くことにより、大麻に対する否定的な感情が減るのではないかという仮説が浮かび上がってきます。

そしてこれを証明するように今月24日、患者の個人エピソードが医療用大麻に対する肯定的感情を高めたことがアメリカの研究者らにより報告されました。

この研究では、まず参加者の医療用大麻に対する考え方や認識をMMCAS(The Modified Medical Cannabis Attitudes Scale)にて評価。これは医療用大麻の認識に関する5つの質問に対し「全くそう思わない(1点)」〜「非常にそう思う(5点)」の5段階で評価してもらうことにより行われました。

その後、医療用大麻使用者の2つのエピソードに対する質問(PS:Patient Scenario)に対し、同様に5段階で評価を行ってもらいました。

前者(MMCAS)は総得点が5〜25点、後者(PS)は2〜10点となっていましたが、これらは調整により5〜25点の範囲で標準化されました。

なお、医療用大麻使用者の個人エピソードに対する質問は以下の通りです。

エピソード1

クリステンは兵役の後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。PTSDの原因となった出来事が夢で何度も出てくるため、彼女はひどい睡眠障害に悩まされるようになった。そのため日中の疲労感が強く、働くことも難しくなり、結婚生活にも影響するようになった。

彼女は友人の勧めで医療用大麻を試してみた。すると悪夢を見る回数が少なくなり、よく眠れるようになった。

あなたはクリステンがPTSDの症状緩和のために医療用大麻を使用することに賛成しますか?

エピソード2

ジャーメインは大きな交通事故に遭って以降、慢性疼痛に悩まされるようになった。仕事をやめ、障害者手帳を取得しなければならないほど衰弱していた。オピオイドの増量とともにぼんやりとした状態が続くようになったため、ジャーメインの妻はオピオイドの減量を目的として彼に医療用大麻の使用を勧めた。

ジャーメインは大麻を使用することでオピオイドだけに頼らずに痛みをコントロールできるようになり、意識も以前よりはっきりとするようになった。彼はまた仕事ができるようになることを望んでいる。

あなたはジャーメインが慢性疼痛のために医療用大麻を使用することに賛成しますか?

参加者は645名となり、このうち大麻を使用したことがある人は72.2%(466名)でした。現在も大麻を使用している人は64.6%(301名)で、医療目的で大麻を使用している人は20.2%(94名)でした。

大麻が違法である州の住民は10.8%、医療用大麻のみが合法である州の住民は14.4%、医療・嗜好用大麻が合法である州の住民は74.8%となっていました。

調査の結果、医療用大麻の態度に対する評価(MMCAS)の平均スコアは19.97点となりました。

大麻使用者の個人エピソードに対する質問(PS)では、エピソード1に対しては76.1%、エピソード2に対しては75.7%が「非常にそう思う」と回答し、平均スコアは23.03点となっていました。PSにおいてMMCASより高い評価をした人は77.0%となり、この差は統計的にも有意となりました。

研究者らは「医療用大麻に対するスティグマが残っていると、患者は大麻の恩恵を受けることが難しくなる。医療用大麻に対する認識は、患者の体験談に触れるか触れないかによって差が生じることがある。今回の結果は、『実際に大麻で恩恵を受けている患者の声』が医療用大麻に対するスティグマを軽減するのに有効であることを示している」と述べています。

現在日本で「大麻」は取締りの対象となっており、加えてメディアや教育により拍車が掛けられ、日本国民の大麻に対するスティグマはアメリカよりも強固なものとなっていると考えられます。当然のことながら、国内において大麻の恩恵を受けている人の声を届けるのは非常に難しい状況となっています。

筆者はこれまでにいくつかの「症例報告」を記事にしています。症例報告とは、上記のような個人エピソードのことです。

症例報告はエビデンスレベルとしてはかなり低いため、わざわざ記事にする必要はないのではないかと思う人もいるでしょう。ですがこの研究で示されたように、疑似体験・感情移入できるような「個人の話」と触れることは、大麻に対する認識を変えるきっかけになり得ると筆者は信じています。

なぜなら、人は「感情」で動く生き物なのだから。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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