変形性関節症患者、医療用大麻の使用で痛みやQOLなど改善

- イギリスの観察研究

変形性関節症患者が医療用大麻の使用により痛みやQOLなどの改善を実感していたことが報告されました。論文は「Journal of Pain & Palliative Care Pharmacotherapy」に掲載されています。

関節には「関節軟骨」と呼ばれる部位があり、衝撃の吸収や滑らかな動きを可能にすることで、関節を保護する役割を果たしています。

変形性関節症とは、関節軟骨がすり減ることで生じる関節の機能障害です。関節軟骨の変性・摩耗により炎症が起き、さらに関節周囲の骨に骨棘(とげの形をした余分な骨)が形成されることにより、痛み、腫れ、関節の変形や可動域制限などの症状が認められます。

変形性関節症は肩、肘、手、股、膝、脊椎など、様々な部位で発症します。特に、高齢の女性では変形性膝関節症、高齢の男性では変形性腰椎症が多くみられます(日本の推定患者数は前者で2,500万人以上、後者で3,700万人以上)。

変形性関節症は原因が明らかでない「一次性変形性関節症」と、病気や怪我が原因で発症する「二次性変形性関節症」に分類されます。

一次性変形性関節症は加齢、性別(女性)、遺伝、関節を支える筋力の低下、肥満などが関連していると言われています。二次性変形性関節症の原因としては、脱臼・骨折、関節リウマチ、代謝性疾患、内分泌疾患、感染症などが挙げられます。

変形性関節症治療の第一選択は保存療法です。具体的には、関節周囲の筋力トレーニングやストレッチなどを行うことで関節の安定性を高めたり、杖や装具を使用することで関節の負担を軽減するといったことが行われます。

痛みが出る場合は鎮痛薬を服用しますが、人によってはヒアルロン酸やステロイドを関節内に注射することもあります。

これらの治療でも改善が認められない場合は、損傷した関節を人工関節に置き換えるなど、部位や病状に応じた手術が行われます。

変形性関節症と医療用大麻

大麻やカンナビノイド鎮痛作用抗炎症作用を有することで知られており、変形性関節症においても有効性が期待されています。

大麻やカンナビノイドは、主にECS(エンドカンナビノイドシステム)と呼ばれる神経系に作用することで医療効果をもたらすと考えられています。

2008年の研究では、変形性膝関節症患者の滑膜においてCB1受容体CB2受容体の発現が確認され、関節液では健常者で検出されなかったアナンダミドと2-AGといったエンド(内因性)カンナビノイドが検出されました。これらのことは、ECSが変形性関節症の治療ターゲットとなる可能性を示しています。

滑膜:関節を覆う膜で、関節液を分泌する。

関節液(滑液):関節を覆う膜の中を満たす粘稠性の高い液。摩擦を軽減し、関節軟骨に栄養を供給する。

実際に変形性関節症モデルマウスの研究では、CB1受容体とCB2受容体の活性化が痛みや感情面での改善をもたらしています。また、変形性関節症モデルラットにアナンダミドの分解酵素を阻害する薬剤を投与した結果、痛みや抑うつ行動などが改善したという報告もなされています

大麻やカンナビノイドが変形性関節症患者において有効なのかはまだ明らかとなっていませんが、有望な研究結果がいくつか報告されています。

例えば、アメリカの観察研究では、変形性関節症患者40名が6ヶ月間医療用大麻を使用した結果、オピオイドの処方量が減り、痛みやQOLが有意に改善したことが報告されています。

関節炎患者を対象としたアメリカの調査では、回答者の約7割がCBDの使用経験を報告し、CBDの使用により痛み、睡眠、機能障害が改善し、中には鎮痛薬を減薬・中止した患者もいたことが明らかにされています

医療用大麻治療を受けた患者の追跡調査

イギリスの超名門校「インペリアル・カレッジ・ロンドン」の研究者やロンドンにある医療用大麻クリニック「Curaleaf Clinic」の医師らは、変形性関節症に対する医療用大麻の有効性と安全性を評価するため、12ヶ月間の追跡調査を実施。

調査の対象となったのは、イギリス医療用大麻レジストリ(UKMCR)に登録を行い、主に変形性関節症の症状緩和目的でCuraleaf Clinicで医療用大麻治療を開始した77名(女性62%、平均年齢60歳)。

参加者は治療開始から1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月後に痛み(BPI、SF-MPQ-2)、不安(GAD-7)、睡眠(SQS)、健康関連QOL(EQ-5D-5L)について自己評価するよう求められました。

BPI(Brief Pain Inventory)

痛みの強さと、痛みによる感情や行動への障害の程度について、0(なし)〜10(最悪)で自己評価する尺度。

SF-MPQ-2

痛みの自己評価尺度。「持続性」「間欠性」「神経障害性」「感情性」の4カテゴリーにおいて、それぞれ0(なし)〜10(最悪)で評価。総スコアは全カテゴリーの平均スコアとして算出される。

EQ-5D-5L

健康関連QOLに対する自己評価尺度。「移動の程度」「普段の生活」「身の回りの管理」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」といった5つのドメインに対し評価が行われる。

大多数がTHCとCBDが含まれた製品を使用

参加者の大多数(94.8%)が、THCとCBDが両方含まれた医療用大麻製品の処方を受けていました。

THCとCBDの投与量の中央値は、それぞれ105.0mg/日、25.5mg/日。摂取方法として多かったのは、オイルによる経口・舌下摂取(42.9%)、経口摂取と気化摂取の併用(45.5%)でした。

具体的には、オイル製品であるAdven20(THC20mg、CBD1mg未満)やAdven50(THC4mg、CBD50mg)、ドライフラワー製品であるAdven EMT1(THC19%、CBD1%未満)が多く処方されていました。

なお、治療開始前の時点において、参加者の半数(50.7%)が大麻の使用習慣があることを報告していました。

痛み、不安、睡眠、QOLが有意に改善

医療用大麻の使用により、参加者全員の痛みと痛みに伴う障害の改善が認められました。しかし、医療用大麻治療開始時にオピオイドを使用していた患者(44.2%)において、オピオイドの減薬は観察されませんでした。

痛みへの効果
Source:Journal of Pain & Palliative Care Pharmacotherapy「Assessment of Clinical Outcomes in Patients With Osteoarthritis: Analysis From the UK Medical Cannabis Registry」

不安(GAD-7)については3ヶ月後まで、睡眠(SQS)については6ヶ月後まで有意な改善が認められました。健康関連QOL(EQ-5D-5L)は「痛み・不快感」のドメインにおける改善とともに、6ヶ月後まで有意な改善が観察されました。

副作用は許容できるレベル

17名が合計218件の副作用を報告。このうち34.9%は軽度、47.7%は中等度の副作用であり、命に関わる副作用は報告されませんでした。

報告された副作用として多かったのは、疲労(17件)、眠気(15件)、不眠(14件)、倦怠感(14件)、便秘(12件)などでした。

これらの結果から、著者は「総じて、PROM(患者報告アウトカム尺度)には一般的な傾向がみられ、12ヶ月後と比較して追跡調査の早い段階で疼痛と全般的なHRQOL(健康関連QOL)の大幅な改善が認められた」

「これらの結果は、CBMP(大麻ベース医薬品)の治療開始後における変形性関節症患者の疼痛関連アウトカムの改善を示唆している。さらに、追跡期間を通じて一般的なHRQOLの指標にも改善がみられた。また、CBMPは12ヵ月後の追跡調査においても良好な忍容性を示した」と述べています。

12ヶ月後のフォローアップにおいて疼痛以外のアウトカムで改善が認められなかったことについては、患者の大部分が追跡不能になったこと、大麻治療への耐性の可能性、病状の進行などの可能性があると著者は考察しています。

なお、この研究には、因果関係を明確にできないこと(医療用大麻が改善をもたらしたとは断定できない)、バイアスリスク、サンプルサイズが小さいことなど、いくつかの限界があります。

そのため、著者は今回の研究結果について、変形性関節症患者を対象とした医療用大麻の臨床試験を実施することの正当性を支持するものであると結論づけています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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